岸田首相も“ご飯論法” 旧統一教会系と面会問題で見えた姿勢(毎日新聞 2023/12/13 05:30 最終更新 12/13 05:30)
結局、「ご飯論法」じゃないか――。岸田文雄首相と記者団のやり取りについて、「ご飯論法」の問題点を紹介してきた上西充子・法政大教授(労働問題)に聞くと、あらわになったのは「丁寧な説明」を信条とする岸田首相の「背信」だった。【安藤龍朗】
記憶の有無を分けるもの
岸田首相が自民党政調会長時代の2019年に米国のギングリッチ元下院議長と党本部で会談した際、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の友好団体幹部が同席していた問題。岸田首相は12月4日、記者団にこう述べた。
<ギングリッチ元議長と、私が日本の元外相だった関係において会いました。その際、大勢の同行者がいたと記憶しているが、誰がいたかということは承知していません>
上西さんがまず着目したのは、岸田首相の表現ぶりだ。
「『承知していません』と言いながら、一方で『大勢の同行者がいた』とか、それなりに記憶があるじゃないかと思わせるところもある。都合のいいところは覚えていて、都合の悪いところは覚えていないふりをしているように見えます」
岸田首相は22年8月の記者会見で「私自身は知り得る限り、旧統一教会との関係はない」と語っていた。教団や関連団体との関係を巡り、自民党が同9月に党所属の国会議員を対象に実施した点検でも、接点があった議員の中に、首相の名前はなかった。
岸田首相とギングリッチ元議長の会談に同席していたのは、教団の友好団体「UPF」日本支部の梶栗正義議長と、UPFインターナショナル会長で米国の教団の元会長、マイケル・ジェンキンス氏だ。岸田首相に教団関係者と「接点」があったとなれば、自身の説明と矛盾することになる。
「桜を見る会」よりも
会談した4人が並ぶ写真が報じられた12月5日、岸田首相は記者団に説明した。
<写真については、同席者も含めて写真を撮ることは通例ありうると思います。しかし、写真があったとしても、私の認識に変わりはありません>
「主な同席者は3~4人にしか見えませんが」と記者に聞かれると、岸田首相は続けた。
<いや、それ以外にもいたと記憶しています。当然、元米国下院議長ですので、米国関係者をはじめ人数はいたと記憶しています>
上西さんが思い出すのは、安倍晋三元首相が疑惑を持たれた「桜を見る会」だ。
「大勢の来場者がいる桜を見る会で、いきなり求められて、一緒に写真を撮るケースと今回は全く状況が違います。岸田さんの場合は、会談の要請があって、応対すると判断した。実際に会談した際に、写真撮影に応じているわけです」
「大勢の同行者」というキーワードから想像される「断れずに撮影に応じてしまう」事態と、会談をとりまく事情は違っているとの指摘だ。
上西さんは「関係者」という表現が覆い隠すものにも目を向ける。
岸田首相は5日、記者団の取材にこう答えている。
<通訳者に確認しましたところ、記録はありません。会ったことは記憶していますが、内容については記憶していませんでした>
<ギングリッチ氏本人には確認しておりません。しかし、内容において関係者、私の関係者すべてに確認しました>
「岸田さんは、関係者すべてと言うが、そもそも関係者が誰から誰までのことを指しているのか分かりません。通訳者よりも会談を設定したスタッフなりに確認して、会談の経緯を説明する必要があるのに、それもありませんでした」
上西さんは浮かんでくる疑問点を次々と指摘した。
岸田首相は、旧統一教会関係者と知りながら会談したのか。記者団に対する説明を読み解いていくと、浮き彫りになったのは、岸田首相が問題の核心には答えようとしない姿勢だった。
失われた「丁寧な説明」
「安倍さんや菅(義偉)さんは、自分の言いたいことを言って、聞かれても答えないところがありました。でも、岸田さんはこれまで『何々というお尋ねですが……』と受けて、質問の意図にかみ合った話しぶりでした。岸田さんに首相が代わって、答弁にホッとした人もいたと思います」
確かに「聞く力」と「丁寧な説明」は岸田首相の看板だった。
「でも、よく聞いてみると、『引き続き丁寧に説明したい』のような言い方を繰り返し使ってきた。そして、今回のように事実関係に触れたくない場合は、岸田さんも『ご飯論法』を使って、都合の悪いことは隠してしまったわけです」
「ご飯論法」は論点をずらし、質問者の追及を巧妙にかわす手法だ。
「朝ごはんは食べましたか」と聞かれた時に「ご飯(白米)は食べませんでした」と答える。実際はパンを食べているが、「パンを食べた」とは言いたくないので、「ご飯」の話にすり替えて、答えたふりをする。
「隠したい事実=パンを食べた」には触れない。「ご飯を食べなかった」ことは事実なので、ウソを答えたことにはならない。しかし、質問者が求めた事実確認には答えない不誠実な対応だ。
今回の場合、大勢の同行者一人一人を認識していたわけではないと受け取れる言い方をした箇所が「ご飯を食べなかった」という論点ずらしに当たる。梶栗氏とジェンキンス氏の教団系幹部2人が、隠しておきたい「パン」だ。
UPF日本支部広報局は毎日新聞の取材に「ギングリッチ氏は安倍氏との会談を希望していたが、安倍氏の都合で実現しなかった。それで安倍氏側が岸田氏との会談をセットしたと理解している」としている。
上西さんは、岸田首相が「ご飯論法」を使った理由について、こう分析した。
「岸田さんが『会談時は教団関係者とは知らなかった』と言えば、以前の発言との整合性は保たれます。しかし、そうすると『安倍さん側に頼まれて会談したのか』という経緯まで追及されてしまいます」
会談の経緯について、ギングリッチ氏は毎日新聞の取材に「UPFを通じて会談した」と回答している。
岸田首相は8日の衆院予算委員会で、この点について「ギングリッチ氏側に私からも確認し、指摘のような説明をされていると承知している」と答弁したが、一方で「私自身はどういった経緯で会談に至ったか、全く認識していない」と述べている。
上西さんは嘆息する。「やはり、これまでの説明を覆すわけにはいかないのでしょう。都合の悪いことには一切触れずに、何とか取り繕おうとした姿勢が明らかでしたね」