臨時国会閉会 教団と政治 解明まだだ…朝日新聞「社説」
(社説)臨時国会閉会 教団と政治 解明まだだ(朝日新聞 2022年12月11日 5時00分)
献金・寄付の悪質な勧誘を規制する新法は、会期末ぎりぎりに成立にこぎつけ、被害者救済に向けての一歩となった。
しかし、政治、とりわけ自民党と世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との根深い関係の解明はこれからである。国会をひとまず乗り切ったことで、岸田首相がこの問題に幕を引けると思ったら大間違いだ。
臨時国会がきのう閉会した。
総額約29兆円の2次補正予算は、借金頼みや予備費の乱用などの問題を抱えながら、あっさり成立した。反対した野党の切り込みも不十分で、予算を吟味する立法府の責務が果たされたとは言い難い。
一方、被害者救済新法では、与野党が協議を重ね、最後は政府提出法案を修正することで折り合うという異例の展開となった。当事者から実効性に疑問が呈されるなど、多くの課題は残るが、与野党が粘り強く一致点を探ったことは評価したい。
今後の被害の防止に向け、新法は出発点となるが、これまでの教団と政治の関係の検証は置き去りにされたままだ。
首相は国会冒頭の所信表明演説で、教団との関係について「国民の声を正面から受け止め、説明責任を果たす」と語ったが、空約束に終わった。
安倍政権下での教団の名称変更では、「政治的な関与はなかった」と言うが、説得力のある根拠を示していない。教団と自民党をつなぐ要と目される安倍元首相の役割は調べない。教団と深い関係が指摘される萩生田光一政調会長に、説明責任を果たすよう迫った様子もない。
議員の自己申告による党の「点検」の限界は明らかなのに、総裁として指導力を発揮する場面もなかった。教団と事実上の政策協定を交わしていた議員の存在が明らかになった際も、全員に確認することもしないまま、政策への影響はないと繰り返した。
そもそも、この国会は、憲法53条に基づく野党の要求が1カ月半たなざらしにされた後、世論を二分した安倍氏の「国葬」や、教団と自民党との関係などによって、内閣支持率が大きく低下する中で始まった。
首相にとっては信頼回復の正念場だったが、山際大志郎経済再生相、葉梨康弘法相、寺田稔総務相の相次ぐ辞任で思惑ははずれた。
防衛力強化に向けた関連予算の国内総生産(GDP)比2%への増額や、財源としての1兆円の増税検討の指示は、国会での本格論戦から逃げるかのように、閉会直前に打ち出された。率先して説明責任に向き合うべきは首相自身である。それなしに政権への信は取り戻せまい。
臨時国会閉幕 与野党の協調を大切にしたい…読売新聞「社説」
臨時国会閉幕 与野党の協調を大切にしたい(読売新聞 2022/12/11 05:00)
臨時国会が閉幕した。閣僚の不祥事などが目立ったのは残念だが、与野党が土壇場で協調し、高額寄付の被害救済に道を開いた意義は大きい。
世界平和統一家庭連合(旧統一教会)を巡る問題で、不当な手法で寄付を求めることを禁じる新法が、自民、公明両党に加え、立憲民主党や日本維新の会、国民民主党などの賛成多数で成立した。
信教の自由との関わりから、新法作りは難航が予想されたが、与党と主要野党が歩み寄り、成立にこぎ着けたことは評価できる。
新法は、不安をあおる霊感商法などの手法で、相手を困惑状態に陥れ、寄付させることを禁じた。国の勧告や命令に従わない場合、罰則を科すことも明記した。
政府は閣議決定の段階で、野党の求めに応じて、法人が寄付を求める際に「自由な意思を抑圧してはならない」という配慮規定を盛り込んだ。与野党協議を通じ、配慮を怠れば、法人・団体名を公表することも追加した。
配慮規定には、信者らがマインドコントロール下で進んで寄付することを防ぐ狙いがある。
過去の寄付については救済されない、という問題点は残っているが、新たな被害者を生まないことは大切だ。政府は、新法が適切に運用されているか点検し、必要があれば柔軟に見直すべきだ。
与野党が共同歩調をとって重要法案を成立させた例は、1998年の「金融国会」で成立した金融再生関連法や、消費増税を柱とした2012年の社会保障・税一体改革法などに限られている。
様々な課題について、与野党が粘り強く議論し、大局的な観点から成案を得ることは重要だ。
