電気信号に変換せず光のまま考える!? 1秒間に20億枚の画像処理をするチップを開発!

電気信号に変換せず光のまま考える!? 1秒間に20億枚の画像処理 科学・技術

電気信号に変換せず光のまま考える!? 1秒間に20億枚の画像処理をするチップを開発!ナゾロジー 2022.06.09 THURSDAY)

人間は目から映像を取り込んで脳で処理しますが、コンピュータにも同じことができます。スマホの顔認証システムのように、カメラで画像を取得して、チップで処理しているのです。そんなコンピュータの画像処理の分野に革新が訪れようとしています。

アメリカ・ペンシルバニア大学(UPenn)電気システム工学科に所属するファシッド・アシティアニ氏ら研究チームが、1秒間に20億枚の画像処理が可能なニューラルネットワークを開発したのです。

従来は光を電気に変換してから処理していましたが、光のまま処理できるシステムを作ることで、処理速度を大きく向上させています。

研究の詳細は、2022年6月1日付の科学誌『Nature』に掲載されました。

従来の画像処理が遅い理由

従来の画像処理には、人間の脳機能の特性をコンピュータで表現した「ニューラルネットワーク」が利用されています。しかし実際は、本物の脳に遠く及びません。その原因の1つが、コンピュータにおける変換やプロセスの多さにあります。

従来のコンピュータは光をそのまま処理できないので、コンピュータが理解して処理できる情報に変換した後、改めて計算しなければいけないのです。

例えば、画像センサーが受け取った光信号は電気信号に変換されます。そして電気信号は、バイナリデータ(0と1で表される二進数のデータ)化された後、メモリに保存。そのうえで、コンピュータが順番にその情報を計算していくのです。

また、それぞれのプロセスごとに、「処理速度の限界」という壁に当たるため、そのたびに全体の画像処理速度が遅れていきます。

複数の変換と処理を行っている現在のニューラルネットワークでは、どうしても処理速度に限界があるのですね。

では、画像処理の速度を向上させる新しい方法はあるのでしょうか?

光信号をそのまま処理できるニューラルネットワーク

今回チームは、光信号をそのまま処理できる新しいニューラルネットワークを開発し、9.3平方ミリメートルのチップに収めました。

つまり、光信号を電気信号に変換しないことで、それ以降のプロセス(バイナリデータ化、膨大なメモリ保存、クロック周波数にもとづいた計算)も省略したのです。

研究チームによると、「新しいニューラルネットワークはより本物の脳に近い」ようです。本物の脳は、神経細胞(ニューロン)と細胞同士をつなぐシナプスによってデータの保存と計算を行います。

同様に開発されたチップにも多数のニューロン層とそれをつなぐ光チャンネルがあり、光を直接読み取ったり、光がチップを伝播する過程で計算が行われたりするというのです。

チップが光信号を直接処理できるため、データ変換した情報を保存する必要もありません。これにより、大きなメモリユニットも不要になります。

光信号を直接読み取る技術自体は新しいものではありませんが、互換性や拡張性を備えたシステムとしてチップに収めたのは、今回が初めてでした。

では、従来のプロセスを省略した新しいチップは、どれほどの成果を出したのでしょうか。

1秒間に20億枚の画像処理が可能! 将来は動画や音声への適用も

手書き文字を分類するテスト / Credit:Farshid Ashtiani(UPenn)_Penn Engineers Create Chip That Can Process and Classify Nearly Two Billion Images per Second(2022)

テストでは、216個の手書き文字を「p」または「d」に分類するよう求められましたが、93.8%の精度を出すことができました。

次に、432個の文字を4つに分類するテストも行われましたが、こちらも89.8%の精度を示しました。また特質すべきはその処理速度であり、このチップは1枚の画像を570ピコ秒で分類できます。

これは従来のコンピュータチップが1枚の画像を処理するために行う複数のタスクのうちの1つを完了する時間と同じです。

ちなみにこの処理速で作業を1秒間続けた場合、約20億枚の画像を分類できることになります。

映画で1秒間に24~120フレームが再生されていることを考えると、1秒間に20億フレームを処理する新しいチップがいかに高速か理解できますね。

今後チームは、この研究を発展させるとともに、動画や3D画像、また音声など画像以外のデータにも適用したいと考えています。

【参考文献】
Penn Engineers Create Chip That Can Process and Classify Nearly Two Billion Images per Second
https://blog.seas.upenn.edu/penn-engineers-create-chip-that-can-process-and-classify-nearly-two-billion-images-per-second/
AI on a photonic chip conducts image recognition at the speed of light
https://www.zmescience.com/science/news-science/ai-photonic-chip-07062022/

【元論文】
An on-chip photonic deep neural network for image classification
https://www.nature.com/articles/s41586-022-04714-0

ライター:大倉康弘
得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。

編集者:海沼 賢
以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションも担当することに。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。