岸田首相「新しい資本主義」 メインバンクの主導権拡大、国家社会主義的な匂い漂う

文芸春秋「新しい資本主義」(岸田文雄) 政治・経済

実行なら“金融パニック”も 岸田首相「新しい資本主義」 メインバンクの主導権拡大、国家社会主義的な匂い(zakzak 2022/1/29 10:00)

岸田文雄首相は、通常国会冒頭の施政方針演説で、「経済再生の要は『新しい資本主義』の実現です」と胸を張った。

一国のリーダーの看板経済政策だが、その中身は専門家でもよく分からない。世界経済の減速に加え、新型コロナウイルスの新たな変異株「オミクロン株」の感染爆発もあり、27日の日経平均株価は大幅続落した。首相就任以来の株価下落を表して「岸田ショック」という言葉も聞かれる。

日本経済は大丈夫なのか。ジャーナリストの長谷川幸洋氏は、岸田首相の月刊誌への寄稿を読み込み、危険な「新しい資本主義」について考察した。

岸田首相が提唱する「新しい資本主義」の正体が明らかになった。ネーミングはもっともらしいが、中身が矛盾しているうえ、実行されたら「金融パニック」が起きかねないような、とんでもないシロモノである。

岸田首相は、月刊誌『文藝春秋』2月号に「私が目指す『新しい資本主義』のグランドデザイン」と題する論考を発表した。文章は「何を目指しているのか、明確にしてほしいといったご意見を少なからずいただきます」という書き出しから始まっている。

首相自身が中身が伝わっていないことを認めた形だ。

ようやく発表された中身を見ると、まずは「人的資本の重要性」を掲げた。欧米に比べて、企業の人材投資が小さい点を指摘して、3年間で4000億円を投じて100万人程度に「能力開発支援、再就職支援、他社への移動によるステップアップ支援」を講じる、という。

もうここで、「おいおい、ちょっと待てよ」と言いたくなる。「再就職支援や他社への移動支援」とは「雇用の流動化促進」であり、それは首相が大嫌いな「新自由主義」の政策そのものではないか。

正確に言えば、欧米では、もはや雇用の流動化促進を新自由主義などとさえ呼ばない。市場経済では、それが当たり前だからだ。だが、日本の左翼は首切り反対を叫んで、抵抗してきた。首相は「左翼に悪乗り」して、新自由主義を攻撃している。

例えば、この論考や国会の施政方針演説で、岸田首相は「市場や競争に任せれば、すべてがうまくいくという考え方が新自由主義」と述べた。だが、これは「曲解に基づく誇張」である。そんな極論を主張している「新自由主義者」は1人もいない。

確かに、新自由主義は市場や競争を重視する。だからといって、それで「すべて上手くいく」などとは唱えていない。必要な規制があるのは当然だ。私には、薄っぺらな理解に基づいて、悪質なデマを飛ばす首相は「左翼の共犯者」のように見える。

一方で、設備投資や今後5年間で官民合わせ、約120兆円の研究開発投資など「大胆投資」促進を掲げた。だが、前段では「人的投資」を強調したのではないか。しかも、その金額は億円単位の人的投資と桁違いだ。人的投資が口だけなのは明らかである。

企業の事業再編に絡んだ政策も驚くべき内容だ。

岸田首相は寄稿で、「メインバンクが必要と認めれば、他の貸し手の同意がなくても、債務の軽減ができるよう、法整備を図る」と表明しているが、極めて危険で重大な問題をはらんでいる。

こんなメインバンクの主導権を過剰に認める法律ができたら、メインバンク以外の金融機関は一斉に融資を引き上げてしまうのではないか。いつ、自行の融資が金利減免されてしまうか、分からないからだ。私は「金融パニック」が起きてもおかしくない、と思う。

この政策には、メインバンクの主導権を過剰に認めることによって、政府の裁量を拡大しようとする国家社会主義的な匂いがプンプンと漂っている。

岸田政権は本気で政策を実行に移すつもりなのか。それとも、また「朝令暮改」を繰り返すのか。答えは遠からず明らかになるだろう。