こころの悩みSOS 「うつ病になったかも…」と思ったら 対処法を専門家が解説

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こころの悩みSOS 「うつ病になったかも…」と思ったら 対処法を専門家が解説(毎日新聞 2023/5/26 15:00 最終更新 5/26 16:34)

何をしても楽しくない、食欲がない、眠れない――。「もしかしてうつ病になったかも」と思ったことはありませんか。一人で悩んでいても解決にはなりません。大切なのは早期発見と早期治療です。一般社団法人「日本うつ病センター」副理事長の張賢徳(ちょう・よしのり)医師にうつ病が疑われる症状や重症度を調べる方法、信頼できる医療機関の条件などを聞きました。

そもそもうつ病とはどんな病気なのですか。

原因が完全には解明されていない「心の病気」です。そのため、当事者は病気を受け入れづらい側面があります。周囲から「気の持ちようだ」「根性が足りない」といったアドバイスを受ける人も多いですが、それは間違いです。脳内物質に変化が起きているため、病院での治療が必要になります。

普段は気にしないことを気にしたり、物事を否定的に考えたりすることは病気が引き起こしています。次第に日常生活に支障をきたすようになり、悪循環から抜け出せなくなります。

悪循環とはどのようなものですか。

大まかに、①ストレスを感じる出来事が続く②不安などで十分な睡眠がとれず、脳の機能回復が不十分になる③脳の機能低下によって身の回りの出来事を処理しきれなくなる④否定的な見方をすることで周囲の支援を「過小評価」し、誰にも相談できず一人で抱え込む⑤普段は気にならないことまで「大変だ」と思うなど、ストレスを感じる出来事が増える――といったものです。

 悪循環を形成している要素を一つずつ断ち切ることがうつ病の治療になります。ただ、医学が発展した現代でも脳については分からないことばかりです。脳の磁気共鳴画像化装置(MRI)や血液などの検査で診断がつくものではありません。精神科医が米国の精神医学会の診断基準「DSM―5」に基づいて患者の症状などを問診し、状態を判断しています。

うつ病の悪循環

うつ病にも種類があると聞きました。

体質や遺伝的な原因による「内因性うつ病」▽身体的な疾患が原因となる「外因性うつ病」▽外的なストレスに反応して生じる「心因性うつ病」▽性格が大きく関係する「神経症性(性格因性)うつ病」――の四つに大きく分けられます。

症状による分類もあります。「定型うつ病」は不眠や食欲低下、「非定型うつ病」は過眠や過食などが表れます。

いずれのケースも、生体エネルギーの低下(元気がなくなる)▽憂鬱感▽喜び感の低下▽興味・関心の低下――などがみられます。

軽症か重症かという違いもあるようですね。

重症度は「DSM―5」に基づいて、医師が判断します。例えば、ストレスに耐えきれずさまざまな不調が出る「適応障害」という病気がありますが、この病気の最大の特徴はストレスから離れると症状が軽快するという点です。職場にストレスがあっても、休日には友人と遊びに出かけたりして楽しむことができます。ところが、うつ病の場合は休日でも寝込んだり、楽しい気持ちがわかなかったりします。

また、一時的に気分が落ち込んでやる気が出ない「うつ状態」もあります。適応障害もうつ状態も、うつ病に発展する前に対処することが大切です。

うつ病のメカニズム

「そううつ病」(双極性障害)とはどんな病気ですか。

眠らなくても活動し続けられるなどの「そう状態」と、うつ状態を繰り返す病気です。うつ病とは違う病気で、治療法も異なります。

うつ病が疑われる場合、まず何をしたらいいですか。

インターネット上には、うつ病かどうかを簡単にチェックできるサイトがいくつもあります。中でも厚生労働省のサイトなどにある簡易抑うつ症状尺度「QIDS-J」がお薦めです。世界的な診断基準をもとに開発され、多くの国で使われています。睡眠の状況や精神状態を尋ねる項目に答えるだけで、うつ病の重症度などが調べられます。

厚生労働省のサイトより うつ病チェック(QIDS -J)

重要なのは症状の持続期間です。生きていれば、つらいことはあります。症状が数日のうちになくなれば「うつ病になった」とは言いきれず、2週間以上続いているかどうかが判断のポイントになります。症状が1カ月以上続いている場合は、我慢しないで医師に相談することをお勧めします。

