<社説>LRTの新規開業 公共交通軸の街づくりへ…山陽新聞

宇都宮市のLRT「雷都(らいと)」 社会

LRTの新規開業 公共交通軸の街づくりへ(山陽新聞 2023年09月10日 08時00分 更新)

岡山、総社市などでも計画がある次世代型路面電車(LRT)の新規路線が開業した。宇都宮市と栃木県芳賀町が整備し、8月26日に運行を始めた「宇都宮芳賀ライトレール線」だ。路面電車の開業は75年ぶりで、全線新設のLRTは全国初となる。過度な車依存から脱し、公共交通を軸に便利で持続可能な街づくりを広げる契機としたい。

路線はJR宇都宮駅東口から、芳賀町の工業団地の14.6キロを48分で結ぶ。車両は流線形の黒いボディーに黄色い稲妻が走るスマートなデザインが目を引く=写真。雷の多さから「雷都(らいと)」と称される宇都宮をイメージした。低床でICカードリーダーを全扉に設置し、ホーム側のどの扉からでも乗降できる。車いすやベビーカーの利用者、高齢者への配慮がうかがえる。

運行は市など出資の第三セクターが担い、運行に関わる電力は再生可能エネルギーで賄う。運転士の養成では、岡山電気軌道(岡山市)などに出向して経験を積んだ。

事業費は684億円で、国や県による助成、起債に伴う国からの交付税措置などにより市町の負担は200億円台とみられる。宇都宮市は2030年代前半までに、宇都宮駅西口から市中心部を通る約5キロの延伸を計画している。

ただ、最高時速が40キロに制限され、電車の優先信号もなく、速度の遅さが否めない。安全面は確保した上で、高速化や高頻度運行などによる利便性の向上が課題だろう。

LRTは、車社会の進展で郊外に広がり中心部の空洞化が進んできた都市の再生策などとして、1980年代から欧米を中心に路線新設が相次ぐ。近年はアジアなどでも進められているが、日本は出遅れてきた。

富山市で2006年、主にJR路線を利用したLRTが開通し、その後路線を拡充している例があるだけで、宇都宮が2番目となった。富山市と同時に03年、岡山市でも総社市と結ぶJR吉備(桃太郎)線のLRT化が構想されたが、長年進展がなかった。18年に事業化が合意されたものの、コロナ禍で中断状態となっている。

LRTが世界的に導入が進む背景には、都市の活性化にとどまらず、環境への優しさ、歩行距離が延びることによる健康増進効果などが指摘される。先行した富山市では、免許を返納した高齢者らの外出を促す効果や中心部の地価上昇に伴う税収増なども報告されている。個別の路線の採算で評価するのではなく、都市経営全体からの観点で収支を見ていくことも必要だ。