維新は何がしたいのか? 政治資金規正法論議で目立つ不可解な動き 野党同調 → 自民にすり寄り…思惑は(東京新聞 2024年6月5日 12時00分)
衆院採決が迫る政治資金規正法の改定案。不可解な動きを見せてきたのが、日本維新の会だ。企業献金の廃止などで他の野党と一致していたのに、自民党と接近。焦点の政策活動費では抜け穴が疑われる見直し案を先導した。そうかと思えば自民の規正法改定案に抵抗する。「是々非々」と言えば聞こえはいいが、打算が潜んでいないか。(西田直晃、宮畑譲)
急転、岸田首相と合意文書を交わす
「足並みをそろえたはずだったが、(維新は)いつの間にか方針を後退させてしまっていた。自民にすり寄ったのか、それとも抱き込まれたのか。いずれにしても情けない」
規正法改定案の採決が流れた4日、共産党の山添拓参院議員はこう憤慨した。
維新は審議入りを控えた当初、企業・団体献金の禁止や国会議員が連帯責任を負う連座制の導入といった点で、他の野党と歩調を合わせる構えを見せていた。
ところが、その後は一転して自民に急接近。5月31日には馬場伸幸代表が岸田文雄首相と会談し、合意文書を交わすに至った。
「10年後の情報公開」に実効性はあるのか
特に注目すべきは、政策活動費の扱いだ。
政党から党幹部を経由して議員個人に流れるが、受け取った政治家に収支報告の義務がなく、「ブラックボックス」と問題視されてきた。「こちら特報部」も追及し、透明性を担保する改革の必要性を指摘した。
だが維新案で情報が公開されるのは「10年後」。自民との合意文書にも「10年後に領収書、明細書、使用状況の公開」と記された。
不可解なのが「10年後」という区切り方だ。
22日の会見で、維新の藤田文武幹事長は「支出先のプライバシーや(政党の)戦略上の理由」と説明し、「いきなり公開するのではなく、機密性などの点で、ハレーション(周囲への悪影響)の抑止が必要。時間差を置いての公開は、公文書の世界では諸外国が取り入れている」と語った。
さらに、記者団の取材に応じた同党の青柳仁士衆院議員が「自民案の問題は、最後まで領収書を出さず、それでは何も分からない。10年後でも最後に公開するようにすれば、むちゃくちゃな使い方はできない」と強調した。
ただ「10年後の公開」は実効性に疑念が向けられる。
カネの抜け道を温存したいだけ
「政治とカネ」の問題に詳しい神戸学院大の上脇博之教授(憲法学)は「10年も前のことなんて、誰もが忘れてしまう。全く国民の知る権利に応えていない」と突き放す。
さらに「政党は離合集散を繰り返し、政治家個人も所属政党が移ったり、会計責任者が交代したりする場合がある。何の意味も持たなくなる」とも述べる。
「10年後の公開」となった場合、収支報告書の虚偽記載や選挙買収などの「政治とカネ」を巡る犯罪が公開後に判明しても、時効によって罪に問えないという指摘も出ている。
元特捜部検事で、国会議員秘書の経験もある坂根義範弁護士は「そのもくろみも一応あるかもしれない」と語りつつ、「時間を置かずに公開すると、次の選挙までに報道機関に調べられることになる。メディアの批判をかわしたい思惑のほうが強そうだ」とみる。
自民の裏金問題に端を発するのが今回の規正法改定の論議だが、先の上脇氏はいら立ちを募らせている。「ふたを開けてみれば、違法なカネを『どう残すか』に様変わりした。政治家はこれまでと同じ手法で選挙を勝つつもり。その方程式を温存したいだけだろう」
万博のつまずきで支持率急落、お膝元の選挙でも失敗
結局のところ、維新は何がしたいのか。政策活動費で自民と相乗りできる見直し案を示したのはなぜか。合意文書まで交わした思惑は何だったのか。
「大阪・関西万博でつまずいて、この1年で支持率が急落している。実は自民以上に追い込まれている。助け舟を出したように見えて、恩着せがましくすり寄っているだけ」
大阪を拠点にするジャーナリスト、今井一氏はこう読み解く。
実際、維新の政党支持率は低迷している。共同通信の世論調査によれば、昨年5月に維新12.6%、立憲民主8.8%だったのが、今年5月は維新7.4%、立民12.7%と逆転した。
維新は今春、衆院3補選のうちの2つで候補者を擁立したが、いずれも落選。大阪府大東市長選は藤田文武幹事長の選挙区内であったにもかかわらず、「お膝元」で擁立した候補者は敗北した。
全国的にも地元でも、勢いに陰りが見られる現状に、今井氏は「このままいけば、次の総選挙で自公も維新も伸びない。自公で衆院の過半数を取れないことを想定し、連立を組むための布石を打とうとしているのだろう。その時においしいポストをもらうための駆け引きだ」と説く。そして「政権与党に入れば、万博の予算を国から引き出せる可能性だってある」と指摘する。
「パーシャル連合」という皮算用
そもそも馬場氏は5月23日、衆院選で与党が過半数割れとなった場合、政策や法案ごとに政権に協力する「パーシャル(部分)連合」の可能性に言及しており、「連立入りするか閣外協力するか、パーシャル連合を組むのかいろんな連携の形はある」とも述べた。
不可解さは他にもある。
維新が自民と合意文書を交わした5月31日、会見した馬場氏は「われわれの案を丸のみした」と豪語した。しかし、維新側は今月3日の衆院政治改革特別委員会で一転、自民が示した規正法改定案を巡って「このままでは賛成できない」と発言、4日の衆院採決は先送りになった。
維新側は、政策活動費の使途公開の対象を「50万円超の支出」とした自民案に反発したというが、政策活動費を巡って維新が先導した「10年後の使途公開」がSNSなどで批判されたことが影響したのか。
「丸のみした」から「賛成できない」に変遷する経過を巡り、法政大の白鳥浩教授(現代政治分析)は「言っていることを変えたのなら、野党でも説明する責任がある」と訴える。
政権の延命に手を貸した維新に明日はあるのか
その上で根本的な姿勢を疑問視する。「維新は『身を切る改革』を掲げてきた。自民の秋波に応じず、厳しく攻め込めばよかった。単なる第2自民党、補完勢力だとみられるだろう」
ちなみに「第2自民党でいい」という趣旨の発言をしたのが維新代表の馬場氏。同氏は外相などを歴任した自民の故中山太郎氏の秘書を務めた過去がある。
肝心の規正法改定を巡っては4日、自民案が維新の求めに応じる形で修正され、6日にも衆院を通過する見通しになっている。
際立つのは拙速さだ。
白鳥氏は「政治とカネの問題をチェックできるようになる絶好の機会。国民の大きな注目が集まり、盛り上がっている」と述べる一方、「維新はその機運に水を差し、むしろ政権の延命に手を貸してしまった。野党としての存在意義がない。国民の支持は得られないだろう」と切り捨てる。
政治ジャーナリストの野上忠興氏も、足元が定まらない維新の今後をこう見通す。「国民をなめちゃいけない。カネの問題は敏感に反応する。他の野党と一緒に行動し、徹底的に抵抗したほうがよかった。維新の支持率はじり貧になるだろう。自民と一緒になっても使い捨てにされるだけだ」
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デスクメモ
維新と自民の急接近、合意文書の取り交わし。世の人びとは憤り、SNSも荒れた。土日が明けた3日。維新は自民が示した規正法の改定案を強く非難した。文中でも触れた不可解な対応。「批判そらし」「ガス抜き」をしているようにも見えてしまい、さめた思いがこみ上げた。(榊)