DNAって一体なに? 検査で分かることや遺伝子との違いも学ぼう【親子でプチ科学】(HugKum 2022.5.16)
DNAが遺伝に関係していることは知っていても、遺伝情報を伝える具体的な仕組みまでは分からない人もいるでしょう。DNAの構造や「遺伝子」「ゲノム」との関係、DNA検査で分かることなど、押さえておきたい基礎知識を解説します。
DNAってどんなもの?
DNAは、細胞の核に存在する物質「デオキシリボ核酸」を略した言葉です。一体どのような物質なのか、DNAの特徴を見ていきましょう。
体を作る設計図のようなもの
DNAは遺伝情報を持つ物質です。2本のリボンがらせん状に組み合わさった形をしており、人や動物はもちろん細菌といった全ての生物に存在しています。
例えば、人の体には約60兆個もの細胞が存在していますが、その細胞一つ一つの中に、約2mにも及ぶDNAがあります。
DNAは、4種類の「塩基(えんき)」と呼ばれる物質で構成され、配列の違いによって特徴が決まる仕組みです。犬が鋭い嗅覚を持っていたり、鳥が空を飛んだりするのも、DNA配列によるものです。
そのためDNAは、生物の体を作る設計図のようなものと考えてよいでしょう。
DNAの仕組みとは?
似たようなDNA配列を持つ生物でも、配列に少し異なる部分があるだけで、毛の色や体の大きさの違いなどが生まれ、個性となります。個性は伝情報の一部として、親から子へと受け継がれます。
細胞の中に閉じ込められているDNAは、どのようにして詳細な情報を子孫に伝えているのでしょうか。DNAの基本的な仕組みを見ていきましょう。
4種類の塩基で設計図が描かれる
DNAの存在は、1800年代には知られていました。ただし、DNAに遺伝情報が書き込まれていることが分かったのは1940年代以降です。
その後の研究により、DNAは以下の4種類の塩基で構成されていることが明らかになりました。
・アデニン(A)
・グアニン(G)
・シトシン(C)
・チミン(T)
四つの塩基は、必ず「AとT」「CとG」が結合してペアを作ります。塩基のペアがたくさん並んで鎖のように連なったものが、DNAの正体です。
生物の設計図は、たった4種類の塩基の組み合わせで表現されているのです。
しかし先述のとおり、人間の体には約60兆個もの細胞が存在し、その一つ一つにDNAが存在します。2本のリボンのうち、1本のリボンにA・G・C・Tの4種類の塩基がたくさん並んでいて、セットになっているもう1本のリボン上の塩基と組み合わさるため、体内に存在する塩基のペアは約30億個にも上るのです。
複製して親から子へ
細胞が分裂すると、中に存在するDNAも複製されます。DNAの複製は「必ず同じ塩基がペアになる」という特性を生かして行われます。
例えば、分裂によって引き離されてしまった「A」の塩基には、必ず「T」の塩基が付きます。「CとG」も同様に付いていくと、全く同じ配列のDNAが2個できることが分るでしょう。
生物が繁殖する際の細胞分裂の際も、同じようにDNAの複製が行われることで、遺伝情報が親から子へと伝わっていきます。
複製の様子を想像するだけでも、命の不思議さが伝わってくるはずです。
「遺伝子」「ゲノム」を知ろう
DNAに関連が深いものに「遺伝子」や「ゲノム」があります。
「遺伝子」とは、DNAの中の「遺伝情報をもつ領域」のことです。DNA自体は遺伝情報を伝える物質で、その一部に遺伝情報が書き込まれています。(遺伝情報として認識されていない箇所もあります。)そのうち遺伝情報が書き込まれた領域が遺伝子です。
例えば、人間は脳・内臓・筋肉・感覚器官などの細胞にそれぞれ専用の遺伝子があり、全てが揃うことで完成します。
次に「ゲノム」は、ある生物を作るために必要な遺伝情報のセットです。DNAが主に「物質」をさし、遺伝子はそのうちの特定の領域をさすのに対し、ゲノムはDNAのすべての情報をさします。
DNAはどんなことに役立つ?
