京葉工業地域を支える「第二東京湾岸道路」計画! 長年の争点は環境問題、もはや経済成長だけを考える時代ではない

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京葉工業地域を支える「第二東京湾岸道路」計画! 長年の争点は環境問題、もはや経済成長だけを考える時代ではない(Merkmal 2022.9.18)

赤羽良男(交通ライター)

構想段階にある「第二東京湾岸道路」。同道路は千葉県市原市から東京都大田区までを結ぶ予定だが、環境運動の大きな反発を受けている。

「第二東京湾岸道路」とは何か

「第二東京湾岸道路」のルート

「東京湾岸道路」をご存じだろうか。千葉県富津市から神奈川県横須賀市までを東京湾に沿って結んでいる道路であり、専用部(有料道路部分)と一般部(一般道路部分)で構成されている。

専用部には、東関東自動車道・首都高速湾岸線・横浜横須賀道路が、一般部には、国道16号・357号(一部区間は国道14号と重複)が指定されている。千葉県内に限ると、「東京ディズニーリゾート」「幕張メッセ」「千葉ポートタワー」といったランドマークが東京湾岸道路近傍にあるため、一度は利用したことがある人も多いことだろう。

ところで、名称が似ている「第二東京湾岸道路」はご存じだろうか。千葉県市原市から東京湾沿いを通って東京都大田区までを結ぶ道路であり、東京湾岸道路よりも海側を通る予定となっている。東京湾岸道路と並行し、東京湾岸道路よりも新しい道路となるため「第二」という名称がつけられているわけだ。

こちらは、東京湾岸道路と比べて認知度がグッと落ちることだろう。なぜなら、この道路はまだ存在しておらず、構想段階にあるからだ。一部区間での用地確保や現道との重複利用の構想がある箇所も存在するが、現時点では表立って第二東京湾岸道路という名称は使用されていない。

東京湾岸道路のさらに海側というと、基本的に工業団地が立ち並ぶ上に海上区間も多いため、用地確保が難しそうな印象を受ける。通常であれば無理をしてそのような場所に道路を建設する必要は無いと思えるが、実は無理をしなければならない切実な事情がある。それが、東京湾岸道路が抱える深刻な渋滞事情だ。

京葉工業地域が抱える深刻な渋滞

京葉工業地域――千葉県富津市から東京都に隣接する浦安市まで東京湾沿いに広がる工業地域のことであり、機械・金属・製油をはじめとするさまざまなジャンルの企業や工場、倉庫が立ち並ぶ。学校の社会の授業でも学習するので、聞き覚えがある人も多いことだろう。

また、物流面においても京葉工業地域は重要視されている。国際的な海上輸送の拠点として特に重要であると国から位置づけられている「国際拠点港湾」に指定されている千葉港が域内に存在することに加えて、日本の空の玄関口と名高い成田国際空港にもほど近い。このように、京葉工業地域のプレゼンス(存在感)は高く、関東圏のみならず、日本全体にとっても無くてはならない存在だ。

そんな京葉工業地域内の移動や物流を支える“大動脈”とも呼べる道路が、前出の東京湾岸道路である。京葉工業地域内において、特に一般部に関しては、そのほとんどの区間で工業団地と市街地の境界線とも言える場所を通るため、京葉工業地域関係者のみならず、近隣住民にとっても無くてはならない存在だ。

だが、東京湾岸道路は京葉工業地域内各所で深刻な渋滞事情を抱えている。特にひどいのは、人口密集地域と隣接している千葉市から船橋市の区間だ。

莫大な渋滞損失時間

湾岸地区の道路交通状況

2020年に国土交通省関東地方整備局千葉国道事務所が主催した「千葉県湾岸地区道路検討会幹事会」における資料を見てみよう。この資料によると、東京湾岸道路を構成する国道357号に渋滞損失時間(本来の通過時間と比較して、渋滞によって余計にかかった時間)の多さを示す赤い棒グラフが乱立していることが伺える。前述の京葉工業地域のプレゼンスを考えると、東京湾岸道路におけるこの渋滞損失時間が、そのまま日本の経済損失につながると言っても過言ではない。

代替ルートを探したいところだが、なかなか状況は厳しい。一般道路の幹線道路としては千葉街道(国道14号の一般道路区間)が近隣に存在するが、基本的に片側2車線の東京湾岸道路の一般部に対して、千葉街道は片側1車線。東京湾岸道路の一般部よりも低規格であることに加え、低規格の割に交通量が多く、それゆえ渋滞も激しいため、代替ルートとなり得ない。

一般部がダメなら専用部はどうだろうか。残念ながら、専用部である首都高速湾岸線および東関東自動車道、それに東京湾岸道路に並行している京葉道路(国道14号の有料道路区間)も渋滞が頻発している。また、専用部へアクセスするためには、一般部を経由しなければならないため、必然的に一般部の渋滞に巻き込まれてしまう。

京葉工業地域は大動脈のいたる所に血栓ができ、別の動脈とも呼べる近隣の幹線道路も血栓だらけだ。これでは工業団地や近隣市街地に毛細血管の如く張り巡らされた道路も機能不全に陥り、京葉工業地域は壊死してしまう。それは日本経済にとっても致命傷になり得る病状だ。

