政府の少子化対策たたき台 財源あいまい、時期は未定、どこが「異次元」? 保育現場の受け止めは「この程度では」、難題は財源

政府の少子化対策たたき台 財源あいまい、時期は未定、どこが「異次元」? 政治・経済

どこが「異次元」?政府の少子化対策たたき台 難題は財源、社会保険からカネを集める案まで登場

どこが「異次元」?政府の少子化対策たたき台 難題は財源、社会保険からカネを集める案まで登場(東京新聞 2023年4月1日 06時00分)

政府が31日発表した少子化対策のたたき台は、網羅的ながら踏み込み不足が目立ち、岸田文雄首相が年初に打ち上げた「異次元」かどうかを判断する以前の状態だ。若い世代の所得増、出産費用の保険適用などの項目は掲げたが、具体的内容や予算規模の本格検討はこれから。全体像が固まったとしても、財源確保の議論は難航必至だ。

「若い世代の賃上げ」具体策見えず

小倉将信こども政策担当相はたたき台を発表した記者会見で「長年の課題解決に向け、まずは必要な政策内容を整理する観点から取りまとめた。これをベースに国民的議論を進めていく」と説明した。

現状では未知数のメニューが少なくない。

出産費用の保険適用は、実現すれば3割負担が発生する。その場合、4月から50万円に引き上げられる出産一時金より自己負担額は下がるのか。上回るなら、保険適用に加えて助成を上乗せするのかなど論点は多い。

若い世代については、たたき台で「結婚の希望を持ちながら、所得や雇用への不安から将来展望が描けない」と指摘。「最重要課題である賃上げに取り組む」と掲げたが、具体策は見当たらない。

男性育休の取得促進に関しては、産後の給付率「手取り10割」という具体策を掲げた。だが、期間は最大28日間と1カ月に満たない。大事なのは短期間の育休取得率を上げるのではなく、十分な期間の確保や夫婦がともに育児と仕事を両立・分担できる労働環境整備のはずだ。経済界の反発を恐れたのか、少子化の一因とされる長時間労働を規制する制度には言及しなかった。

消費税「10年上げない」明言しただけに

財源を巡っては、増税や国債、社会保険からの拠出が取りざたされているが、方向性は出ていない。

増税なら消費税が有力な選択肢になる。与党内には将来を見据え、議論を始めようという動きもあるが、首相は引き上げを「10年間行わない」と明言。「教育国債」を推す声もあるが、借金を将来世代に付け回すことになるため、首相は慎重な姿勢を崩していない。

政府・与党の一部で浮上しているのが「社会保険案」だ。年金や医療、介護の各社会保険から一定額ずつを基金に拠出し、子ども関連予算に充てる内容。急激な少子高齢化で各保険とも財政が悪化する中、人口が増えれば制度維持にも貢献するとの理念に基づく。

ただ、保険料への上乗せ徴収となれば増税と同じで、個人も企業も負担が増える。岸田政権は、防衛費の倍増方針では早々に1兆円の増税を決めたが、防衛費を含む予算全体の抜本的な歳出見直しを求める声が高まる可能性もある。

財源あいまい、時期は未定…政府「少子化対策のたたき台」 保育現場の受け止めは「この程度では」

財源あいまい、時期は未定…政府「少子化対策のたたき台」 保育現場の受け止めは「この程度では」(東京新聞 2023年3月31日 20時48分)

政府は31日、岸田文雄首相が掲げる「異次元の少子化対策」のたたき台を発表した。子育て施策の焦点の一つだった保育士の配置基準は変えず、保育士1人が受け持てる1歳児を6人から5人、4、5歳児は30人から25人にできるように運営費を増額する方針を示した。配置基準を変えると、保育士不足の現状では人員を確保できない保育所がでる可能性があり、基準の改定は見送った。保育現場からは「この程度では現状と変わらない」といった声も上がる。

保育士の配置基準
保育士1人が受け持てる子の数を定めたもので、国が1948年に制定。保育所に支給される運営費のうち、人件費にはこの基準も反映される。98年に0歳児の基準を「保育士1人で6人」から「3人」にしてから改定がない。国は2015年度から3歳児は20人に1人の基準は変えないまま、15人に1人の配置ができるよう費用を給付している。

自治体の取り組みで既に改善後の水準満たすケースも

認可保育所「船堀中央保育園」(東京都江戸川区)を平日の午後5時ごろ訪ねると、4、5歳児20人ほどがブロック遊びやお絵描きをして保護者の迎えを待っていた。保育士は2人いる。でも「みてみてー」と呼ぶ園児に1人が向かい、お迎えの保護者にもう1人が対応すれば余裕はない。

「基準を4、5歳児20人以下で保育士1人ぐらいに変えなければ、現場の負担感は減らない」。この保育園を運営する社会福祉法人「東京児童協会」の菊地幹さん(37)は話す。

4、5歳児に対する国の配置基準は75年間も据え置かれるなど、人手が足りない現場のニーズを反映してこなかった。このため都内など都市部を中心に、自治体は独自の施策で運営費を加算。「自治体の補助金などを活用し、国基準を上回る保育士を置いている園が多い」と菊地さん。

1歳児も江戸川区は「1歳児5人に保育士1人」の基準で園を運営するよう求め、独自に運営費を加算。今回、政府が示した改善後の水準を既に満たしている。菊地さんは「今回の改善は第一歩。基準の改定や保育士の労働環境の向上につなげてほしい」と求めた。

鶴見大の天野珠路教授(保育学)の話
保育は公的福祉であり、しっかり法律にのっとって配置基準を見直さなければ、さらに保育の質が下がる恐れがある。

全てやるなら「6兆円」? 実現に至らない可能性も

政府が31日に発表した少子化対策のたたき台では、2024年度から3年間を「集中取組期間」と位置付け、「加速化プラン」を明記した。児童手当の拡充をはじめとする経済的支援の強化や、子ども・子育て世帯向けサービスの拡充などが柱だが、詳細な制度設計はほぼ先送りし、必要になる予算規模も明らかにしていない。いずれも実施時期は未定で、財源を確保できなければ実現に至らない可能性もある。

たたき台は「試案」の位置づけ。児童手当については、現金給付が諸外国に比べて手薄だとして、所得制限を撤廃するとした。現在は中学生までの支給期間を高校卒業まで3年間延長することも掲げた。さらに多子世帯の増額方針も打ち出したが、財源のめどが立っていないため、具体的な加算額は示していない。

若い世代が希望に沿って結婚、出産できる環境整備の一環で、男女とも約1カ月間に限って育休給付金を手取り額10割相当に引き上げたり、自営業者やフリーランスを対象にした育児期間中の国民年金保険料免除制度を創設したりすることも盛り込んだ。しかし、既にある仕組みの手直しになるとみられ、少子化の傾向を反転させる効果は見通せない。

自民党から要望があった出産費用の保険適用や学校給食費の無償化もメニューに加えたが、「検討」や「課題の整理」にとどめている。政府関係者は、26年度までの実現に懐疑的だ。

「加速化プラン」の全ての施策を始めるだけでも、新たに必要となる予算は「国と地方で6兆円」(与党幹部)という見方がある。政府は近く、首相の下に新たな会議体を設置し、施策の具体化や財源の確保策の検討に着手するが、負担増の議論になれば、国民の反発も予想される。