DNAが持つ遺伝情報は、社会においてもさまざまなことに役立てられています。DNAの研究がもたらす成果を見ていきましょう。
病気の原因究明
生物がかかる病気の中には遺伝子に起因するものも多く、DNA解析によって原因が特定できることがあります。
検査が難しい赤ちゃんの遺伝情報を解析した結果、病気の原因が分かり、治療に役立った事例も報告されています。
未知のウィルスや細菌が現れたときに、素早い対応ができるのもDNA研究のおかげです。病原体のDNAを調べることで、効果的な予防法が分かるほか、ワクチンや治療薬の開発に必要なデータを得られます。
人と同じDNAを持つ細胞を人工的に作り、病原となった細胞と交換する移植療法の研究も進められています。
環境問題の解決
現在の地球で、食品ロスや水質汚染などの環境問題が深刻化していることはご存じでしょう。DNAは環境問題の解決に役立つとして、大きな期待が寄せられています。
例えば、農作物のDNA配列を操作して害虫や病気に強い品種を作れば、環境を汚染する農薬の使用量を減らせます。作物に長期間傷まない性質を持たせることで、食品ロスの削減も可能です。
微生物のDNAを調べて、汚染物質の浄化に活用する研究も行われています。
新たな生物情報の発見
人間のDNA配列は現在全て明らかになっており、血縁関係の確認や医療などのさまざまな分野で活用されています。将来的にはDNAを解析するだけで、苦手な味や声、体つきなどの細かい情報まで分かるようになるといわれているほどです。
技術がさらに進化すれば、DNAを使って絶滅した生物をよみがえらせたり、捕獲や長期間の観察をせずに希少生物の生態を調べたりできるかもしれません。未知の生物が持つDNAの中には、人の生活に役立つ情報が隠されている可能性もあります。
DNA鑑定で犯人を特定
「DNA鑑定」は、DNA配列のわずかな違いを読み取り、個人を特定する技術です。DNA配列の一部分は1人1人異なっており、個性として現れます。
近年、体液や毛髪が付着した物体からもDNAを解析できる技術が進み、犯罪捜査に活用されています。
殺人や傷害などの事件が発生したとき、警察では犯行現場に残された皮膚片や、容疑者が使っていた歯ブラシなどを使ってDNA鑑定を行い、犯人特定や犯行の立証に役立てているのです。
DNA検査で分かること
DNA検査は民間企業も実施しており、誰でも受けられます。検査の結果を、体質改善や病気の予防に役立てている人も少なくありません。唾液を送るだけで簡単にできるので、自分の体について客観的に知りたい人は、利用してみるとよいでしょう。
DNA検査で分かることと、結果の活用法を紹介します。
自分の体質
DNA検査では、主に生まれつきの体質と、将来かかりやすい病気の傾向が分かります。体質面では、肌の質や太りやすさ、脂肪のつき方などを教えてくれます。
例えば、シミができやすい肌質であることが分かれば、対策として美白効果が期待できるスキンケア用品を使えばよいことになります。
また、肥満のタイプが分かれば、避けるべき食べ物や食事の時間帯、おすすめの運動がはっきりして、無理なくダイエットができるでしょう。
他には、アルコール代謝量や味の好み、記憶力の良し悪しなどの項目があります。アルコール代謝能力が遺伝的に弱いことを証明できれば、飲み会を断る口実になるかもしれません。
かかる可能性のある病気
健康的に長生きするために、普段から生活習慣に気をつかっている人は多いでしょう。しかし、病気のかかりやすさにも個人差があります。健康のためにやっていたことが、他の人には効果的でも、自分にはあまり効果がない可能性もあるのです。
DNA検査では、遺伝的にかかりやすい病気が分かります。自分がかかるかもしれない病気を知ることで、より現実的な予防対策ができるでしょう。
ただし、検査結果はあくまでも目安です。必ず発症するわけではありませんし、自分のDNAを書き換えることもできません。結果ばかりにとらわれるとストレスになることもあるので、参考にする程度にとどめておきましょう。
多くの可能性を秘めたDNA
DNAには生物を作るために必要な、大量の遺伝情報が記録されています。遺伝情報を分析すると生物の特徴が分かり、情報を書き変えれば違う種類を作り出すことも可能です。
DNAに関する技術は既にさまざまな分野で利用されており、今後も活躍の場が広がると期待されています。小さな細胞の中で大きな働きをするDNAについて、親子で想像を膨らませてみるとよいでしょう。