大阪万博 こんなんでホンマに大丈夫かいな 高い入場料、入札不調、膨らむコスト

2025年大阪・関西万博の開幕1000日前イベントで公式キャラクター「ミャクミャク」と写真に納まる岸田首相(前列右から2人目)=2022年7月18日、東京都墨田区で 政治・経済

大阪万博 こんなんでホンマに大丈夫かいな 高い入場料、入札不調、膨らむコスト(東京新聞 2023年6月22日 12時00分)

2025年大阪・関西万博の入場券の基本料金が、大人7500円と決まった。万博の入場料としては最高水準で、東京ディズニーリゾート(TDR)やユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)など人気テーマパークとほぼ同程度だ。なぜ? そんなに注目されていたっけ? 施設整備は入札の不調続きで難航している。コストに見合ったイベントになるのだろうか。

同じくらい払うならディズニーランドに

21日午前8時過ぎ、JR舞浜駅(千葉県浦安市)を訪れると、さまざまな年代や国籍の人々で混雑していた。東京ディズニーランドの入り口前は開園後すぐ、手荷物検査待ちの行列ができた。

駅前で待ち合わせ中だった派遣社員の50代女性=横浜市=は大阪・関西万博について「何となく聞いたことあるくらいで、よく知らない」と戸惑う。1985年の「つくば万博」には行ったが、「幼かったし、あまり覚えていない」。入場料7500円については「高い。それなら、もう少し足してディズニーに行きます」と即答した。

「通期パス」は3万円

TDRのチケット料金はディズニーランドとディズニーシーでそれぞれ、大人1日券が7900~9400円。大阪・関西万博の入場料はそれより安いが、TDRの来園者に聞くと、「高い」との反応が目立つ。

千葉県松戸市の男性会社員(38)は「万博で何をやるか全然知らないけど、7500円と言われるとディズニーを選ぶかな」と苦笑する。川崎市の20代女子大生も「大阪までの交通費も考えるとディズニーに行っちゃいますね」と話す。

70年に日本初開催された「大阪万博」に行ったという東京都内の60代女性も、「高いと思う」。大阪・関西万博では前売り券(大人4000~6000円)や、約半年の期間中に繰り返し使える「通期パス(大人3万円)」なども販売される見通しだが、この女性は「そんなに何回も行きたくなるかしら」と首をかしげる。

万博のテーマ「いのち輝く未来社会のデザイン」を知らない人も、少なくない。そんな中、横浜市の20代女子大生は「チャンスがあれば行ってみたい。成功するのか、見て確かめたいから」と話す。ただ、公式キャラクター「ミャクミャク」を知らないというので、「こちら特報部」が画像を紹介した。「あー、ひかれないかな…。スター・ウォーズのキャラのほうが好き」とドライな反応だった。

「ハリポタ」とは違う魅力

一方、16日にオープンしたばかりの人気映画シリーズ「ハリー・ポッター」の体験施設「ワーナーブラザース スタジオツアー東京」(東京都練馬区)。大人チケット料金は6300円で、21日は事前購入した来場者でにぎわっていた。

入り口近くから施設を眺めていた、地元に住む会社員斎藤勝美さん(66)は「8月分のチケットを予約したけど、気になって見に来た」。万博については「いろいろな展示館があるはずだから、料金もけっこうかかるんだろう。高いか安いかは、展示の内容次第じゃないかな」と述べた。

大阪府東大阪市から訪れた女性会社員(27)は「ハリポタやディズニーのような世界観を好きになるテーマパークと、万博とは魅力が違うと思う。万博では、未来へのわくわく感や楽しさを感じたい。せっかく地元の大阪でやるので行ってみたい」と期待。ただ、ちゅうちょするのはやはり入場料という。「中身がどうなるかまだ分からへんし、家族みんなで行くとなると高いかな…」

