「なぜか逆境に強い人」には理由があった!脳科学から見た5つの思考法(DIAMOND online 2023.1.11 4:10)
川崎康彦:医学博士
「目標があるけど、ついつい“やっぱり無理かも”と逃げてしまう……」「状況の変化にストレスを感じて戸惑ってしまう……」。逆境に立たされた時、ついつい人は揺れ動いてしまうもの。チャレンジするかどうしようか、思い悩んでしまうとき、脳の中では何が起きているのでしょうか。そこで今回は医学博士の川崎康彦さんの著書『ハーバードで学んだ逆境の脳科学』(青春出版社刊)から、脳科学的な観点からみたチャンスに強くなる方法について抜粋し、紹介します。
じつは逆境には、自分が新しくなるチャンスが潜んでいる
逆境、と聞けば全身が嫌な感覚になる状況を想像する人は多いでしょう。
でも簡単にいえば、逆境とは「脳内の当たり前」と「現実」とのギャップのこと。ギャップが生じた時、人や状況によって、さまざまな反応が起きます。脳の中で緊急のアラームが鳴り響くかもしれません。
たとえば動物なら天敵に襲われた状態は逆境と言えるでしょう。脳の指令によって全身が、戦うか・逃げるか(ファイト・オア・フライト)の準備を整えます。
とはいえ文明社会の中では、あまり有効な反応とは言えません。たとえば仕事上のトラブルを前にして、肩をいからせて全身の筋肉にガチガチに力が入っていたのでは、まずい対処をしてしまいそうです。また、危険だからと一目散に逃げだせばすむような場面も、そうそうあるものではありません。
ほかの反応もあります。フリーズ状態です。これもある種の動物に備わった生存のためのしくみで、もう逃げられない! という状況に陥ると、脳の指令で全身が仮死状態のようになるのです。なぜか? 死んだふりをすれば、敵がうまいこと立ち去ってくれるかもしれません。ダメだったら、ガブリと噛まれても痛みを感じずに死んでいけるよう、神経のスイッチを切ってしまうのです。
現代に生きる僕たちにも同じ反応が残っていて、脳の想定と現実とのギャップがあまりに大きくて自分のキャパを超えると、固まってしまいます。日常的な言い方では、頭が真っ白になる、呆然となる、という状態です。
こうした全身レベルの反応だけでなく、脳が認識したギャップに対して、意味不明、理解不能として否定、無視または拒絶して片づけてしまうことも、よく起きます。相手の話を聞いているようで聞いていないとか、わかりましたといって実は納得していない、などもこの類です。
これはあまりにも、もったいないことです。
ギャップには、じつはさまざまな可能性、いいかえれば新しい気づきや変化のきっかけが眠っており、チャンスの兆しともなるのです。そのスタートは、自身の脳について知ることが第一歩と言えるでしょう。
逆境に直面したとき脳のなかはどんな状態?
逆境に直面したとき、脳の中で重要な箇所が3つあります。扁桃体、海馬、前頭前野です。
「扁桃体」は、恐れ、嫌悪、怒りなどネガティブ感情の中枢です。ギャップが生じた時にこうした感情の信号を出すのです。
「海馬」は記憶の中枢で、ファイリング作業を行っています。数々の短期記憶の中から、長期記憶として保存しておくべきことを選別して、たとえて言うなら「ショックなできごと」「うれしかったこと」といったラベルをつけて参照しやすくします。脳の中でもとりわけストレスなどで傷つきやすい器官でもあります。
「前頭前野」は思考の中枢で、高度な情報処理を行う場所です。扁桃体の信号や海馬の行った作業をもとに、前頭前野がいわば「逆境」認定を行います。「戦うか・逃げるか」などのいわば本能的な反応に「待った!」をかけるのも、前頭前野の働きです。
逆境に向き合うために、前頭前野を活性化させてあげることも有効です。たとえば「手書きでメモをする」、「新しい出会いを大切にする」、「30分ほどの短い昼寝」、「料理」といった方法がおすすめです。
恐れを「スリル」に変える、という方法
逆境に直面した時に良い方法の一つとしてこんなものがあります。
「恐怖」という感情を、宝探しのツールとして使うこと。つまり、こういうことです。新しい状況への恐怖は、逆境に出会ったサインです。そのサインを、行動のブレーキとして「しない選択」をする代わりに、成長につながるギフトとして、思い切って「やってみる決断」に変えるのはどうか、という提案です。
「スリル」と呼ぶとイメージが湧きやすいかもしれません。
たとえば小さい頃に行った遊園地のことを思い出してみてください。ディズニーランドでもUSJでも富士急ハイランドでも……。ジェットコースターなどのアトラクション、お化け屋敷もありますね。僕だったらビッグサンダーマウンテンです。「ああ怖い、やめよう」と思いつつ、ついつい行列に並びなおす。みなさんもあるあるですよね。
恐怖はネガティブな感情ですが、それがスリル(報酬系)に変換されたとたん、一種の快感となりポジティブな挑戦となります。
受動的だったものが、能動的な行動に変わることで、僕たちにやる気と勇気をもたらしてくれます。それは、ワクワクにつながっていくのです。
チャンスがきたときに、先送りにしなくなる5つの考え方
そのほかにも完璧主義にとらわれると、物事をなかなかスタートできなくなります。
失敗したらどうしようという不安だけでなく、準備不足からの恐れが大きくなるからです。いくら準備してもこれで十分だとは思えず、もっと調べておかないと、もっと多くの人に賛成してもらわないと、もっと自信ができてから……と、いつになっても始めることができないのです。先送りの出来上がりです。
そもそも、初めて挑戦することに自信が持てる人などいません。僕はある時、尊敬する先生からこんな言葉をもらいました。
「初めの一歩を踏み出しただけで、すでにあなたがやろうとしていることの五〇パーセントは終わったも同然だ」
完璧に準備してからという考えにとらわれず、多少不完全なままでも、チャンスが来たらとにかくやってみる。その勇気をもつことが大切です。タイミングが巡ってきたということはあなたにとってのチャンス到来ということなのです。たとえ失敗しても、その時のま(タイミング)が違うだけなのです。挑戦したこと自体は決して「ま違い」ではありません。
難しい課題に限らず日常の仕事でも、失敗しないようにあれこれ考えているよりも、とにかくその場に飛び込んでスタートしてみる方が効率的なのです。
(1)結果よりプロセスに意識をおく
(2)用意周到より、当たって砕けろ!
(3)常識、義務より楽しむことを優先
(4)思い込みを発見し、輝きに変える
(5)自分一人でやろうとしないで、人に頼ってみる
こういったことを意識しておくとどんどん逆境を恐れずチャレンジしていくことができるようになっていきます。新しい1年を迎えた今、新しいことにチャレンジしてみてはいかがでしょうか。
◇
本コラムの作者・川崎康彦氏の新刊が発売中!
あなたは逆境の中で”脳のブレーキ”を外せるか――。
どうしても苦しい状況の中では「やめよう」「もっと楽な道を」と考えてしまうのが普通だが、同じ苦しい中でも「これはチャンスだ」と考えて失敗を恐れずに動ける人もいる。
一体それは何が違うのか。
じつはその違いには脳の環境によるものが大きい。逆境に強い人と弱い人、チャンスをつかめる人とチャンスから逃げてしまう人は”脳のブレーキ”を外せるかどうかにかかっていた。全世界的な逆境の中で、自分はどのように一歩を踏み出していけばよいのか。ハーバード研究員時代に学んだ脳科学的にみた逆境の乗り越え方のヒントが、ここにある。