今国会では、衆院選の1票の格差を是正するため、小選挙区の「10増10減」を柱とした改正公職選挙法も成立した。
導入から四半世紀が過ぎた小選挙区比例代表並立制は、「死に票」の多さなど課題が浮き彫りになっている。比例の復活当選を疑問視する声も少なくない。
衆院の特別委員会は、立法府のあり方や議員定数について協議する場を設ける、という付帯決議を採択した。与野党は速やかに選挙制度改革の議論に着手し、結論を得なければならない。
物価高は家計を直撃している。賃上げの道筋は立っていない。防衛力の強化も急務だ。こうした課題について、骨太の議論が展開されなかったのは物足りない。与野党は建設的な論戦を通じ、国のありようを示してもらいたい。
臨時国会が閉会 首相の主体性見えぬまま…毎日新聞「社説」
社説 臨時国会が閉会 首相の主体性見えぬまま(毎日新聞 2022/12/13)
終始、岸田文雄首相の主体性が見えなかった。臨時国会は閉会したものの厳しい政権運営が続く。
懸案だった世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の問題では、献金の不当な働きかけを規制する法律が成立した。首相は記者会見で「先頭に立って実現に向けて力を尽くした」と強調したが、野党に追い込まれて動かざるを得なくなったのが実態だ。
国会冒頭の演説で、現行法の改正で対処すると述べていた。ところが、自民党議員と教団の接点が次々と明らかになり、内閣支持率の低迷が続いた。
一方、これまでいがみ合っていた立憲民主党と日本維新の会が国会で共闘し、独自の法案を共同提出した。幅広い救済を求める世論を背景に政府へ働きかけた。
首相がようやく新法の提出を明言したのは、会期末まで残り1カ月に迫ってからだった。「聞く力」を発揮したというより、受け身の国会運営だった。
問題閣僚への対応でも、自ら積極的に動こうとしなかった。
「説明責任を果たしてもらう」と決まり文句を繰り返し、3閣僚を交代させたのは、批判をかわしきれなくなってからだ。野党からの追及が続く秋葉賢也復興相は、「政治とカネ」や選挙運動を巡る疑惑を払拭できていない。
総額29兆円に上る巨額な補正予算の論戦は深まらなかった。閣僚に問題があれば、国会でただすのは野党の当然の役割である。予算審議がかすんだ責任は、人事で失敗を重ねた首相にある。
置き去りにされた問題も多い。
第2次安倍政権下で教団の名称変更が認められた経緯は、不透明なままだ。国会議員に月額100万円支給される「調査研究広報滞在費」(旧・文書通信交通滞在費)の使途公開は、先の通常国会からの宿題だったにもかかわらず、またも先送りされた。
夏の参院選を経て政権基盤を固めたはずの首相には、中長期的な課題への取り組みが期待されていた。だが、教団問題や閣僚の不祥事への対応に手いっぱいだった。
政府を監視し、政策を議論する国会は、民主政治の土台である。機能させるには、首相が率先して政治に対する国民の信頼を取り戻さなければならない。
臨時国会が閉会 首相は政権立て直し急げ…産経新聞「主張」
主張 臨時国会が閉会 首相は政権立て直し急げ(産経新聞 2022/12/13 05:00)
臨時国会が閉会した。議論は世界平和統一家庭連合(旧統一教会)を巡る問題に集中した。与野党が協調して被害者救済法を成立させたことは評価したい。
だが、国権の最高機関として、現下の国際情勢に対し、危機感をもって迅速に対応できたかといえば、もの足りない。
国会開会中、北朝鮮は日本列島の上空を通過する弾道ミサイルを発射した。中国共産党大会も開かれ、異例の3期目に突入した習近平総書記(国家主席)は台湾統一について「決して武力行使の放棄を約束しない」と威嚇するなど、有事の懸念は増している。ロシアによるウクライナ侵略は終わりが見えない。
国会でも安全保障を巡る議論が行われはしたものの、十分だったとはいえない。岸田文雄首相は「国民の命を守り抜くため抑止力と対処力の強化が重要な課題だ」と防衛力強化の必要性を繰り返し訴えたが、切迫感が伝わらなかった。国民に協力を求める姿勢を、もっと鮮明にみせてほしかった。国会には審議を通じて国民に理解を深めてもらう役割がある。