京葉工業地域が抱える問題は、これほどまでに深刻だ。こんな状況を打破すべく、無理をしてでも新しい動脈を通さなければならない。そんな重要な使命を帯びているのが、第二東京湾岸道路なのだ。

争点は三番瀬 立ちふさがる環境問題

三番瀬

第二東京湾岸道路がそれほどまでに重要な路線ならば、早々に建設に着手すればいいのではないかという意見もあるだろう。確かに、前述の通り用地確保の難しさがあるものの、現代の技術的には決して不可能というわけではない。ところが、そのようにできない事情がある。それが、三番瀬の存在だ。

三番瀬とは、浦安・市川・船橋・習志野各市の埋め立て地によって囲まれ、東京湾奥部に残された数少ない天然の干潟および浅瀬である。魚類や鳥類の貴重な生息地として認識され、環境省から「日本の重要湿地500」に選定されるほど重要な場所なのだ。

実は、当初の計画では、第二東京湾岸道路はこの三番瀬に新たに建設が計画されていた埋め立て地を橋梁で連絡して通過する予定だった。だが、前述の通り三番瀬は貴重かつ重要な自然環境エリアであり、そうした場所を埋め立てようものなら、三番瀬の環境が破壊されてしまうのは目に見えている。このため、自然保護団体や近隣住民からの抗議が絶えなかった。

そしてその状況は、ついに政治にも影響を及ぼした。2001(平成13)年に環境問題を重視する堂本暁子氏が千葉県知事に当選。三番瀬の埋め立て計画は白紙撤回され、同時に第二東京湾岸道路建設計画も中止に追い込まれた。

だが、時がたって2019年。第二東京湾岸道路建設に向けての動きが復活した。この時点で千葉県知事が森田健作氏に交代していたということも要因のひとつではあるが、前述の通り、東京湾岸道路を取り巻く道路事情は相変わらず改善していなかったことが最大の要因だ。

もちろん、三番瀬を取り巻く環境問題は無視できない。その一方で、約20年前と比較して、日本という国があらゆる分野においてより一層グローバルに展開していかなければならない今日において、プレゼンスの高い京葉工業地域周辺は、もはや第二東京湾岸道路無しでは立ち行かなくなりつつあったのだ。この考えは、現在の千葉県知事である熊谷俊人氏にも引き継がれ、県知事に就任した2021年において、同様の見解を示している。

新時代の道路のつくり方とは

SDGs(持続可能な開発目標)が2015年の国連総会で採択されてから、はや7年。SDGsは、日本においてもなじみのある指標になってきた。前述の通り、日本という国がこれまで以上に、あらゆる分野においてグローバルに展開していかなければならない状況下では、国としてSDGsを順守しているかどうかがひとつの指標となってくる。

これは、道路づくりにおいても同様だ。一昔前の道路づくりでは、事業者が周囲に一定の意見を求めていたものの、結局は「公共の利益のため」という大義名分の下、目の前に貴重な自然環境があろうとお構いなしに道路を切り開いてきた。

だが、新時代の道路づくりにおいてはそうはいかない。「国力のため」とうたいながら経済や公共事業最優先でSDGsを蔑ろにする行為が、逆に国力を下げることにつながりかねないのだ。

そういった価値観が求められる中で、第二東京湾岸道路の動向は今後の日本の道路づくりのベンチマークとなるだろう。日本のSDGs未達(「深刻な課題がある」とされた)項目の中に

・目標14:海の豊かさを守ろう
・目標15:陸の豊かさも守ろう

が含まれているからなおさらだ。そんな情勢を意識してるからなのか、第二東京湾岸道路の計画が再び前進し始めたとはいえ、その動きは慎重だ。

2022年に入り、千葉県国道事務所が管内の他の道路計画とあわせて「千葉県湾岸地域における規格の高い道路」、すなわち実質的に第二東京湾岸道路にあたる道路の計画策定検討業務に関する入札公告を出した。この入札公告の特徴は、「パブリックインボルブメント(PI)」の導入を視野に入れるという条件があることだ。

PIとは、「住民(市民)参画」を意味する。類似した用語に「パブリックコメント」というものがあるが、こちらは住民に対して“意見”のみを求めることに対し、PIは実際に住民に計画策定や意思決定の場に参加してもらい、自治体や民間事業者と共同で事業を進めていくというものだ。PI自体は今に始まったことではないが、これまでの道路づくりの件数と比較するとまだまだ導入事例は少ない。

道路づくりに当たり、自治体・民間事業者・住民の三者が膝を突き合わせて意見を出し合い、利便性・経済・地球環境・住民生活といった多角的な観点を持ちながら事業を進めていく。新時代の道路のつくり方とは、そういうものだ。そして、その新時代の道路のつくり方を、まさにこれから体現してくれるのが、第二東京湾岸道路なのだ。

赤羽良男(交通ライター)
1990年長野県生まれ。東京理科大学理工学部土木工学科卒業後、総合旅行会社へ入社。法人営業として営業現場・国内外の添乗現場を担当後、国際線の航空座席仕入れとしてバックオフィスを担当。「土木 × 旅行 × 営業 × 仕入」という異色の経歴で、世の交通事情についての情報発信を行う。