日本も要警戒 ハワイ、フィリピンエリアなど「隠れ海底火山」MAP

トンガ沖で起きた海底火山の大規模な噴火 社会

日本も要警戒 ハワイ、フィリピンエリアなど「隠れ海底火山」MAP(週刊ポスト 2022.01.25 19:00)

トンガの海底火山噴火では遠く離れた日本列島にも津波が押し寄せた。幸いなことに人的被害はなかったが、油断はできない。日本により甚大な被害を及ぼす海底火山が世界のいたるところにあるからだ。

現在、日本では111の活火山が確認されている。うち50個が火山噴火予知連絡会によって「火山防災のために監視・観測体制の充実等が必要な火山」に選定され、常時観測・監視されている。

しかし、これは一部に過ぎす、日本には多くの“隠れ火山”が存在するという。ジオリブ研究所所長で神戸大学名誉教授(同大海洋底探査センター客員教授)の巽好幸氏が解説する。

「活火山は噴火してから1万年以内のものを指しますが、実際の火山の寿命は100万年ほどです。日本に100万年以内にできた火山は300ほどあり、これら全てに噴火リスクがあると考えなければならない。海底火山についての詳しい観測データはほとんど存在せず、どこがいつ噴火するか誰も分からない状況なのです」

トンガのような遠く離れた場所の海底火山でさえ、日本に影響を及ぼした。日本列島周辺の海底火山が噴火すれば、甚大な被害も予想される。

本誌・週刊ポストは、巽氏と立命館大学環太平洋文明研究センター特任教授の高橋学氏への取材をもとに、「日本に影響を及ぼしうる海底火山」をMAPにまとめた。

日本が警戒すべき「隠れ海底火山」MAP

縄文社会が壊滅した

日本でとりわけ海底火山が集中しているのが、伊豆諸島や小笠原諸島を含む東京都島嶼部の海域だ。同地域には21個の活火山が確認されており、その領域には福徳岡ノ場など多くの海底火山がある。

「太平洋プレートとフィリピン海プレートがぶつかる『伊豆・小笠原海溝』には海底火山がズラリと並んでいて、それがグアムやパラオあたりまで続いています」(高橋氏)

過去には、伊豆諸島の海底火山噴火による死者も発生している。

「1952年に伊豆諸島の青ヶ島の南にある明神礁という海底火山が噴火した際は、調査に向かった海上保安庁の船が巻き込まれ、乗組員31人全員が亡くなりました。爆発によるものか、津波にやられたのか、詳しい状況は判明していませんが、この海底火山が再び噴火する可能性もあります」(同前)

巽氏の調査によれば、伊豆諸島周辺には、「大室海穴」などの隠れ海底火山があることが分かっている。

トンガの海底火山噴火では、海域周辺にあった島が消滅していたことが衛星写真で判明した。日本でも諸島群近辺の海底火山が噴火すれば、島が消える事態になりかねない。

南西諸島周辺にも、巨大な海底火山が並んでいる。2017年、巽氏を中心とする神戸大学海洋底探査センターの研究チームは、海底調査によって、薩摩半島の南約50kmにある「鬼界カルデラ」の海底中央に、直径約10km、高さ約600mの溶岩ドームという溶岩のかたまりがあることを発見した。

「南西諸島には、伊是名海穴や南奄西海丘などの多くの隠れ海底火山が潜んでいます。

その一つである鬼界カルデラは約7300年前の超巨大噴火によってできた陥没構造です。当時は完全な海底火山ではなかったものの、噴火に伴って高さ10~20mの津波が近隣を襲い、大分や高知、三重にまで達したことも明らかになっています。さらに大量に噴出した火山灰によって、南九州の縄文人社会は壊滅したといわれています」(巽氏)

もし南西諸島の海底火山が噴火すれば、火山灰は東京にも飛散することが想定されるという。巽氏が語る。

「日本上空には偏西風が吹いているので、火山灰は東に向かって飛びます。伊豆諸島や小笠原諸島で噴火が起きても火山灰による影響はさほどありませんが、南西諸島の場合、風が少し南から吹けば、九州、四国、関西、関東まで火山灰による被害が広がる可能性があります」

5時間で津波が日本到達

日本から離れた場所での海底火山の噴火にも引き続き警戒が必要だ。トンガ沖の海底火山の噴火による津波では、幸い日本で死者やケガ人などの人的被害は出なかったが、予断を許さない状況だという。

「トンガは171の島からなる群島で、その南にあるケルマディック諸島との間には多くの海底火山があり、いずれもいつ噴火が起きてもおかしくない」(巽氏)

2005年にはオーストラリア、ニュージーランド・米国、ドイツの3チームによる海底調査の結果、ニュージーランド北方からトンガまでの南太平洋の海域に75個の海底火山が存在していることが明らかになった。

日本に近いフィリピンエリアにも注意を払う必要がある。高橋氏が語る。

フィリピンの周囲には多くの海底火山が存在することが分かっています。同エリアは、フィリピン海プレートがユーラシアプレートに潜り込んでいるため、地震が起きれば海底火山が連動して噴火する可能性があります。日本も軽石や津波などの被害は無視できないでしょう」

北方の海域にも警戒が必要だ。

カムチャッカ半島やアリューシャン列島など、島が点々とある地域は、その島と島の間に多くの海底火山があります。これらが噴火したり、大地震が発生したりすれば、5時間ほどで日本に津波が到達します」(高橋氏)

未知の領域が多い海底火山。トンガ沖から発せられた“警告”を受けて、日本でも研究の進展が待たれる。

※週刊ポスト2022年2月4日号