円安傾向いつまで続く?日々のニュースから、為替の「大きな流れ」をつかむコツ

5月26日の対ドル円相場 政治・経済

円安傾向いつまで続く?日々のニュースから、為替の「大きな流れ」をつかむコツ(me-mollet 2023.6.3)

加谷 珪一

1ドルが140円を突破するなど、再び円安が進んでいます。円の動きを巡っては多くの人が様々な見解を出していますが、今後の動きについてはどう考えれば良いのでしょうか。

市場というのは多くの参加者による予想の集合体ですから、将来、相場がどう推移するのか完璧に予測することはできません。しかしながら、市場の動きについて分析するコツは存在しています。そのコツとは「大きな流れ」と「個別要因」を分けて考えるというものです。

為替が動く時には、大抵の場合、原動力となる「大きな流れ」があります。そして、大きな流れの中で、日々のニュースなど個別要因で細かく相場が動くというメカニズムで価格が形成されます。

例えばですが、大きな流れとしては円安になっていても、個別要因として円高になるニュースが飛び込んでくると、一時的に円高に振れることがあり得えます。しかし、あくまで個別要因ですから、大きな流れに変化がなければ、一定時間が経過した後は、再び円安に戻る可能性が高いとの見立てが成立するのです。

こうした捉え方に慣れていない人は意外と多く、個別要因に過剰に反応してしまい、市場全体がそれに惑わされる現象がよく見られます。困ったことに専門家の中にも、両者についてうまく切り分けられない人が存在します。

学者やエコノミストなど、大きな流れを取り扱う専門家は、理論的な部分だけに着目し、短期のトレーディングを行っているようなプロの投資家は目の前の個別要因にばかり着目する状況になりがちです。メディア関係者がそれぞれの専門家に話を聞きに行き、当該情報だけを報道するということになると、全体を上手く捉えられないケースが出てくるわけです。

こうしたことを頭に入れた上で、昨年からの円安についてもう一度、整理してみましょう。今進んでいる円安の「大きな流れ」は、日米金融政策の違いです。

各国の中央銀行はリーマンショック以降、大量のマネーを市場に供給する大規模緩和策を続けてきました。ところが マネーをバラ撒きすぎた弊害が大きくなり、日本を除く各国の中央銀行は、金利を引き上げ、市場に供給したマネーを回収する政策を進めています。

一方の日本は、先進国では唯一大規模緩和策を継続しており、引き続き市場に大量のマネーを供給しています。米国は市場からお金を回収してお金の量を減らす政策を行っており、日本は逆に市場にお金を供給し、お金の量を増やす政策を行っていると解釈してよいでしょう。

ドルの量は減って価値が上昇し、円の量は増えて価値が下がるため、日本とアメリカの金融政策が変わらない限り、ドルが高く、円が安くなりやすい環境が続くことになります。これが昨年から続いているドル高・円安の最大要因であり、先ほどの説明で言うところの「大きな流れ」ということになります。

昨年は一気に円安が進み、一時は1ドル=150円を突破しました。米国では金利の引き上げがあまりにも急激だったことから、景気が悪くなるのではないかという懸念が台頭し、一部から金融の引き締めをやめるべきとの意見が出てきました。

もし米国の中央銀行が引き締めをやめれば、これはドル安要因となりますから、1ドル=150円を突破した後は、逆にドルが売られ、円高が進んでいたのです。しかし米国と日本の中央銀行の政策は何も変わっていませんから、これは先ほどの例で言うところの「個別要因」と考えた方が自然でしょう。

米国の中央銀行は、多少の混乱があっても金利の引き上げを継続するとの見方が強くなり、日本でも4月に新しく就任した日銀の植田総裁が、当面は大規模緩和策を継続するとの方針を明確にしました。米国は金融引き締めを継続し、日本はマネーのバラ撒きを継続することがハッキリしたわけですから、もともと想定されていた「大きな流れ」がまだ続くとの解釈が成立します。結果として、多くの投資家がドルを買う動きを強め、これが直近の円安の主要因となっています。

今後も、個別要因で円高に戻すケースは出てくると思いますが、日本とアメリカの金融政策が変更されない限り、円安が進みやすいという状況に変わりはありません。

加谷 珪一(Keiichi Kaya)
1969年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済評論家として金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。著書に「スタグフレーション」(祥伝社新書)、「貧乏国ニッポン」(幻冬舎新書)、「感じる経済学」(SBクリエイティブ)、「お金持ちはなぜ、「教養」を必死に学ぶのか」(朝日新聞出版)など。