<社説>新年度予算成立 首相は説明不足の自覚を…新潟日報、信濃毎日新聞

参院本会議で23年度予算が可決、成立し、一礼する岸田首相ら(28日) 政治・経済

<社説>後半国会へ 首相は説明不足の自覚を…新潟日報

後半国会へ 首相は説明不足の自覚を(新潟日報 2023/3/29 6:00)

2023年度予算案は28日、与党などの賛成多数で可決、成立し、通常国会は後半へ折り返す。これまでの論戦はすれ違いが多く、首相の説明不足も目立つ。

後半国会は重要法案の審議が焦点となる。政府は疑問を解消する説明を心がけ、与野党は改めて議論を深めてもらいたい。

23年度予算は一般会計の歳出総額が114兆円を超え、過去最大規模となった。ポイントは、過去最大の6兆8千億円超となった防衛費を巡る問題だ。

政府は、他国領域のミサイル基地などを破壊する反撃能力(敵基地攻撃能力)の行使に用いる米国製巡航ミサイル「トマホーク」の取得に2113億円を計上した。

国会論戦では400発の取得を明らかにし、岸田文雄首相は反撃能力について、米軍に依存してきた打撃力の一部を日本が担うとの考えも表明した。

自衛隊の役割が「盾」から「矛」へ変容する可能性を認めるものだ。専守防衛の理念が形骸化する危うさを露呈したといえる。

一方で首相は、反撃能力を「ミサイル攻撃から国民を守る『盾』の能力だ」とも強調し、矛盾する印象を残した。

反撃能力を実行するケースについては「手の内を明かすことになり控える」とし、はっきり答えようとしなかった。

これでは、国際法が禁じる先制攻撃に当たるといった疑念を払拭することはできない。

今後5年間で43兆円に増額する防衛費の財源が示されないことも、議論の深まりを妨げた。

後半国会ではこうした点が改めて追及されねばならない。

残念なのは、放送法の「政治的公平」の解釈について、安倍政権下で事実上変更した経緯に関する総務省の行政文書を、当時総務相だった高市早苗経済安全保障担当相が「捏造」と発言し、その混乱が尾を引いていることだ。

参院予算委員会では、質問権を否定するような答弁を委員長に注意され、撤回する場面もあった。

野党は追及姿勢を強めたが、高市氏の答弁に振り回され、解釈変更と官邸の関わりといった問題の本質は明確にならなかった。

高市氏は28日の予算委でも文書を「怪文書の類いだ」と突っぱね、担当局長から自身へのレクも重ねて否定した。それならば高市氏は、解釈変更の答弁に至る経緯を自ら明らかにするべきだ。

後半国会では、原発の60年超運転を可能にする関連法改正案や、予算倍増方針の少子化対策などが論戦の柱となるだろう。

ウクライナ電撃訪問や日韓関係改善が好感し、内閣支持率には追い風が吹くが、国民に関わりが深い政策に対する説明不足が続けばまた逆風になる。

首相はそう自覚し、今後は明確な説明に努めてもらいたい。

<社説>新年度予算成立 説明も議論も置き去りに…信濃毎日新聞

〈社説〉新年度予算成立 説明も議論も置き去りに(信濃毎日新聞 2023/03/29 09:31)

過去最大の114兆円超に上る2023年度予算が成立した。

歳出額が増えた最大の要因は、防衛費の歴史的な増加だ。6.8兆円を計上した。

内閣の判断だけで使える予備費にも5兆円を盛った。全体の3分の1を占める社会保障費も高齢化を背景に増え続けている。

これほどの防衛費や予備費が本当に必要か。財源は確保できるのか。持続可能か。歳出の抑制も考えないで大丈夫か。

そうした疑問や不安の数々が国会の審議で十分に議論されることはなく、置き去りにされた。

岸田文雄政権は結局、逃げの答弁に終始した。防衛費では安全保障上の秘密を理由に、増額の根拠に関する説明を避けた。

防衛力の抜本強化を掲げる岸田政権は昨年、今後5年間の防衛費を、これまでの1.5倍超の43兆円に増やす計画を決めた。23年度はその初年度に当たる。

ミサイルや艦船などの防衛装備は、いったん増やせば維持や訓練に毎年、費用がかかる。恒常的に必要となる予算だ。

少子高齢化が進み税金を納める人が減るなか、それを賄っていかねばならない。年金や医療、子育てなどの社会保障も当然カバーしながら、である。

そんな危うい道に大きく踏み出す予算であるにもかかわらず、国会の審議は一向に議論が深まらなかった。状況は深刻だ。

参院予算委が、放送法に関する総務省文書を巡る問題などに多くの時間が割かれた影響もある。

だが本質的には、深刻な財政状況と正面から向き合おうとしない政権や与野党議員の姿勢に問題があるとみるべきだろう。

岸田首相は今年、子ども関連予算を倍増する方針を打ち出した。今後の予算で重要課題となる。これも財源を示していない。

そもそも何を基準に子ども予算とし、倍増はいくらを指すのか。深く考えていなかったことが国会審議で明らかになった。

首相は「まずは政策の中身」とするが、体のいい言い逃れだ。当面の政権浮揚ばかり考えたアピール優先の姿勢が透ける。財政再建は先送りの繰り返しである。

国会議員の間には、政府が借金を重ねても問題は生じない、との見解も存在する。それが一定の影響力を持ち、政権に影響を与えている面もある。

その主張に明確な根拠はない。子どもの将来を重視すると訴えるのなら、まずは無責任な楽観論を排すべきではないか。