【社説】2025年度政府予算案 「財政膨張繰り返すのか」(北海道新聞)、「財政健全化へ努力続けよ」(新潟日報)、「平時に戻す姿勢見えない」(西日本新聞)

予算案決定、過去最大115兆円 政治・経済

<社説>政府予算案 財政膨張繰り返すのか…北海道新聞

<社説>政府予算案 財政膨張繰り返すのか(北海道新聞 2024年12月28日 4:00)

来年度の政府予算案は一般会計歳出総額が115兆円超と当初ベースで過去最大となった。

円安や物価高などで法人税や消費税が増え、税収見込みは過去最高の78兆円。国債発行は17年ぶりに30兆円を下回るが、なお財源の4分の1を占める。

アベノミクスでは経済成長を掲げて財政が膨張し、コロナ禍後は巨額の補正予算も重ねた。

税収増は財政健全化にかじを切る契機だったが、結局バラマキ路線は踏襲されてしまった。

少子高齢化で避けられぬ社会保障費は過去最大の38兆円に達した。一方で所得税課税枠「年収の壁」引き上げなど国民は負担軽減を求める。予算規模の拡大一辺倒では行き詰まる。

自民1強時代と違い、政府案のままでの成立は不透明だ。不要な支出は抑え、修正も念頭に国会審議を深めてほしい。

石破茂政権は予算案が「賃上げと投資がけん引する成長型経済を実現する」と位置づける。

とはいえ賃上げ促進は中小企業の生産性向上や従業員確保支援など先週成立した本年度補正予算と同じような項目も多い。

ここ数年乱発する補正予算では未消化も目立つ。効果を見極めぬままの継続は疑問が残る。

民間の賃上げを反映し、公務員や保育士の給与引き上げも盛り込む。公立学校教員に残業代の代わりに払う教職調整額も支給率アップを進めるが、来年度の上げ幅はわずか1%である。

一方で投資の柱とする人工知能(AI)、半導体関連は一般会計とは別にエネルギー特別会計などから支出する枠組みを決めた。千歳で先端半導体量産を目指すラピダス(東京)に対する1千億円出資もこの枠内だ。

一般会計への圧迫を避ける一方で事後評価の目は届きづらくなる。ラピダスには追加支援も想定され、透明性を確保せねば国民の不信を招きかねない。

5年間の強化計画3年目となる防衛費は当初ベースで初の8兆円台。トマホークミサイル取得1年前倒しなどを計上した。

円安で米国からの調達コスト増も問題視されるが、与党内には物価高で増額論もくすぶる。さらなる上乗せは許されない。

聖域化することなく、計画自体の必要性を与野党伯仲の国会で徹底して論議すべきだ。

政府は財政健全化の目標である国と地方の基礎的財政収支が来年度初めて黒字化する見込みと今年夏発表していた。

これ以上予算が肥大化すれば達成は危うい。来夏の参院選を控え与党から追加景気対策も求められようが、借金依存では次世代にツケを回すだけだ。

<社説>2025年度予算案 財政健全化へ努力続けよ…新潟日報

2025年度予算案 財政健全化へ努力続けよ(新潟日報 2024/12/28 6:00)

増え続ける歳出に歯止めをかけることを考えねばならない。物価高対策などに迫られ、拡大圧力が強まる状況ではあるが、緩んだ財政規律を締め直す財政健全化への努力を忘れてはならない。

政府は27日、2025年度予算案を閣議決定した。一般会計の歳出総額は115兆5415億円となり、当初予算ベースで過去最大を更新した。

社会保障費や防衛費のほか、日銀の利上げに伴う国債の利払いが増えたことなどが大きな要因だ。利払い費を算出する想定金利を2%に引き上げた。

税収は78兆4400億円を見込み、6年連続で最高を更新した。

不足する財源を補うために、歳出の4分の1に当たる28兆6490億円を国債の発行で賄う。国債の新規発行額が当初予算で30兆円を下回るのは、08年度以来17年ぶりとなる。税収見込みが過去最高になったためだ。

ただ発行額は依然多く、借金依存体質から抜け出せていない。

国債の返済費と利払い費を合わせた国債費が膨らみ、硬直した財政状況が長期化しかねない。

政府は国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス)を25年度に黒字化する目標で、達成できるかが焦点だ。

