〈補選惨敗でどーする立憲民主党〉“最後の切り札”投入はあるのか? 内部では早期解散なら「維新に飲み込まれるぞ」の声も(集英社オンライン 2023.04.25)
終わってみれば自民党の4勝1敗に終わった衆参5補選。日本維新の会は1議席を獲得して存在感を示したが、全く存在感を示すことができなかったのが立憲民主党である。内部からも「早期解散なら打つ手なし」といった声が聞こえてきた。千葉・大分の補選とともに立憲の内情を詳報する。
「立憲は眼中にない」
4月23日に投開票された衆参5補選。千葉5区や参院大分選挙区では当選確実が日をまたぐほどの接戦が繰り広げられたが、ふたを開けてみるとどちらも自民党が制する結果に。
対する立憲民主党は全敗となり、大きく明暗が分かれた。日本維新の会が和歌山1区で議席を獲得して躍進するなか、立憲の存在感低下は危機的状況になっている。早期の解散総選挙も想定され、体制の立て直しが急務となるが、内部からは「打つ手がない」という声が漏れるなど、その憂いは深い。
「自民党の議席を増やすことができた。重要政策課題について『しっかりとやり抜け』という叱咤激励をいただいたと受け止めている。政治を力強く進めていきたい」
岸田文雄首相は24日、首相官邸で記者団に衆参5補選の結果についての受け止めを聞かれ、一語一語を噛みしめるように答えた。補選を巡っては、与野党で接戦となっているという事前の情勢調査が相次ぐなど、自民が野党に対して負け越すかもしれないという観測もあったが、結果的には自民が千葉5区と山口2区、4区、参院大分選挙区をおさえ、議席を1増やす結果となった。
自民党内からは「議席減になるかもしれないと覚悟していたが、まさかの議席増となった。ギリギリの票差のところもあったとはいえ、この結果は大きい」と安堵する声があがっている。
こうした中、改めて浮上しているのが、6月の国会会期末前後の早期解散論だ。
岸田首相は先ほどの官邸での受け止めで、続けて「いま解散総選挙については考えていない」と述べたが、一方で全国紙の政治部記者は語る。
「今、自民党が気にしているのは5補選で唯一議席を奪ってきた維新の存在だ。勢いづく維新が衆院選に向けて全国で候補者を立てきる前に解散すべきという声は多い」
維新は統一地方選の前半戦で行われた奈良県知事選で公認候補を当選させ、補選では和歌山1区で議席を獲得。地方議員数も馬場伸幸代表が目標に掲げた「600人以上」を達成し、大阪から全国へと足場を広げている。
解散時期の判断は維新の動向をどう見極めるかにかかっており、逆に立憲については「眼中にない」(前出の政治部記者)という。
対する立憲からは、補選で全敗したことについて「党の地力が完全に弱くなっている」と落胆する声が聞かれる。
立憲のスタンスは「古い」と捉えられている
例えば、約5000票差で敗れた千葉5区補選。報道各社は自民が制したことについて「野党候補の乱立で、政権批判票が分散したことも有利に働いた」(読売新聞4月24日朝刊)などとしているが、永田町では違った分析結果も出ている。
独自取材で入手した、自民党が4月に実施した情勢調査によれば、自民の英利アルフィヤ候補は自民支持層の6割強までしか浸透せず、11.1%が立憲、9.6%が国民民主、4.6%が維新の候補者に投票すると答えた。
これは、英利候補が生まれた時に中国籍であったことや、海外の滞在歴が長かったことから、一部の自民党支持層が敬遠して野党候補に流れたためだと見られているが、では、野党で候補者を一本化していたら、国民民主や維新に流れた票が立憲に全て乗っかったかというと、非常に怪しい。
その場合は自民候補の支持に一定数が残ったのではないかとも言われている。
維新も国民民主も候補者を立てて選択肢が増えたからこそ、英利候補から自民支持層の離反が進んだという見方もでき、野党乱立は必ずしも自民に有利に働いたとは言えないだろう。
