「出社したくない」「自民党って泥棒なん?」 通勤手当に“課税”検討がSNSで大顰蹙! 課税の弊害は? 移動コストと経済の視点から考える(Merkmal 2025.1.31)
本間めい子(フリーライター)
政府が通勤手当への課税案を検討中だが、この制度変更は従業員の負担増にとどまらず、企業戦略や居住地選択にも深刻な影響を及ぼす可能性がある。短期的な税収増を狙う一方で、長期的には消費活動や地域格差拡大などの副作用も懸念される。本稿では、通勤コストの視点からこの改革の弊害と、それに代わる政策提案を考える。
通勤手当課税の波紋
現代ビジネスが2025年1月27日に配信した「「通勤手当に課税」「独身税」まで…日本人はいつの間にか「大増税」されていた! 国民を苦しめている「ステルス増税」のヤバすぎる実態」という記事が注目を集めている。X(旧ツイッター)では「通勤手当」がトレンド入りした。
現在、企業が支給する通勤手当は
「月15万円まで非課税」
とされている。しかし、政府はこの非課税枠の廃止と、給与と同様に通勤手当を課税対象とする案を検討している。もし実施されれば、働く人々の負担はどう変わるのか。また、企業や社会全体にはどのような影響が及ぶのか。SNS上では、
「意味わからない」
「我々の税金でやりたい放題」
「出社したくないんだけど」
「働くなってこと?」
「必要経費です。自民党って泥棒なん?」
「ほなら自動車税とガソリン税無くしてくれや」
「反対運動に持っていきましょう」
「国民との感覚のズレが半端でないね」
といったコメントが寄せられている。本稿では、移動コストの視点からこの制度変更がもたらす可能性のある弊害を掘り下げていく。
企業負担の通勤費用構造
通勤手当が非課税とされている理由は、通勤にかかる費用が「働くために必要な経費」として認識されてきたからである。
多くの企業では、従業員の居住地に関係なく、
「勤務地への移動」
を前提に業務が構築されている。そのため、通勤費用は個人ではなく企業が負担するのが一般的だ。もしこの費用を従業員の所得として課税すれば、手取り額が減少し、実質的な負担増加につながる。
さらに、日本の都市では勤務地によって住宅価格が大きく異なる。都心に住めば通勤時間は短縮できるが、家賃は高くなる。一方、郊外に住むと家賃は抑えられるが、通勤費用が増える。このような選択肢を提供するためにも、通勤手当の非課税措置は合理的な制度といえる。
課税がもたらす影響
もしこの非課税措置が廃止されると、さまざまな影響が考えられる。
まず、通勤手当に課税されることは、従業員の手取り額の減少を意味する。例えば、月3万円の通勤手当を受け取っている場合、税率10%で課税されると、手取りは3000円減少し、年間では3万6000円の負担増となる。
このような給与の減少は単なる手取りの減少にとどまらず、消費活動にも影響を及ぼす可能性がある。特に、生活費を多く占める中間層以下の世帯では、支出の見直しを余儀なくされ、飲食業や小売業などの消費関連産業に悪影響が出ることが考えられる。
次に、企業の人事戦略にも影響を及ぼす。従業員の手取り額を維持するためには、通勤手当を増額するか、基本給を引き上げる必要がある。しかし、すべての企業がこの対応を取れるわけではない。特に中小企業にとっては、人件費の増加が経営を圧迫し、採用や賃上げに対する余力を削ぐことになる。
さらに、通勤手当が課税対象となることで、企業側が通勤補助を縮小する動きが出てくる可能性もある。特に在宅勤務を推進している企業では、通勤手当を支給しない方針に転じることも考えられる。
最後に、通勤手当の課税は、居住地選択にも影響を与える。現行の非課税制度があることで、従業員は職場から離れた郊外や地方都市に住む選択肢を持つことができる。しかし、通勤コストが個人負担となれば、こうした選択肢は難しくなり、都心回帰が進む可能性がある。だが、都心には十分な住宅供給がないため、家賃がさらに高騰すれば、低所得層にとっては負担が増し、居住環境の格差が拡大する恐れがある。
企業と労働者の選択肢縮小
政府の狙いは税収を確保することにあると考えられるが、実際に税収増につながるかどうかは疑問が残る。
通勤手当が課税対象となることで、企業や労働者の行動に変化が生じ、必ずしも期待通りの税収が得られるわけではない。例えば、企業が通勤手当の支給を減額したり、在宅勤務を拡大したりすれば、結果として通勤手当の支給総額が減り、課税対象が縮小する可能性がある。
また、消費活動の冷え込みが進めば、消費税や法人税の税収に悪影響を与えることも考えられる。短期的には所得税収が増加するかもしれないが、長期的には全体の税収にマイナスの影響を及ぼす可能性もある。
通勤手当に課税することによる弊害を考慮すれば、政府は別の方法で税収を確保する道を探るべきだ。
例えば、都市部のオフィス集中を是正し、地方移住を促進するための税制優遇措置を導入することで、通勤そのものの負担を減らす方向性を検討する価値がある。また、企業が負担する社会保険料の見直しや、法人税の適正な課税によって、より公平に財源を確保する方法も模索すべきだ。
さらに、通勤コストを下げるためのインフラ整備も重要だ。公共交通機関の運賃引き下げや、通勤時間帯の混雑緩和策を進めることで、通勤手当に依存しない働き方を実現する環境を整備することも、ひとつの解決策となるだろう。
通勤課税の副作用と影響
通勤手当への課税は、短期的には税収増をもたらすかもしれない。
しかし、企業の人事戦略や居住環境への影響を踏まえれば、社会全体のコスト増加を招く可能性が高い。
政府が本当に目指すべきは、「通勤手当への課税」ではなく、
「通勤そのものの負担を減らす」
ことだろう。働き方の多様化が進む中で、通勤を前提としない社会のあり方を再考することこそ、今求められている政策の方向性である。