また、今までできていたことができているか、日常生活に支障が出ていないかなども確認してください。落ち込んだり、悲しんだりすることは誰にでもあるため、学校や会社に行けていれば、「正常の範囲内」と考えることもできます。

医療機関には心療内科や精神科などがありますが、どの診療科を受診すればいいのでしょう。

精神科ではうつ病や統合失調症などの「心の病気」を主に扱っており、薬物療法や精神療法などが受けられます。一方で、心の葛藤やストレスなどは不眠をはじめ消化器の不調や微熱、頭痛などの症状につながります。そうした身体的な症状をみるのが心療内科で、内視鏡やエコーなどの身体的な検査が受けられます。どちらを受診しても問題ありません。

日本では30年ほど前から心療内科が注目されるようになりました。何となく行きやすいイメージがあるので、心療内科を持つ医療機関がだんだんと増えてきた印象があります。

また、精神科と心療内科の両方の要素があるメンタルクリニックなどもあります。いずれにせよ、信頼できる医療機関であるかをチェックするには、受診する前に医師が精神科や心療内科の専門医であるかを調べることが大切です。中には専門外なのに、集客のために精神科や心療内科の看板を掲げている医師もいるからです。

うつ病に対する偏見が根強く残り、受診しにくい人もいるようです。

偏見があるのは確かですが、以前より啓発が進み、受診者は増えています。昔は症状がひどくなり倒れてから受診するケースも珍しくありませんでしたが、今は軽い症状で受診する人がほとんどです。

頑張り屋の性格の人ほど、内面がぼろぼろになってから(症状をこじらせてから)受診しがちです。どんな病気もそうですが、我慢し続けていると症状が重くなり治療にも時間がかかってしまいます。早期発見、早期治療が一番です。

近くに信頼できる医療機関がない場合はどうすればいいのでしょうか。

地域格差は大きいですが、近くにあったとしても丁寧に診療をする医師がいる医療機関は人気があるので予約が取りづらいです。しかし、それは診療時間を長く取ってくれることの裏返しでもあります。なので、「診療は半年後」などと言われても新規予約を入れておくことをお勧めします。

うつ病はきちんと患者さんの声に耳を傾けないと治療の道筋を立てることが難しいので、初回は最低でも30分は診察時間を確保したいところです。評判のいい医療機関を受診できるまでは、別の医療機関に行くのもいいと思います。

うつ病の薬には吐き気などの副作用があり、抵抗がある人もいます。

薬の情報をインターネットで調べてから来院される人がいますが、細かく調べすぎない方がいいと思います。薬に対する不安があるなら遠慮なく医師や薬剤師に質問するといいです。

抗うつ薬は10種類以上もあり、患者さんによって体に合う、合わないがあります。1剤目が体に合わなければ2剤目、それでも効果が出なければ3剤目を試して、合うものを探していくしかないのです。

また、薬はそれぞれ4~8週間は試してみないと効果が分かりません。1~2週間服薬して効果が出ないからといって、「これは体に合わない」と判断するのは早すぎます。副作用を過度に恐れず、医師と一緒に合う薬を探していくといいと思います。ただ、うつ病になった血縁者に効いた薬は同じように効く傾向があります。体質が似ているからです。

最後に、治療後に再発させないための方法を教えてください。

うつ病の再発率は2回目が5割で、3回目が7割、4回目が9割となります。そのため、うつ病とうまく付き合っていくことも必要になります。

まずは自分で自分の状態に気づくことが大事なので、日記をつけるといいです。仕事が大変だったり、つらいことがあったりした日は気分の状態を「曇りマーク」などで記録し、曇りマークがずっと続いている場合は病院に行くというようにするといいと思います。

自分で不調に気づくことができれば、自分の問題として対処できます。その上で、それぞれに合ったリフレッシュやストレス発散の方法を試すなどのセルフケアができるといいですね。

また、人と話すこともうつ病の予防につながります。一人で抱え込んでいたら苦しいままですが、ちょっと話を聞いてもらうだけでも気持ちが楽になります。現実的なアドバイスや助けを受けられることもあるので、家族や親友などに話をする習慣を作ると良いでしょう。

張賢徳さん
1991年、東京大医学部卒。97年、英ケンブリッジ大で精神医学博士号取得。帝京大溝口病院精神科客員教授のほか、一般社団法人「日本うつ病センター」が運営する六番町メンタルクリニック院長を務める。専門は臨床精神医学と自殺予防学。