戦争で結ばれる絆、シリアで広がるウクライナ支援(AFP BB News 2022年4月19日 12:00)
【4月19日 AFP】砲撃から逃れる方法や難民支援、化学兵器による攻撃への対応──ロシア軍が軍事介入し10年以上内戦が続くシリアで、戦いで得た知識や情報をウクライナ支援につなげる動きが広がっている。
救助ボランティア団体「ホワイト・ヘルメット(White Helmets)」(正式名称:シリア民間防衛隊、Syria Civil Defence)の代表、ラエド・サレハ(Raed al-Saleh)氏はAFPに対し、「私たちがシリアで経験してきたことを考えると、ウクライナの人々の痛みを最も理解できるのは私たちかもしれない」と語った。
「シリア市民はロシア軍による砲撃や殺害の他、家を追われる経験をしている」「時と場所は異なるが、被害者は共に民間人で、加害者は共にロシア政府だ」
シリア内戦では50万人以上が死亡したとされる。ホワイト・ヘルメットは反体制派の支配地域で救助活動を行っており、ロシア軍やシリア政府軍の砲撃で破壊された建物の下から多数の市民を救出してきた。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー(Volodymyr Zelensky)大統領は先月行われた国際会議で「マリウポリ(Mariupol)を見てください。シリアのアレッポ(Aleppo)と全く同じことが起きている」と訴えた。
同じような悲惨な体験をしていることから、シリアではさまざまな取り組みが始まっている。
複数の団体が立ち上げた「シリア・ウクライナ・ネットワーク(Syria Ukraine Network)」は、シリア人医師をウクライナに派遣する支援をしている。
米首都ワシントン在住のウクライナ人で、同ネットワークのコーディネーターを務めるオリハ・ライトマン(Olga Lautman)さんはAFPに対し、「戦争犯罪の記録と化学兵器を専門とするシリア人」の派遣を手配する予定だと話した。
反体制派が実効支配するシリア北西部イドリブ(Idlib)県では、医療従事者の育成機関「アカデミー・オブ・ヘルス・サイエンス(Academy of Health Sciences)」の医師が、ウクライナの医師や看護師にオンラインで研修を行っている。
「関心を呼び戻す」
同機関のアブドラ・アブドルアジズ・アルハジ(Abdullah Abdulaziz Alhaji)代表は、ウクライナの医療従事者は主に化学兵器による攻撃を受けた際の対応を知りたがっており、「彼らは私たちの経験を生かそうとしている」と説明した。
ウクライナでは今のところ、化学兵器が使われたとの確認は取れていない。化学兵器禁止機関(OPCW)によると、シリアでは塩素・硫黄ガスが使用された。
ホワイト・ヘルメットは、負傷者の手当ての方法などを開設するチュートリアル動画を製作している。
また、ルーマニアのウクライナ国境では、難民支援団体「レフュジー・フォー・レフュジーズ(Refugee 4 Refugees)」の創設者でシリア人のオマル・アルシャカル(Omar Alshakal)氏がウクライナから避難してきた人を支援している。
英ロンドンを拠点とする「国際戦略研究所(International Institute for Strategic Studies)」のアナリスト、エミール・ハケーム(Emile Hokayem)氏はAFPに対し、「シリア人がウクライナの大義を熱心に支持しているのは、シリアの悲劇に対する国際社会の関心を呼び戻すのに役立つからだ」と指摘。「警告したのに無視した」欧米諸国を批判するためだとも語った。
米シンクタンク「中東研究所(Middle East Institute)」のチャールズ・リスター(Charles Lister)上級研究員は、反ロシアの波に乗ると同時に、ウクライナと新たに有意義な地政学的関係を築きたいとの思惑がシリア人活動家にはあると指摘する。
シリアの反体制派とウクライナ政府にとってはロシア政府の責任が問われるかどうか、が一番の関心ごとだ。さらにシリア側では、ロシアが支援するバッシャール・アサド(Bashar al-Assad)大統領の責任もその対象に加わる。
ホワイト・ヘルメットのサレハ氏は「プーチンがウクライナでの犯罪の責任を問われるなら、シリアでの犯罪についても責任を問われることになる。だが、プーチンが責任を免れれば、再び罪を犯すのは単なる時間の問題でしかない」と述べた。
国際人権団体「アムネスティ・インターナショナル(Amnesty International)」のアニェス・カラマール(Agnes Callamard)事務総長は先月、ウクライナでは「われわれがシリアで目撃したことが繰り返されている」と指摘した。
シリアとウクライナにおけるロシア軍の戦術の類似点はこれまでも指摘されている。インフラを標的にすることや街から人を追い出すための「人道回廊」の設置・停戦提案などの手法だ。
かつてはウクライナの首都キーウの著名弁護士だったオレフさんは、今は兵士となっている。「ロシアは、住宅・社会・経済インフラへの爆撃の効果を確かめるための実験場としてシリアを利用した」と非難。インフラが破壊されるとその国には「住めなくなってしまう」と語った。(c)AFP/Lynne Al-Nahhas