なぜそこに?トランプ氏を撃った20歳容疑者は、演壇まで150mの屋根の上 接近許した警備に不備はなかったのか(東京新聞 2024年7月14日 21時54分)
アメリカ東部ペンシルベニア州バトラーで13日午後6時15分(日本時間14日午前7時15分)ごろ、11月の大統領選に向けた選挙集会で演説をしていた共和党のトランプ前大統領(78)が銃撃された。トランプ氏は右耳などを負傷したが、命に別条はない。大統領警護隊(シークレットサービス)は容疑者を射殺。連邦捜査局(FBI)は、トランプ氏に対する暗殺未遂事件として捜査を始めた。
アメリカ大統領選集会で聴衆3人死傷、SSが容疑者射殺
容疑者の発砲により会場にいた聴衆の1人が死亡、2人が重傷を負った。
大統領選を4カ月後に控える中、選挙活動中の大統領経験者を狙った政治的暴力は、選挙戦に大きな影響を与える可能性がある。
FBIは14日、銃撃犯として同州在住のトーマス・クルックス容疑者(20)を特定した。会場外の高い建物から数発発砲し、付近からは殺傷能力の高いAR15型ライフルが押収された。CNNテレビは、容疑者が会場から120~150メートル離れた建物の屋根の上にいたと報じた。
右の耳から出血、拳振り上げるトランプ氏
大統領警護隊の発表などによると、トランプ氏が屋外での選挙集会で演説を始めて6分ほど経過した後、複数回の発砲音がし、トランプ氏が右耳付近を手で押さえてしゃがみ込んだ。右耳から出血していたが、警護隊に抱えられながら立ち上がった際には、聴衆に向かって右手の拳を何度も振り上げて車に乗り込んだ。
トランプ氏は病院で治療を受けた後、東部ニュージャージー州に移動した。支持者に宛てたメールで「私は決して屈しない」とコメントし、選挙戦を継続する意思を示した。
共和党は15日から、中西部ウィスコンシン州でトランプ氏を正式に大統領候補に指名する党大会を開催。トランプ氏の陣営は、同氏が予定通り党大会に出席するとの声明を出した。
バイデン大統領は13日、「米国に暴力を許す場所はない。国として団結し、これを非難する」と声明を出した。トランプ氏とも電話で会談し、対応に当たるため滞在先からホワイトハウスに戻った。バイデン氏の陣営は事件を受け、トランプ氏を批判する選挙のテレビ広告などを一時停止すると明らかにした。
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直前にライフルを持った不審者情報、共有に問題か
演説中に銃撃を受けたトランプ氏は、演壇から120~150メートルのの距離にある建物の屋上に身を隠していた容疑者の男にライフルで狙撃された。射程圏内から発砲を許したことで、共和党議員からは警護の不備を指摘する声が出ている。
大統領選の有力候補者のイベントは会場周辺を含め、厳しい警備体制が敷かれ、来場者への手荷物検査なども徹底される。事件が起きた集会には大統領警護隊(シークレットサービス)の対狙撃班などを動員。捜査当局によると、30〜40人の州警察官らも配置されていたという。
米メディアによると、男は会場の広場に隣接する建物の屋根の上からライフルで複数回、発砲した。連邦捜査局(FBI)の特別捜査官は、会場外とはいえ、警備の網をかいくぐって120~150メートルの距離から銃撃したことを「驚くべきことだ」と語った。
警護隊長官の公聴会出席を求める声も
イギリスのBBC放送は、トランプ氏が登壇する5分前にビルの屋上にライフルを持った不審者がいることを警察に指摘したとの目撃者の声を報じており、周辺の監視や情報共有の体制に問題があった可能性がある。
米メディアによると、下院監視・説明責任委員会のコマー委員長(共和党)は「多くの疑問があり、米国民は答えを求めている」と述べ、大統領警護隊長官の公聴会への出席と調査報告を求める考えを示した。(ワシントン・鈴木龍司)
開始6分、パンパンと乾いた音が何度も
熱狂的なトランプ支持者の歓声は銃声によって、一瞬で悲鳴に変わった。アメリカ共和党のトランプ前大統領が負傷した銃撃事件は、11月に迫る大統領選での復活を力強く宣言している演説中に起きた。トランプ氏が顔をゆがめながら拳を突き上げ、無事をアピールすると、聴衆は「USA(米国)」コールで応じ、凶行を非難した。
激戦州の東部ペンシルベニア州の屋外で開催された集会には、トランプ氏の演説前から大勢の支持者が詰めかけていた。13日午後6時(日本時間14日午前7時)すぎ。トランプ氏が登壇し「バイデン(大統領)を打ち負かす」「アメリカを再び偉大にする」と語り始めると、盛り上がりは最高潮に達した。
だが、演説開始から約6分後、「パン、パン」と乾いた銃声が響いた。右前方に視線を送りながら、バイデン氏の移民政策を「わが国で史上最悪の大統領だ」と批判していたトランプ氏は痛みを感じたのか、右耳をさわり、手のひらに付いた血を確認しながら、その場にしゃがみ込んだ。
「私は右耳の上部を貫通する銃弾を受けた。何かがおかしいと分かったのは、ビュン、ビュンという音が聞こえ、銃弾が皮膚を裂くのを感じたからだ」。トランプ氏は事件後、自身の交流サイト(SNS)で「多くの出血があったので、私はその時に何が起こっているのか理解した」と、当時の状況を振り返った。
車への退避促す警護隊員制し、聴衆に向かって「FIGHT!」
その後も銃声が鳴り響く。トランプ氏の元に前大統領を護衛する大統領警護隊(シークレットサービス)が駆け寄り、事態を理解した聴衆は悲鳴を上げて身を守るようにうずくまった。
警護隊から「大丈夫ですか? 移動します」と声をかけられたトランプ氏は、両脇を抱えられて立ち上がった。車への退避を促す隊員を「待て、待て」と制す。苦悶(くもん)の表情を浮かべながらも、聴衆に向かって「ファイト(戦おう)」と訴え、右の拳を何度も突き上げた。聴衆も総立ちになって「USA」と連呼し、中継のテレビカメラに向かって事件を非難するような言葉を叫んだ。
トランプ氏はSNSで警護隊への謝意と被害者家族への哀悼の意を示した。(ワシントン=鈴木龍司)