<社説>年のはじめに考える 民主主義 取り戻さねば…東京新聞

東京新聞社説20230119 政治・経済

<社説>年のはじめに考える 民主主義 取り戻さねば(東京新聞 2023年1月5日 08時01分)

岸田文雄首相が三重県伊勢市で年頭の記者会見に臨み、「未来の世代に先送りできない課題に愚直に挑戦し、一つ一つ答えを出したい」と語りました。

その意気込みは是としたいところですが、昨年、国民的な議論なく、首相の独断で決まった敵基地攻撃能力(反撃能力)保有など安全保障政策の大転換や防衛費倍増のための増税、原発新増設方針を見過ごすわけにはいきません。

首相が二〇二一年十月の就任時に「民主主義の危機」を掲げたのは「国民の声が政治に届かない」と感じていたからでしょう。しかし今はこう問わねばなりません。「『民主主義の危機』を招いているのは首相ではないのか」と。

首相が会見で今年の優先課題に挙げたのが、賃上げの実現や子育て支援の強化でした。でも、首相の言葉を額面通り受け取れない有権者も多いのではないか。「聞く力」をうたい文句にしたはずですが、国民の声を聴かない独断が目に余るようになったからです。

首相就任から一年三カ月。約束したことは実行せず、公約しなかったことを決める政権であることが、はっきりしてきました。

◆首相の独断で政策転換

その最たる例が防衛費増額のための増税です。岸田自民党は二一年衆院選や昨年の参院選で防衛力強化を公約しましたが、財源確保策には触れていませんでした。

自民党内の反発で増税時期の決定は見送られたものの、首相指示から短期間で復興特別所得税の一部転用と法人税、たばこ税の増税方針が決まってしまいました。

そもそも増税の前提である、防衛費を関連予算と合わせて二七年度に国内総生産(GDP)比2%に「倍増」させることの妥当性が国会や国民を巻き込んで幅広く議論されたわけではありません。

敵基地攻撃能力の保有という、戦争放棄、戦力不保持の憲法九条に基づく専守防衛を逸脱しかねない安保政策への転換も議論を欠くと言わざるを得ません。

エネルギー政策の大転換も同様です。自民党は「原子力の最大限の活用」を公約しつつも、新増設といった原発回帰には踏み込みませんでしたが、岸田政権は原発新増設や現行の「最長六十年」を超えた運転を認めました。

いずれも国民の暮らしに重大な影響を与える政策転換であるにもかかわらず、与党内だけの議論にとどまり、国権の最高機関である国会では審議されていません。

衆院議員の任期満了も次期参院選も二五年ですから、それまでは内閣の独断が許されると考えているなら看過できません。議会制民主主義に対する重大な挑戦です。

自民党と旧統一教会(世界平和統一家庭連合)との濃密な関係や「政治とカネ」を巡って相次ぐ閣僚辞任も「民主主義の危機」にほかなりませんが、首相が先頭に立って襟を正そうという動きは全く見えません。

◆政治決めるのは主権者

私たちの暮らしはどうか。首相が就任時に唱えた「令和の所得倍増」はいつの間にか消え、富裕層を優遇する「資産所得倍増」へとすり替わりました。

もともと意味不明でしたが看板政策の「新しい資本主義」も「リスキリング」「スタートアップ」というカタカナ言葉が氾濫するばかりで、暮らしの安定を求める国民の胸には響きません。

給料は上がらず、円安やエネルギー価格の高騰で、さらなる値上げが確実視されています。首相が目指すとしていた「成長と分配の好循環」を、国民が実感するには程遠い状況です。

就任当初から「何がしたい首相なのかよく分からない」とも言われていましたが、気が付けば、国民と向き合わず、自民党や官僚の望む政策を追認する政権になっているのではないでしょうか。

今年は四月の統一地方選と衆院三補選、五月の先進七カ国首脳会議(G7広島サミット)が節目になります。内閣支持率低迷が続けば、サミット前後に首相退陣論が高まる可能性もあります。

安保政策や原発を巡る政策転換は今月下旬召集の通常国会で徹底議論することは当然ですが、これだけの政策転換に踏み切る以上、首相進退とは別に、衆院解散・総選挙で国民に信を問うべきです。野党も自公連立に代わる政権の選択肢を示さねばなりません。

政治のあり方を決めるのは主権者たる国民です。民意なくして政治は成り立ちません。当たり前の民主主義を取り戻すため、再出発する一年にしたいと考えます。