日本人を貧乏にした「小泉・竹中改革」の真実を語ろう 潰す必要のない企業までハゲタカ外資に売り飛ばした、黒字企業が次々とワナにはめられ潰された

日本人を貧乏にした「小泉・竹中改革」 政治・経済

潰す必要のない企業までハゲタカ外資に売り飛ばした…日本人を貧乏にした「小泉・竹中改革」の真実を語ろう 黒字企業が次々とワナにはめられ潰された(PRESIDENT Online 2023/01/07 13:00)

森永卓郎 経済アナリスト、獨協大学経済学部教授
森永康平 株式会社マネネCEO、経済アナリスト

なぜ日本人はこんなにも貧しくなってしまったのか。経済アナリストの森永卓郎さんに『親子ゼニ問答』などの共著者でもある息子の森永康平さんが尋ねたところ、「小泉・竹中構造改革では『不良債権処理』という名目で、本来潰れる必要がない企業まで潰された。これが日本経済低迷の最大要因だ」という――。

※本稿は、YouTubeチャンネル『森永康平のビズアップチャンネル』の一部を再編集したものです。

タワマンとショッピングモールが日本人の暮らしを破壊した

【森永卓郎】グローバル資本主義は、金持ちをより豊かにしましたが、その一方、庶民の暮らしはどんどん悪くなっています。

その上、生産性向上の名のもとにつまらない仕事ばかり押し付けられる、ろくでもない世の中になってしまいました。

なぜそうなってしまったのか。わたしは規制緩和と構造改革が日本をボロボロにしたことこそ最大の理由だと思います。

タワマンがその一例です。

かつてタワマンは建築基準法で規制されていましたが、規制緩和でタワマンをどんどん建てた結果、人々の生活は良くなったでしょうか。

一部の富裕層が豊かな生活を享受する一方、タワマンによって電力消費量が増え、環境への負荷が大きくなっています。

タワマンは、人々をよりリスクの高い暮らしに追いやったと思います。

かつては日本中いたるところに商店街がありましたが、大店法の改正で郊外に大規模なショッピングモールが建設され、地元の商店街はことごとく叩きつぶされてしまいました。

商店街の店主は一国一城の主で、地域住民とのつながりを持っていました。

しかし、商店街が廃れ、店主さんたちは廃業して単なる労働者となり、地域社会が崩壊の危機に直面しています。

「生産性が上がった」と手放しで喜べるようなものではありません。

むしろ、人々の幸福が奪われてしまったのです。

こういう間違った政策をグローバル資本主義者たちが進めてきた結果、日本人の暮らしはちっとも良くなっていないのです。

「年収300万円時代」を作った構造改革

【森永康平】2003年に『年収300万円時代を生き抜く経済学』(光文社)という本を書かれていますが、その後日本経済は、非正規雇用が約4割、その賃金は約170万円という状況になりました。本の予想がある意味では的中したわけですが、2003年の時点でなぜ予見できたのでしょうか。

【森永卓郎】当時、小泉純一郎氏と竹中平蔵氏、木村剛氏が手を組み、構造改革を始めていたからです。いずれ日本をぶっ壊すのが目に見えていました。

彼らの手で、不良債権処理が進められていました。これがあたかも正しい政策であるかのようにメディアを通じて宣伝され、国民もこの政策を支持しました。

当時、わたしはニュースステーションという番組に出演していて、この不良債権処理プランがいかに危険かを、繰り返し説明していました。

しかし、メディアの人間は金融のことをまったく知らないので、なかなか理解してもらえませんでした。

その上、彼らはとんでもないルールを持ち込んで一気に不良債権処理を進めたので、国民からは一体何が行われているのかさっぱりわからなかったと思います。

「マグロの解体ショー」のように売り飛ばされた

【森永卓郎】彼らは不良債権処理の名目で、本来潰れる必要がない企業の資金を断ち切り、その資産を二束三文で売り飛ばしていったのです。

ほとんど、タダでくれてやったようなものでした。

100億円近くかけて開発したゴルフ場が、アメリカ系の投資銀行にわずか数千万円で売却される、といったケースが当たり前のように起きていました。

裏では以前から綿密なプランが練られていて、外資と、小泉構造改革に協力する企業だけが、日本の大切な資産を二束三文で買いあさったのです。

まるでマグロの解体ショーを見ているようでした。

半沢直樹も真っ青の逆粉飾決算が行われた

【森永卓郎】不動産は米国系の外資がほとんど持っていきましたし、当時世界最強の競争力を誇っていた日本の電機産業は中国や台湾に買われてしまいました。

日本経済を支えてきた大黒柱の産業を売り払ったのだから、日本経済が低迷するのは当たり前です。

そんなプランを、小泉・竹中・木村氏らが、あたかも正義の味方のような顔をして遂行していたのです。これが日本経済低迷の最大の原因だと思います。

【森永康平】私が少年時代を過ごした実家は所沢にありますけど、小さい頃地元のダイエーに行くと、ダイエーホークスの歌が流れていました。そのダイエーはその後破綻してしまいました。ダイエーの経営はすぐ潰れるような状態ではなかったのに、結局破綻処理されてしまったという記憶があります。

【森永卓郎】ダイエーは黒字だったんですよ。わずかな赤字を出した年もありましたが、潰す必要はありませんでした。

不良債権処理のターゲットとして狙われたから、破綻処理されたのです。

当時、不良債権処理を進めると、日本経済は回復すると言われていました。不良債権を持つ企業が銀行からの融資を塩漬けにしているので、そうした企業を破綻処理して資金を開放すれば、お金が中小企業に回り、一気に経済が良くなる、というわけです。

