岸田首相「異次元の少子化対策」の呆れた魂胆 財務省に操られ消費税20%に!?(AERAdot. 2023/01/24 18:00)
筆者:村上新太郎
岸田文雄首相が突如打ち出した「異次元の少子化対策」。昨年の全国の年間出生数が初めて80万人を割り込むという危機的見通しのなか対策は必須だが、気になるのは財源。岸田官邸が描く答えはずばり「消費税増税」だ。現状をリポートする。
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「異次元の少子化対策に挑戦する。そんな年にしたい」
岸田首相は1月4日、伊勢神宮(三重県伊勢市)で行った年頭記者会見で、こうぶち上げた。「異次元」という表現も大仰だが、その中身も、「6月の『骨太の方針』までに将来的な子ども予算倍増に向けた大枠を提示する」という壮大なものだった。
「年頭会見はその年の最も重要な政策課題を示す場。少子化対策は今年前半最大の課題に位置付けられたと言ってもいい」(首相周辺)
岸田首相の号令を受け、1月19日には関係府省会議(座長・小倉将信こども政策相)の初会合が開かれた。今後、児童手当や保育サービスの充実などの具体的な政策を検討し、骨太の方針に盛り込むことを目指す。
それにしても、昨年決めた防衛予算倍増の財源について激論になっているさなかに、さらに子ども予算までをも倍増するというこの流れ。岸田首相はよほど「倍」が好きなのかもしれないが、本当に実現できるのか。政府関係者はこう語る。
「異次元の少子化対策なんて突然出てきた話で、自民党議員も“寝耳に水”という反応が多かった。振り付け役は財務省で、ずばり、将来的な消費税増税の布石と言っていいだろう。岸田首相にしたら、防衛増税で政権への逆風が強まったこともあって耳触りのいい少子化対策を前面に打ち出して雰囲気を変えたかったんだろうが、結局、また増税の話になってしまう。4月の統一地方選までは財源論議は封印せざるを得ないから、政権はますます追い込まれる。財務省は自分たちのやりたい政策を全部、岸田首相にやらせて、最後は“捨て駒”にするつもりだ」
すでに、増税の足音は聞こえてきている。岸田首相の年頭会見に呼応するように、自民党税調幹部の甘利明前幹事長が5日のテレビ番組で少子化対策の財源について「将来の消費税(増税)も含めて、地に足をつけた議論をしなければならない」と発言。松野博一官房長官は翌6日の会見で「(消費税の税率に)当面触れることは考えていない」と打ち消したが、据え置きはあくまで「当面」。財務省関係者によると、省内では近い将来の「消費税12%」はすでに視野に入っているという。
経済官庁の副大臣を経験した自民党議員が語る。
「財務省としては少子化や日本経済の低迷などにより今後、財政状況が最悪になるのを見越して10年、20年スパンの財政計画を立てる。このままでは消費税増税やむなしという前提でやらざるを得ない。防衛費も今後、増えていくなか、少子化対策も効果が出ず空振りに終われば、長期的には消費税20%台も現実味を帯びてくるだろう」
ただ、消費税増税は、これまで首相が増税発言に絡んで辞任に追い込まれたケースもあり、政権にとっては「タブー中のタブー」だ。このため、政界では「岸田政権では無理。せいぜい、岸田首相在任時は『芽出し』をするぐらい」(政界関係者)との見方もある。
■首相批判の菅氏 他派とも連携か
岸田首相自身、21年の総裁選で「10年程度は(消費税率を)上げることを考えていない」と明言しており、財務省内でも、「19年に10%に引き上げたばかりで、さすがに早期の消費税増税は無理だろう」との観測だという。
岸田首相は昨年末に出演したテレビ番組で、倍増する防衛費の財源確保のための増税を実施するまでに衆院解散・総選挙を行う考えを示した。ところが、年頭の会見では「日程上、可能性の問題としてありうると申し上げた」とトーンダウン。増税をかけて解散に打って出るほどのエネルギーは感じられない。
自民党安倍派中堅は政権の厳しい現状を語る。
「岸田首相は『選挙』をちらつかせて党内へのけん制、求心力アップを図ったんだろうが、実態は支持率30%前後で全然上がらないし、年明けにG7各国を外遊した効果もなかった。首相一人がギアを上げたところで、解散戦略は描けない」
生煮えで投げ込まれた「異次元の少子化対策」は、政局の引き金になりかねない。年明けから「反岸田」のキーマンに躍り出たのが菅義偉前首相だ。