申請時は4800円だったのに

7500円という入場料は、過去の万博と比べても高い。1970年の大阪は800円、2005年の愛知も4600円ほどだ。

入場料は経済産業省が19年、博覧会国際事務局に登録申請した時、「44ドル(当時の設定レートで約4800円)」としていた。その後に6000円と報じられ、今月の理事会で7500円と決議した。申請時の1.5倍だ。

入場券の売り上げは、会場の警備など運営の費用にあてられる。入場料が申請時より高くなった一因とみられるのが、警備コストだ。日本国際博覧会協会によると、安倍晋三元首相襲撃や韓国での雑踏事故を踏まえ、1日1850人態勢で会場の警備にあたる。

「総額まだ定まっていない」

ある協会関係者は「元々、会場の警備や清掃に人を割かない前提で費用を算出していた。当初想定より人件費が膨らんでいる」と明かす。

運営費は発表された809億円から増える可能性がある。協会広報部の担当者は「総額はまだ定まっていない」と歯切れが悪い。

入場料は、過去の大規模博覧会を踏まえ、2820万人が来場するという予想に基づき算出している。開幕から2週間に限る「開幕券」(4000円)など割安な前売りプランもある。

広報部担当者は「予想来場者数の達成に向け、入場をばらけさせるために多様なプランを設けた」と説明するが、皮算用通りになるか見通せない。赤字の場合は誰が負担するのか。担当者は「仮定の話なので答えられない」と、これも歯切れが悪かった。

資材価格高騰と円安も直撃

会場整備の進捗も気になる。こちらの費用は国、大阪府・市、経済界が3分の1ずつ負担する。申請時は1250億円だったが、その後、設計変更で1.5倍の1850億円に膨張した。さらに、資材価格高騰や円安を受け、費用が増える見込みだ。

資材の高騰などのため、協会が見積もった予定価格と実勢が乖離かいりし、入札で不調が相次ぐ。開幕まで2年を切る中、入札になった六つのパビリオンのうち二つが落札に至っていない。メディアアーティスト落合陽一さんが手掛けるパビリオンは予定価格を1.9倍の約11億8000万円に引き上げ、再入札になっている。

協会整備の施設以外でも、日本政府が出展する「日本館」は予定価格内の応札がなく、事業者を任意に選べるが、割高になりがちな随意契約に変更された。

狙いは「跡地のIR活用」

一連の出来事で明白なのは、見通しの甘さだ。根底にカジノを含む統合型リゾート施設(IR)の誘致が絡んでいると、大阪の政治を取材しているジャーナリスト吉富有治さんはみる。

「会場は廃棄物処理場だった離れ島。土壌改良やインフラ整備の費用がかさんでいる。半年ほどの開催で採算はとれない。そもそも、府や市は万博開催を目的にしていない。跡地のIR活用につなげるのが狙いだ」

吉富さんはインターネットで世界中の情報が入る社会で、万博の役目は終わったと指摘する。「入場料7500円なんて、誰が行くのか。府民の関心も薄い。世紀の大失敗。赤字が出たら、埋めるのは国だろう」

東京五輪のやり方にそっくり

小さく見せて膨らませていく構図は、21年の東京五輪を彷彿とさせる。静岡大の鳥畑与一教授(金融論)は「円安やウクライナ情勢など想定外の要因も働いたとはいえ、推進ありきの杜撰さが目立つ。コストを甘めに見積もり、計画を進める従来のやり方が、五輪や万博、IRで表れている」と厳しい目を向ける。

鳥畑さんは、事業性が厳しくてもやめようとしない姿勢に苦言を呈す。「万博とはそれほど魅力的な観光イベントだろうか。赤字が出れば公費が投入されるだろう。日本では計画段階で失敗と分かっていても、国家的事業だと政治的思惑から撤退しない。責任を先送りし、ツケは国民に回すのは、もう改めるべきだ」

デスクメモ

東京から小学生の子を連れて一家で万博に行ったら、格安ツアーでもないかぎり、新幹線代を含めて軽く5万円を超える。よほどの見どころがないとなあ。見通しが甘くても進めるのは、マイナンバーをはじめ最近の日本のトレンド。マイナトラブルも「日本館」で紹介したら?