小泉進次郎氏、「クビを切りやすくなる」とかつて批判された解雇規制緩和に前向き 自民総裁選、候補者間には温度差(東京新聞 2024年9月14日 06時00分)
自民党総裁選で小泉進次郎元環境相が解雇規制の緩和を打ち出し、争点に急浮上した。成長産業への労働移動を促すとして解雇のハードルを下げる主張で、2003年当時に父の純一郎首相が法案を提出したが、「企業側がクビを切りやすくなる」と野党の反対を受けて頓挫した政策だ。13日の候補者記者会見では賛否が分かれたが、総裁選の行方次第では労働者側に「痛み」を伴う改革が再来しかねない。(大杉はるか)
「労働市場改革の本丸」と主張
小泉氏は立候補表明会見で「労働市場改革の本丸、解雇規制を見直す。人員整理が認められにくい状況を変える」と主張。首相就任後、来年の国会に法案を提出すると公約した。13日には「解雇の自由化」は否定したものの「前向きな労働市場をつくっていかなければいけない」と述べた。
企業側の都合による「整理解雇」は(1)人員削減の必要性(2)解雇回避の努力(3)対象者選定の合理性(4)手続きの妥当性―の4要件を考慮しなければならない。小泉氏は、大企業にリスキリング(学び直し)や再就職支援などを課すことで、4要件を満たさなくても解雇しやすくする考えだ。
父・純一郎氏が推進、野党の反発で頓挫
緩和は01年から純一郎氏が推進した政策。「企業がリストラ、構造改革をやめたら生き残れない時代だ」と訴え、03年に閣議決定した「規制改革推進3か年計画」に解雇基準の法律での明示や金銭解決による解雇の検討を明記。「使用者は法律により制限されている場合を除き、労働者を解雇することができる」と盛り込んだ労働基準法改正案を国会提出した。
しかし、当時の民主党など野党が強く反発し、与党からも慎重論が続出。最終的に法案の修正に追い込まれ、条文案は削除された。
それから約20年を経て、次男の小泉氏は「現在の解雇規制は高度成長期に確立した判例を労働法に明記したもので、大企業に解雇を容易に許さず、配置転換を促進してきた」と述べ、河野太郎デジタル相も金銭補償などの見直しを主張。一方、高市早苗経済安全保障担当相や林芳正官房長官、上川陽子外相らは慎重な姿勢を示す。
19年の経済協力開発機構(OECD)調査では、日本の「解雇しやすさ」は37カ国中11位。安倍内閣も16年に「雇用保護規制が比較的弱い国として位置付けられている」との答弁書を閣議決定している。
労働法制に詳しい古川景一弁護士は01年に日本経営者団体連盟(日経連)の奥田碩(ひろし)会長が「便乗解雇を容易にし、経営者のモラルハザード(倫理観の欠如)に直結しかねない」と緩和に反対したと説明した上で「自由な働き方を主張する前に、人員整理のルール整備や、1日の労働時間の上限設定など枠をはめることが先決だ」と強調した。
解雇ルール
労働基準法上、使用者は30日前の予告か、30日分以上の平均賃金を支払えば解雇できる。労働契約法では合理的な理由がなく、社会通念上相当でない解雇は、企業側の解雇権乱用とみなされ無効となる。解雇が認められるかどうかは、判例が積み重ねられた「整理解雇の4要件」などで判断される。