自民党「政治とカネ」問題は岸田政権の致命傷になる

岸田文雄首相が総裁を務める自民党は「政治とカネ」問題で大揺れとなっている 政治・経済

自民党「政治とカネ」問題は岸田政権の致命傷になる(DIAMOND online 2023.12.6 5:55)

山崎 元:経済評論家

自民党の主要5派閥が「政治とカネ」問題で告発され、さらには「裏金疑惑」まで浮上して政界に激震が走っている。この騒動は、支持率が超低空飛行を続ける岸田政権の致命傷となるだろう。(経済評論家 山崎 元)

動いた東京地検特捜部 財務省の意向も働いた?

内閣支持率が、複数の調査で危険水域とされる30%割れの数字を記録し、しかも不支持の比率が高い岸田文雄内閣にあって、新たなスキャンダルが表面化した。政治資金パーティーの収入を政治資金収支報告書に適切に記載していなかったとして、岸田派(宏池会)を含めた自民党の主要5派閥が告発されたのだ。

さらに、自民党の最大派閥である安倍派(清和政策研究会)では、ノルマを超えて政治資金パーティー券を販売した収入の一部を議員に環流させて、これが政治資金として収支報告書に記載されていない「裏金」となったのではないかという疑惑が持ち上がっている。この問題に、東京地検特捜部が捜査に乗り出したようだ。

この疑惑は二階派(志帥会)でも浮上し、安倍派と共に裏金となった金額は1億円を超えるのではないかと報じられている。

安倍派では、元会長の細田博之氏が故人となってしまったものの、資金の流れを知り、ノルマを超えてパーティー券を販売した分の資金の環流を差配していたと見込まれる派閥の事務総長の顔触れを見ると、影響の大きさがうかがえる。松野博一官房長官に西村康稔経済産業大臣、高木毅国会対策委員長など、俗に言われる「安倍派5人衆」の中でも現役の要職にある3人が就いていたため、彼らは言い逃れのしようがない状態にある。

12月5日夕方時点では「裏金疑惑」までは報じられていないものの、岸田首相自身も岸田派のトップであり、またポスト岸田に意欲を見せているとの世評の茂木敏充幹事長も茂木派(平成研究会)の派閥トップであるために、派閥単位の「政治とカネ」問題の責任を問われる立場にあり、当面身動きが取りにくい立場だ。

一連の報道が事実なら、いずれも政治資金規正法違反であり、同法は不記載や虚偽記載の罰則を「5年以下の禁錮又は100万円以下の罰金」と定めている。政治家にとっては、致命傷になりかねない事案である。支持率の底が抜けて、岸田内閣が崩壊するのではないかとの観測にリアリティーが生じてきた。

東京地検特捜部が動いたのは、もちろん悪事を取り締まるのが仕事だからなのだが、筆者は、財務省の意向を受けて、岸田政権の幕引きに動き出したものだと考えている。財務省は増税を決めたい組織だが、岸田内閣がこれだけ弱体化すると、防衛費や少子化対策といった絶好の名目があっても、彼らが満足できる増税を実現するにはおぼつかないからだ。

それでは、これからどうなるのか。

「岸田退陣」はあるのか、あるとしたら次の首相は誰なのか。遠からず総選挙はあるのか。「一寸先は闇」という言葉があるごとく、政治の先を読むことは難しいが、筆者の仮説を提示してみたい。

政治的な黒幕は誰か? 思い当たる候補は2人いる

これだけ政治的に影響の大きな動きを取るに当たって、官僚組織のバックに有力な政治家がいないということは考えにくい。それは、誰だろうか。

候補が2人いる。一人は、麻生太郎自民党副総裁であり、もう一人は菅義偉前首相だろう。共に本人が首相再登板を目指すわけではないが、いわゆるキングメーカーの地位を目指す大物政治家だ。

財務省の判断が「岸田首相は使えない」だとして、これを取り除く一連の動きなのだとすると、財務・金融方面の親分的存在である麻生副総裁が岸田首相を見離したということではないか。

麻生派(志公会)には、自民党総裁・首相候補として国民の人気が高い河野太郎氏がいるが、同氏は岸田人事でデジタル大臣に押し込められ、マイナンバーカードの扱いを巡って大きく評判を落とした。麻生氏としては、直接次を狙わせないのだろうが、いつまでも岸田配下に置いておくわけにはいかないと考えるところだろう。

別の読み筋として考えられるのは、今回の主なターゲットが派閥の「政治とカネ」問題であることを思うと、無派閥の立場で岸田首相に対して批判も辞さない菅氏がいわゆる黒幕として有力だ。前回の総裁選では相当に悔しい思いをしているはずであり、このまま引き下がるとは思えない。