安保政策の論戦がかすんだ要因には、政府が旧統一教会の問題への対応に追われたというだけでなく11カ月に3人の閣僚が辞任するという異常事態を招いたことも大きかった。
政権全体に気の緩みがあったのではないか。改めて猛省を促したい。更迭に至るまでの首相の対応もお粗末といえた。常に後手に回り、立て直しに向けたスピード感を欠いた。
閣僚交代の影響で、令和4年度第2次補正予算の審議日程がずれ込むこともあった。政権が脆弱では、重要課題に正面から取り組むことができない。
憲法改正論議では、衆院憲法審査会で緊急事態条項の新設について議論が行われ、論点整理が行われた。首相は記者会見で「与野党の合意を得ながら一つ一つ結論を出していく必要がある。そのための一歩として歓迎したい」と語ったが、改正案作りの機運は盛り上がらなかった。
政府は月内に、国家安全保障戦略など「安保3文書」を閣議決定する。これを踏まえ、来年の通常国会は防衛力強化の議論が本格化する。首相は与野党との間で議論を深め、一国の指導者として、毅然とした姿勢を示してほしい。
臨時国会閉会/「聞く力」原点に立ち戻れ…神戸新聞「社説」
臨時国会閉会/「聞く力」原点に立ち戻れ(神戸新聞 2022/12/10)
臨時国会がきょう、閉会する。物価高への対応を柱とする総合経済対策を盛り込んだ約29兆円に上る補正予算が成立し、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の問題を巡る被害者救済法も成立の見通しだ。一方で、3閣僚が失言や政治資金問題などで辞任に追い込まれ、岸田文雄首相の任命責任が厳しく問われた。
総合経済対策は、電気・都市ガス料金の負担軽減策や、ガソリン価格を抑える補助金の継続などの支援措置が中心だ。生活困窮層への援助は必要だが、富裕層を含めた一律の支援は賢明とは言い難い。物価高は長期化が懸念され、企業が継続的に賃金を引き上げる必要があるが、その支援策は目新しさを欠いた。
歳入の8割を国債(借金)に頼る妥当性に関する議論は深まらなかった。コロナ禍に対応した巨額の財政出動を繰り返してきた結果、国債発行残高は1千兆円を突破する見込みだ。補正予算の編成は財政法で「特に緊要となった経費の支出」などに限られる。次世代へのつけ回しであることを忘れてはならず、政策効果の検証が欠かせない。
旧統一教会問題の被害者救済法を巡っては、深刻な被害の要因とされるマインドコントロール(洗脳)下での寄付の規制が焦点となった。禁止を求める野党に対し、政府、与党は寄付の勧誘時に当たっての配慮義務規定に関して「十分に配慮」とより強い表現に変え、怠った場合は勧告、公表の対象とするとした。
世論の強い反発も考慮し、野党に歩み寄った対応は一定評価できる。しかし、寄付を取り消す対象を明示する「禁止行為」とは隔たりが大きく、被害者側には規制の実効性を疑問視する声が根強い。与野党は運用を検証し、被害実態を踏まえた見直しを重ねていかねばならない。
国会議員の調査研究広報滞在費(旧文書通信交通滞在費)の透明化はまたもや先送りされた。
立憲民主、日本維新の会、国民民主の3党は、旧文通費の使途公開や未使用分の返還を義務付ける歳費法などの改正案を衆院に共同で提出した。だが自民党内の消極論もあり、合意に至らなかった。物価高で国民生活が厳しさを増す中、議員特権の放置は許されない。与野党は協議を継続し、来年1月召集の通常国会までに是正を決断してもらいたい。
防衛費の増額や敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有、原発の新増設など、岸田政権は国会での議論や合意を経ることなく、なし崩し的に方針転換を図る手法が目立つ。もはや「聞く力」の看板もむなしいが、首相は原点に立ち戻り、国民の批判や不安の声に真摯に向き合い、政治への信頼を取り戻すべきである。
臨時国会閉幕へ 多くの課題積み残した…北海道新聞「社説」
<社説>臨時国会閉幕へ 多くの課題積み残した(北海道新聞 12/10 05:01)
臨時国会はきょう会期末を迎える。岸田文雄政権を揺るがしている世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の問題は、悪質な寄付勧誘を規制する被害者救済新法が成立する見通しだ。