特に、流通・建設・不動産業界が不良債権処理のターゲットとなりました。こうした企業が駅前の一等地にいい不動産をたくさん持っていたからです。

彼らを追い詰め、不動産を二束三文で買うことができれば、買った企業は大儲けできます。

そんな中でも、UFJ銀行(当時)はダイエーを支援していました。しかし今度はUFJ銀行と東京三菱銀行との合併がしかけられました。

これは罠にはめられたようなものでした。半沢直樹も真っ青の世界です。

合併後の決算を見ると、不良債権の組み戻し益が1兆円近くも出ていました。

つまり、「不良債権」とされていたものの価値を再計算すると、もっと価値が高かったということです。

竹中・木村氏は、本来なら「正常な債権」とされるべきものを、片っ端から不良債権に計上していたということです。

いわば「逆粉飾決算」です。

安倍元首相は財務省との戦いに破れた

【森永康平】日本経済がダメになった原因は財務省にある、という意見も多いですが、むしろ構造改革のほうを主な原因に挙げられるんですね。

【森永卓郎】構造改革と緊縮財政の両方が日本をダメにしたと思います。

安倍政権の時、2013年度は少しだけ財政出動しましたが、その時は景気が良くなりました。

その後、財務省に説得されたのかは分かりませんが、安倍さんは消費税を2回も上げるという大失敗をしてしまった。あれがなければ日本はもっと良くなっていたと思います。

【森永康平】かつては構造改革の影響が大きく、2010年くらいから緊縮財政の影響が大きくなっているというお話でしたが、積極財政派はむしろ1997年くらいから緊縮財政による悪影響が始まっているという意見が多いと思います。

【森永卓郎】安倍さんは自民党の政治家のなかで唯一といっていいくらい、財務省と戦った政治家なんですよ。アベノミクスの3本の矢は、金融緩和、財政出動、成長戦略です。金融緩和の次には財政出動をしようとしていたんです。

財務省という組織は、増税はどんどんしたほうがいい、歳出はいくらでもカットするべきという、非常に強い教義を持っています。

その組織との戦いに、安倍さんは破れたのだと思います。

2023年は世界恐慌の可能性

【森永康平】安倍さんはあのような形で亡くなってしまいました。一方、アベノミクスを支えてきた日銀の黒田さんは来年春に退任します。来年4月以降は悲惨な状況になりそうな予感がします。

【森永卓郎】来年は世界恐慌の可能性がきわめて高いと思います。

わたしは、マーガレット・サッチャー以来続いているグローバル資本主義が、ついに崩壊の時を迎えている、という現状認識を持っています。

「グローバル資本主義の罪」は大きくわけて3つあると思います。

1つ目の罪は地球環境をぶっ壊したこと。アメリカでハリケーンの被害が拡大したり、ヨーロッパも干ばつに苦しんだり、日本でも洪水被害が相次ぐなど、世界中ありとあらゆる場所で、地球環境を破壊した影響があらわれている。

資本主義の発展と温室効果ガスの排出はきれいにリンクしています。

ある経済学者によると、富裕層が排出する温室効果ガスの量は、庶民の1万倍にも上るそうです。

こうしたことを今すぐ止めないと地球が危ない、と考える人が増えたことが、グローバル資本主義が崩壊する要因となっていると思います。

グローバル資本主義は10年以内に崩壊する

【森永卓郎】2つ目の罪は、とてつもない格差を生み出したことです。

今、地球上に住んでいる人は約76億人と言われています。これを所得の順に並べて下から半分の約38億人が持つ金融資産は約153兆円。これは、上位26人が持つ金融資産の額と同じです。

この上位26人は額に汗して働いてはいません。金が金を生むしくみを利用し、巨万の富を得ているのです。その一方で、地球上では貧困が拡大しています。こういう状況はもはや限界に達していると思います。

3つ目は最大の罪だと思いますが、グローバル資本主義が仕事の楽しさを奪ったことです。

OECD諸国の中で、日本の生産性がぶっちぎりで最下位ということで、みんな生産性を上げようとしています。

ただ、生産性を上げ、所得を上げた結果、誰もが面白くない仕事を強いられるのです。

私がアナリストとして経済をずっと見てきた経験から確信しているのですが、生産性と仕事の楽しさは逆相関の関係にあります。

つまり、生産性を高めれば高めるほど、仕事はつまらなくなっていくのです。

こうしたグローバル資本主義の弊害がどんどん大きくなり、これを止めようという動きが加速している。日本人は大人しいので、あまりデモやストライキをしませんが、世界ではグローバル資本主義に反旗を翻す若者たちが増えています。

私はグローバル資本主義が10年以内に崩壊する可能性はきわめて高いと思います。

森永 卓郎(もりなが・たくろう)
経済アナリスト、獨協大学経済学部教授
1957年生まれ。東京大学経済学部経済学科卒業。専門は労働経済学と計量経済学。著書に『年収300万円時代を生き抜く経済学』『グリコのおもちゃ図鑑』『グローバル資本主義の終わりとガンディーの経済学』『なぜ日本経済は後手に回るのか』などがある。

森永 康平(もりなが・こうへい)
株式会社マネネCEO、経済アナリスト
証券会社や運用会社にてアナリスト、ストラテジストとして日本の中小型株式や新興国経済のリサーチ業務に従事。業務範囲は海外に広がり、インドネシア、台湾などアジア各国にて新規事業の立ち上げや法人設立を経験し、事業責任者やCEOを歴任。その後2018年6月に金融教育ベンチャーの株式会社マネネを設立。現在は経済アナリストとして執筆や講演をしながら、AIベンチャーのCFOも兼任するなど、国内外複数のベンチャー企業の経営にも参画。著書は『スタグフレーションの時代』(宝島社新書)や父・森永卓郎との共著『親子ゼニ問答』(角川新書)など多数。