岸田首相の次は誰? 動けない「1回休み」の議員も多い

高市早苗経済安全保障担当大臣が、少人数とはいえ閣内にありながら勉強会を立ち上げた。そのことから、相互けん制構造で有力総裁・首相候補をがんじがらめにしてきた岸田人事のたがが緩み始めた。意味のある行動だった。今後それぞれの有力者が岸田氏と距離を少しずつ取ることによって、ひもの結び目が緩むように政治的自由度が増してくるのではないか。

ただし、今回の問題はことが政治資金規正法違反の疑惑なので、該当期間の派閥トップと事務総長の経験者は動けまい。それ以外の議員でも、個人的に大きなキックバックを手にして政治資金規正法上の手続きを踏まなかった議員は総裁・首相の候補たり得ないだろう。

金額や行動として、どの辺りが線引きの相場になるかを探りながら、各派閥で、あるいは無派閥で、「知名度があって、パーティークリーン」な人材のスクリーニングが始まるのではないだろうか。今回は1回休まざるを得ない派閥の領袖や大物は、その次を目指すことになる。

例えば、菅氏が担ぐのは誰だろうか。個人的な支持事情が分からないので確たることは言えないが、衆目の見るところ、いずれも国民の人気が高いとされる、小泉進次郎氏か石破茂氏だろう。

他には、どこから誰が出てくるのだろうか?

この状況で解散総選挙はあるか むしろ「早くやるべき」である理由

筆者の読み筋は、進次郎氏を立てて自民党総裁にして彼を選挙の顔にし、早期に解散総選挙を行うというものだ。もろもろの利害関係を考えると、善悪は別として、これが最も「政治的な理に叶う」ように思われる。石破氏は、さすがに党内に敵が多すぎるのではないだろうか。しかし、菅氏としては持っておきたい駒の1人だろう。

まず、当たり前だが、自民党は下野したくない。そして、同党にとって幸いなのは、野党の支持率が上がらず、しかも選挙協力が進まないことだ。そのおかげで、不人気な岸田首相を人気者の進次郎氏に取り替えてイメージを一新した選挙を行えば、少なくとも自民党が下野するような大敗は喫しないだろう。

場合によっては「進次郎ブーム」が起こるかもしれない。「岸田を降ろして、進次郎で政治改革!」なら、有権者の感情的にはかなり満足だろう。野党は、信頼も期待もされていない。

スキャンダルが続いて自民党全体が不評な中で、「解散総選挙などできるか」という声が党内にもあろうが、これは違う。むしろ、自民党は早期の総選挙を必要としている。

何度も繰り返すが、問題は逃れようのない政治資金規正法違反なのだ。その疑惑が、あまりにも多くの有力議員に広がっている。政治的には「落とし所」が必要であり、事情は東京地検特捜部と財務省にとってもそうだろう。政治を止めるわけにはいかない。

そして、この国の政治には、少々の悪事なら一度選挙を済ませて当選すると「禊ぎ(みそぎ)が済んだ」と開き直ることができる、いくらか特殊な政治習慣がある。今回の「スネ傷議員」の多くが、特に有力議員にあっては、禊ぎを済ませて早くペナルティーボックスから出て活動したい向きが多いはずだ。

「進次郎政権」が誕生すれば 財務省は満足だろう

仮に、小泉進次郎政権ができたとすると、財務省的には満足だろう。

小泉氏の過去の発言をたどると、国民には残念なことかもしれないのだが、意外に親財務省的で、いわゆる「財政再建」に対して親和的だ。彼の父親の小泉純一郎氏も、強い大蔵省(当時)とは対立せずに、相対的に弱かった郵政省(同)にターゲットを絞った。けんかの勘がいい人だった、と記憶している。大蔵・財務省には逆らうなという原則は小泉家の家訓なのかもしれない。

進次郎氏は、妻が有名人であり、子宝にも恵まれている。少子化対策を名目とした増税の旗振り役には絶好の人材だ。財務省的には、「増税1回分」の利用価値があると見ているのではないか。従って、当初は政権を支えるだろうし、しばらくは案外うまくいくかもしれない。

なお、進次郎氏が最近積極的に発言しているが、解散の大義とやらが「ライドシェア解散」では、さすがにみすぼらしい。何か格好のつく名目は、考えておいてほしいものだ。

以上、政治の話なので、勝手な読み筋を書かせてもらった。当たっている話があるかもしれないし、全くないかもしれない。

しかし、米国の支配の下で、岸田政権によって舞台回しされている現在の政治状況は、代わり映えのしない登場人物も含めて全く退屈で、最低限の関心を持つにも苦労する。

現在の筆者個人は、岸田首相が退陣することを強く支持しているが、その先に誰を応援しているわけでも、自分が政治参加するわけでもないという、政治的無関心寸前の感心できない有権者の一人にすぎないことを付記しておく。

山崎 元 経済評論家

58年北海道生まれ。81年東京大学経済学部卒。三菱商事、野村投信、住友信託銀行、メリルリンチ証券、山一證券、UFJ総研など12社を経て、2005年に楽天証券経済研究所客員研究員、23年3月から現職。