一方で注目されるのは、この調査では18~29歳、30代の約3割が英利候補に投票すると答えるなど、若年層の自民への支持が一定数広がったことである。逆に立憲の矢崎堅太郎候補に投票すると答えた割合が一番多かった年代は60代以上だった。
立憲幹部はこの調査結果を見て、こう分析する。
「立憲は政権と対峙しているイメージが強いが、若い人たちは全共闘世代などとは違い、『反権力』と言われてもピンとこなくなっている。それよりも『私たちに何をしてくれるのか』ということへの関心が強く、今の立憲のスタンスは古いと見られているのだろう」
実際に矢崎陣営からは「辞職した薗浦健太郎議員の『政治とカネ』の問題を前面に押し出して戦ったが、もっと子育て支援などの政策についても主張するべきだった」との反省もあがった。
また、50代男性で県議経験が長い矢崎候補よりも、30代女性で若々しい英利候補のほうが若年層に受けが良かったという側面もあるだろう。
候補者を年齢や性別、見た目だけで判断するのはよくないが、立憲内からも「自民と立憲で候補者が逆だったら勝てただろう」「候補者が若返らないと、支持層も若返らない」という声が聞かれたのも事実だ。
党と候補者、どちらも刷新しなければ未来はない
実は千葉5区補選で立憲は、市川市長選に出馬した守屋貴子県議を擁立し、浦安市を地盤としてきた矢崎氏を応援に回すという案も検討されていた。
立憲の千葉県連幹部は「守屋氏のほうが自民党の強い市川市から票をもっと取って、勝ちきれたかもしれない」と語ったが、後悔先に立たずの結果となった。
議員経験が豊かな男性候補が、議員経験のない女性候補に敗れるという状況は、社民党党首まで務めた吉田忠智候補が、初めて国政に挑戦した銀座のママ、白坂亜紀候補に敗れたこととも重なる。
千葉とは違い、地盤も看板もあった大分で吉田氏が敗れたことは、僅差とは言え「勝たなければならないところで負けた」と党内のショックは大きい。
立憲は党と候補者のイメージの双方を刷新することが求められている。こうした中、最後の切り札として名前が挙がっているのが野田佳彦元首相だ。
立憲の中でも重量級の保守政治家として名高い野田氏を代表にすることで、リベラル色が強いと見られがちな党の路線を変更しようという戦略だ。
野田氏といえば、2011年の民主党代表選で自らをドジョウに例えた「ドジョウ演説」が有名だが、立憲関係者によると、その評判もあり、2022年参院選では各地から泉健太代表よりも応援演説依頼が殺到したという。
ただ、野田氏周辺は「党内のリベラル勢力を納得させて、党の方向性を一気に変えるほどの力がもう立憲には残っていない。野田氏の再登板には民主党政権で増税を主導したことへの反発も出てくるだろう」として、現実味は薄いと主張する。
そもそも、岡田克也幹事長は補選の大勢判明直後の記者会見で「代表が責任を取るという話ではない」と代表辞任を即座に否定し、泉代表も24日に「党運営の責任を果たしていきたい」と述べ、続投する意向を示している。
しかし、このままの状態で衆院選を迎えれば「立憲の看板では戦えないと、割れて維新に行く勢力も党内から出てくるのではないか」(党関係者)という懸念も広がる。
衆参5補選の結果を受けて、党をどのように立て直し、来るべき衆院選に備えるか。答えは見えないまま、解散の風音は日に日に強くなっている。
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取材・文/宮原健太
集英社オンライン編集部ニュース班
宮原健太(みやはら けんた)
1992年生まれ。2015年に東京大学を卒業し、毎日新聞社に入社。宮崎、福岡で事件記者をした後、政治部で首相官邸や国会、外務省などを取材。自民党の安倍晋三首相や立憲民主党の枝野幸男代表の番記者などを務めた。2023年に独立してフリーで活動。YouTubeチャンネル「記者YouTuber宮原健太」でニュースに関する動画を配信しているほか、「記者VTuberブンヤ新太」ではバーチャルYouTuberとしても活動している。取材過程に参加してもらうオンラインサロンのような新しい報道を実践している。