菅氏は訪問先のベトナムで10日、記者団に対し、「国民の声が政治に届きにくくなっており、懸念を感じている」と岸田首相を公然と批判。さらに、首相就任後は派閥を離脱するのが慣例なのに岸田派にとどまっているとして「派閥政治を引きずっていると見られる。国民の見る目は厳しくなる」と語った。
菅氏のこれらの発言は同日発売の月刊誌「文藝春秋」2月号に掲載されたインタビューとほぼ同じで、ベトナム同行の記者が記事内容を確認したのに対して答えたにすぎない。だが、発言はこれにとどまらず、18日のラジオ番組では少子化対策について、「これだけ物価高の中で消費税の議論というのはあり得ない」とバッサリ。以前から岸田首相と相克の関係にある菅氏が厳しい批判を繰り広げたことで、いよいよ「岸田降ろし」への動きが始まるのではないかと受け止められ、永田町に波紋が広がった。
菅氏に近い無派閥議員がこう語る。
「菅氏は首相の政権運営を懸念している。政権が行き詰まれば、菅氏こそが『ポスト岸田』政局の旗印になる。『そのとき』に向けて、存在感をアピールする意図があったのではないか」
菅氏は、自身を支持する無派閥グループをはじめ、二階派とも距離が近い。今後の展開次第では、現在は政権を支える森山派(旧石原派)や安倍派の一部とも連携し、150人規模の陣容を整えられるという観測もある。政治アナリストの伊藤惇夫氏はこう話す。
「現段階では真意は測りかねますが、菅氏は自らの再登板は望んでいないはず。河野太郎デジタル相などを前面に打ち出して、自分の思うような人事や政策を実現させるキングメーカーを目指しているのではないか」
自民党岸田派幹部は、菅前首相の動向について「自分が首相になるときに安倍派や二階派のお世話になっておいて、派閥批判はおかしい」と不快感を示した。
■小池氏の現金案 岸田官邸は騒然
菅氏が突然、岸田批判を始めたきっかけについては、「NHK会長人事への遺恨ではないか」との見方もある。
岸田首相は昨年12月、任期満了に伴うNHKの後任会長に元日銀理事の稲葉延雄氏を充てる人事を決めた。NHKといえば、所管の総務行政を牛耳ってきた菅氏が大きな影響力を持つと言われる、いわば“菅氏のシマ”だ。
「菅氏は意中の財界人を押し込もうとしたが、首相に阻止された。利権を侵されたことへの怒りと焦りがあるのだろう」(前出の政府関係者)
永田町の外でも、見逃せない動きが起きている。
岸田首相が伊勢神宮で少子化対策を高らかに宣言した同日、東京都の小池百合子都知事は都庁職員向けの年頭あいさつで、出生率向上策として都内の0~18歳の子ども全員に一律5千円を毎月支給する案を表明した。
中身が詰められていない岸田首相の「異次元の少子化対策」に比べ、現金5千円は賛否両論あれど具体的。官邸内は「寝耳に水。小池にやられた!」(官邸関係者)と騒然となったという。都政関係者はこう語る。
「23年度中に12カ月分の6万円を一括振り込みすることで実績を積み、国政に復帰しようという意図ではないか。今年衆院選があれば小池氏は出馬するかもしれない」
昨夏の参院選前後から、自民、公明、国民民主の連立構想が取りざたされていることから、こんな見立てもささやかれる。
「国政復帰後、以前から関係の近い国民民主党の代表となり、細川護熙元首相のように連立政権の首相として担がれる構想ではないか。日本初の女性首相を諦めてはいないだろう」(自民党長老)
「岸田降ろし」が始まりかねない気配の中、首相は人心のつなぎ留めに必死だ。新年、真っ先に夜会合を共にしたのは二階俊博元幹事長と近い森山裕党選対委員長だった。5日夜、東京・赤坂の日本料理店で、衆院選に向けて「10増10減」を受けた選挙区調整を急ぐよう指示した。6日には安倍派の後任会長を目指す萩生田光一党政調会長と官邸で会い、防衛費増額に伴う増税以外の財源確保策と「異次元の少子化対策」の内容について、党内で検討を進める方針を確認した。
前出の自民党岸田派幹部は、あくまでも強気な予測を示す。
「首相は今年、勝負をかける。中間層を重視し、分配政策と財政・金融政策の正常化を柱に『キシダノミクス』を進め、6月の『骨太の方針』に少子化対策を盛り込む。それ以降は、いつ解散があってもおかしくない」
だが、23日に召集された通常国会では野党から引き続き旧統一教会(現・世界平和統一家庭連合)との癒着ぶりを追及されるのは必至。岸田首相本人をはじめ松本剛明総務相や岡田直樹沖縄・北方担当相らは政治とカネの疑惑も指摘されている。防戦一方になり支持率がさらに下がれば「岸田降ろし」が始まり、退陣に追い込まれる可能性も否定できない。岸田首相にとって、正念場の一年が始まった。(本誌・村上新太郎)
※週刊朝日 2023年2月3日号