防衛費は過去最大となり、8兆7005億円を計上した。23~27年度の5年間で、総額約43兆円を投入する防衛力抜本的強化の3年目に当たる。

気になるのは、反撃能力(敵基地攻撃能力)に活用する長射程ミサイルの配備を25年度に始めることだ。長射程ミサイルには、米国製巡航ミサイル「トマホーク」導入に向けた費用も含まれる。

反撃能力はかねて、日本が国是とする専守防衛との整合性が問われてきた。周辺諸国との緊張も高めかねない。

防災・復興費も注目される。石破茂首相肝いりの防災庁の26年度設置に向け、内閣府防災部局の予算は146億円と、24年度当初より倍増した。定員も現状から倍増し、220人とした。復興庁予算は10年ぶりに増額した。

能登半島地震の教訓を踏まえて、避難所の環境改善を図る。予備費対応だったプッシュ型支援を予算化し、27億円を確保した。事前防災対策も強化する。

高齢化に伴い社会保障費も過去最大を更新し、38兆2778億円となった。生活保護費は物価高を考慮して、1人当たり月千円の特例加算を、25年10月から1500円に増額する。

社会問題になった闇バイトの対策には17億円を充て、取り締まり能力や、ネット上の有害情報の対策を強化する。卑劣な犯罪の根絶につなげねばならない。

国民生活にしっかり目配りする一方で、不要な支出は抑えていくことが肝心だ。

<社説>25年度予算案 平時に戻す姿勢見えない…西日本新聞

【社説】25年度予算案 平時に戻す姿勢見えない(西日本新聞 2024/12/28 6:00)

経済財政運営の指針、骨太方針に記された「歳出構造を平時に戻す」との政府方針はまたも空念仏に終わった。

政府が閣議決定した2025年度の一般会計予算案は歳出(支出)総額が115兆円を超え、当初予算ベースで2年ぶりに過去最大となった。

今月の臨時国会で、14兆円近い規模の24年度補正予算が成立したばかりだ。補正予算と25年度予算案は編成作業が重なる。一体として見れば歳出の膨張は目に余る。

補正予算は10月の衆院選初日に石破茂首相が「前年を上回る」と表明し、規模ありきで編成したのは明らかだ。

歳出の急拡大をもたらした新型コロナウイルス禍が収束し、エネルギー価格の急騰も落ち着きつつあるのに、平時に戻る気配はない。

予算案総額を押し上げたのは防衛費や社会保障関係費、地方交付税交付金などだ。

GX(グリーントランスフォーメーション)への投資推進、人工知能(AI)や半導体産業の基盤強化にも多額の予算を積んだ。物価高と人件費増も拡大要因である。

改まったのは、新型コロナ禍対策などで一般予備費と別枠で設けた特定目的の予備費を削り、物価・賃上げ促進予備費1兆円がなくなったことぐらいだ。

国債の利払いや償還に充てる国債費は5年連続で過去最大となった。国債残高が増えたことや、利払い費の想定金利の上昇を織り込んだ。

歳入(収入)面では、好調な企業業績を背景に法人税、所得税、消費税がいずれも増加し、税収は過去最高となると見込む。

これに伴い、新たな国の借金である新規国債発行額は28兆円台となり、17年ぶりに30兆円を下回った。財政健全化への一歩と受け止めたい。

それでも財政健全化目標である国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス)の黒字化を25年度に達成するのは困難とみられる。

国と地方の長期債務残高は25年度末に、1330兆円に達する見通しだ。国内総生産(GDP)比は211%で、先進7カ国で突出している。財政健全化の取り組みを加速しなければならない。

財務省幹部は政府予算案をベストと自賛するが、原案通りに成立する見通しはない。与党が衆院で過半数の議席を持たないからだ。国会での修正は必定である。

与党が賛成を取り付けたい国民民主党は所得税の課税最低限の引き上げを、日本維新の会は高校授業料の無償化をそれぞれ求めている。

与党が予算成立の数合わせのために野党の要求を受け入れれば、さらなる歳出拡大につながる。与野党が協議すべきは政策の妥当性だ。

アベノミクスに批判的だった石破氏が首相就任後に変節し、財政拡張路線を続けるのは問題だ。国会で個別の予算の必要性や費用対効果を厳しくチェックしてもらいたい。