日本人はお人好しすぎる…「日本の外交」が「弱腰」になってしまう「3つの根本的理由」(現代ビジネス 2025.01.19)
山上 信吾 前駐オーストラリア特命全権大使
山岡 鉄秀 令和専攻塾塾頭
外交の世界にでは、相手側との共通項を認めて意見をまとめなければいけないようなケースが多々あるが、現代では「妥協」で解決できるケースは少ない。昔の日本の外交スタイルは変えていかなければならない。
「和をもって尊しとなす」では外交にならず、時には心を鬼にしないといけない時もある。「死守」すべきものがある問題では、どうしても喧嘩を避けられないケースがある。今の日本の外交官は、そうした喧嘩の準備もできていなければ、喧嘩すべきか妥協すべきかの使い分けもできていないように思える。
※本記事は、『歴史戦と外交戦 日本とオーストラリアの近現代史が教えてくれる パブリック・ディプロマシーとインテリジェンス』(ワニブックス刊)より一部を抜粋編集したものです。
日本外交が弱腰になる三つの根本的な要因
山岡鉄秀(以下、山岡):インテリジェンスの弱さが日本外交の弱さにつながっている部分は間違いなくあると思います。
一方、日本にはインテリジェンス能力の有無以前に、根本的な部分での「弱腰外交」体質があることも確かです。これを克服していくには、どうすればいいのでしょうか。
山上信吾(以下、山上):私は、日本外交の「弱腰」には、三つの根本的な要因があると考えています。
一つ目は日本人の性格です。
日本人は、世界標準でいえば明らかにお人好しで、目の前の人間と諍いが起きることに耐えられません。クラスメイトでも、隣人でも、会社の同僚でも、あるいは商売敵でもそうですが、何とか共通項を見つけて折り合おうとする国民性があります。目の前の相手と居心地の悪い関係になりたくないから、すぐに「あなたの言うことももっともですね」などと妥協をしてしまうわけです。「あなたの意見とは違います」と面と向かってはっきり言える日本人はやはり少ないですからね。
もちろん、そうした日本人の性格にプラスとマイナスの両面があることは確かです。しかし、外交の世界では、どうしてもその性格が「弱さ」として裏目に出てしまい、マイナス面が大きくなってしまいます。「和をもって尊しとなす」では外交にならず、時には心を鬼にしないといけない時もあるわけです。
二つ目は、外交そのものに対する考え方です。
外務省の大先輩で「外交は妥協の芸術だ」と言っている人がいました。要するに、「足して2で割るのが外交だ」という発想ですが、これは今でも外務省の多くの人間が共有している外交観です。
確かに、外交の世界においては、相手側との共通項を認めて意見をまとめなければいけないようなケースが多々あります。しかし、領土問題や歴史認識問題、国家の主権や尊厳に関わる問題など、足して2で割れない外交問題も決して少なくありません。
最後のところは、「Agree to disagree(同意しないことに同意する)」と、物別れしなければいけない問題だってあります。それなのに、うまくまとめようとするから弱腰外交になる。向こうが折れないのにこっちが折れる。慰安婦問題の河野談話などはその典型です。
他国との関係で決して譲ることのできない問題、日本として「死守」すべきものがある問題では、どうしても喧嘩を避けられないケースがあります。日本の外交官は、そうした喧嘩の準備もできていなければ、喧嘩すべきか妥協すべきかの使い分けもできていません。
政治家に定見と胆力があれば…
山上:三つ目は、政治家に定見と胆力がないことです。
たとえ外務官僚が情けなくても、政治家が「こんな交渉をまとめなくていい。ぶっ壊して帰ってきていいから、言うべきことは言って来い」と檄を飛ばせば、役人たちは実際にそのように働きます。
しかし、私は40年間外務省に勤めていて、そういった類の指示は受けたことがありません。政治家自身が小心翼翼(しょうしんよくよく)として「何とか接点をみつけてこいよ」とビクビクして交渉をまとめたがります。交渉が決裂した時に国内から「何やっているんだ!」と批判されるのが怖いわけです。役人も政治家からそのように命じられたら「妥協の芸術」の道を探らざるをえなくなります。
これら三つの要因がある限り、なかなか日本の弱腰外交は変わらないというのが私の考えです。そういう意味では根の深い問題ですが、まずはこの自分たちの弱点を認識するところから始めていけば、工夫次第で改善していく余地はあると思います。遠回りに思われるかもしれませんが、やはり日本人は何十年、何百年とこのスタイルで生きてきたわけですから、それを一気に変えるのは難しいのではないでしょうか。
山岡:日本人の国民性、民族性は弱腰外交の要因として確かに大きいと思います。日本人はとりあえず相手の言い分を聞こうとしますが、中国人も韓国人もアメリカ人もオーストラリア人もとりあえず自分の意見を言おうとします。
山上:まず他人の言うことなんて聞いてないですよね(笑)。
山岡:そういう手強い人たちや曲者が相手ですから、日本人が向こうの言い分を聞こうとした時点で優位に議論を展開できず、劣位に立たされてしまいます。
他国の考えに自分が合わせる他律的な発想ではなく、自国ファーストで日本の国益を追求する外交であってほしいですね。それから、相手の理不尽な攻撃に際しては粘り強く抗弁するよりも、「そんなもの、さっさと金を払って終わらしてしまえ」という軽佻浮薄な発想も問題だと思います。
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