アメリカザリガニようやく規制へ 「取っても取っても」深刻被害

湿地に棲む外来種アメリカザリガニ 社会

アメリカザリガニようやく規制へ 「取っても取っても」深刻被害(毎日新聞 2022/2/19 08:42 最終更新 2/19 10:57)

環境省は北米原産の侵略的外来種アメリカザリガニの販売や野外への放出などを規制する方針をようやく決め、今国会に外来生物法改正案を提出する予定だ。だが、アメリカザリガニが侵入した湿地では在来種が激減するなど既に深刻な被害が出ている。専門家は「一度侵入してしまうと、取っても取っても減らない危機的な状況になる」と危機感をあらわにする。

アメリカザリガニ

「(在来種が)減ったとは言っていたが、実際に調査をして出てきた数字はすごく重たい」。大庭伸也・長崎大准教授(昆虫生態学)は影響の深刻さを訴える。

大庭准教授らの研究チームは2018年5~11月、兵庫県西部の休耕田に水を張った湿地のうち、アメリカザリガニ未侵入の6カ所、侵入・定着済みの5カ所の計11カ所で調査。30センチ幅の網を使って1カ所あたり10回すくい、水生昆虫の種や個体数を比較した。網で捕らえた水生昆虫は種や数を確認後、その場で放した。結果は1月、外来生物に関する国際学術誌「バイオロジカル・インベージョンズ」に掲載された。

11カ所で確認した水生昆虫は計52種2721個体。未侵入の6カ所ではこのうち50種が見つかり、個体数も2405に上った。一方、侵入済みの湿地では23種316個体しか確認できず、網1すくいで捕らえた水生昆虫の個体数(平均)は未侵入の約7分の1、種数は約4分の1だった。

特に侵入済みの湿地で少なかったのはゲンゴロウ類やタガメなど、水草や水底を利用する水生昆虫だ。アメリカザリガニに幼虫を捕食されるだけでなく、水草も食べられて産卵場所やエサ、隠れ場所が少なくなったことが影響しているとみられる。一方、水面や水面付近で浮いて暮らすアメンボ類やマツモムシの個体数などは、未侵入、侵入済みの場所で大きな違いはなかった。大庭准教授は「影響を受けやすい種が分かり、優先的に保全する場所を決める科学的根拠となる」と話す。

ゲンゴロウ

環境省によると、アメリカザリガニは既に本州から沖縄までの各地に定着。固有種が全滅してしまった池があったり、食害による農業やドジョウ養殖業への被害が確認されたりしている。

大庭准教授らが調査したのはゲンゴロウとタガメの両方が生息する貴重な湿地だが、18年の調査当時はアメリカザリガニがいなかったところにも、翌19年以降の大雨の際に侵入済みの田んぼから水があふれたことで生息域が拡大した。

タガメ

現行の外来生物法では生態系などに被害を及ぼすか、及ぼす恐れのある外来種を「特定外来生物」に指定し、飼育や輸入、野外放出などを禁止している。アメリカザリガニはペットとして飼育するケースも多く、特定外来生物に指定すると野外に大量に捨てられる懸念から規制が見送られてきた。法改正で今後、販売目的の飼育は禁止されるが、ペットとしての飼育は引き続き認められる見通しだ。

大庭准教授によると、小学校低学年の生活科の教科書では「生き物を育ててみよう」というコーナーでアメリカザリガニを取り上げているものもあるという。「絶対に逃がしてはいけないと教えることが重要だ。まず教える側が外来生物の影響を学んで子どもたちにしっかり伝えてほしい」と強調する。