だが、これで幕引きにはならない。教団側と自民党との不透明な関係は閣僚辞任まで発展し、実態解明が進んでいないからだ。
政治資金を巡る疑惑や失言でも閣僚が辞任に追い込まれた。閣僚交代は3人に上り、国会審議は不祥事の追及に時間が割かれた。
その陰で、政府・与党は敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有や防衛費の大幅増、老朽原発の延命といった重要政策の転換を推し進めている。いずれも、国会で議論を尽くしたとは言い難い。
積み残された課題は多い。年明けの通常国会では、政府が進める施策の妥当性を与野党で徹底的に検証し、行政監視の機能を発揮してもらいたい。
被害者救済法案については、衆院消費者問題特別委員会で「個人の自由な意思を抑圧しない」などの配慮義務の内容に関し、政府に具体例を周知するよう求める付帯決議が採択された。
法律の実効性を高めるため、成立後も国会答弁などで具体例を積み重ね、さらなる条文の修正を引き続き検討すべきだ。
旧統一教会の問題は、教団票を差配していたとされる安倍晋三元首相や細田博之衆院議長との関係は明らかになっていない。
一義的には自民党や細田氏が詳細な実態を説明すべきだが、国会も解明に動く必要がある。
ロシアによるウクライナ侵攻で安全保障やエネルギーへの関心が高まっているとはいえ、年末に向け政策転換を一気に進める政府・与党のやり方は拙速にすぎる。
防衛力強化や原発推進の是非には国民の理解が欠かせず、国会論議があまりにも足りない。
今国会で成立した29兆円の補正予算は、複数年度にわたって企業などに補助金を配る基金と、不測の事態に備えた予備費が半分を占める。
いずれも国会のチェックが働きにくく、企業などへの補助金は経済効果がすぐには表れない。物価高騰に苦しむ困窮世帯の懐に届く支援策を急がなくてはならない。
調査研究広報滞在費(旧文書通信交通滞在費)の使途公開や、政府が国会の関与もなく決定した安倍氏の国葬問題も進展がなかった。通常国会で与野党で議論し、解決への道筋を示してほしい。
【臨時国会閉幕】重要政策は議論されたか…高知新聞「社説」
【臨時国会閉幕】重要政策は議論されたか(高知新聞社 2022.12.11 08:00)
臨時国会がきのう閉幕した。
国会終盤の焦点となった世界平和統一家庭連合(旧統一教会)問題を巡る被害者救済法は、与野党が法案修正協議を重ねた末に会期末に成立した。法の成立を優先し、実効性の面で課題を残したが、国民が注目する懸案に道筋を付けた格好ではある。与野党が合意点を探ったプロセスも含めて評価できよう。
ただ、直近の救済新法の扱いのみに目を奪われていては大局を見間違う。全体を見通せば、岸田政権の推進力に懐疑的にならざるを得ない場面が続いた。
今国会最大のテーマとされた一つは、旧統一教会と自民党のつながりの解明だった。岸田文雄首相は所信表明で信頼回復に取り組む意欲を強調。その姿勢が、宗教法人法に基づく教団への質問権行使や、救済法につながったのは確かだろう。
だが、教団票を差配した疑いが持たれている安倍晋三元首相や細田博之衆院議長の調査など、疑惑の核心部分は手つかずだ。教団名が変更された経緯もなおはっきりしない。実態が解明されないままでは、いくら「今後関係を断つ」と言ったところで信頼回復には至るまい。
物価高対応では、国費の一般会計歳出が約29兆円と、異例の規模の補正予算を成立させた。
電気代やガソリン代の負担軽減などに投じられるが、自民党の増額要求により短期間で4兆円も膨らんだ過程や、使途が決まっていない予備費を4兆7千億円積み増した内容からは、政権アピールのための額ありきだったとの印象を免れない。
財源の8割は借金で、中長期の経済成長につながる要素も見えにくい。共同通信の世論調査では「期待できない」が7割超を占めたことを謙虚に受け止める必要がある。
3人の閣僚が辞任に追い込まれる「辞任ドミノ」もあった。いずれも資質や品格が疑われ、自民のおごり、国会議員の劣化をさらした。岸田首相による更迭の判断も後手に回り、決断力に疑問符が付いた。
不満を覚えるのは、重要な政策転換が、国会でなかなか正面から取り上げられなかったことだ。
首相は、「依存度を可能な限り低減する」としてきた原発について今夏、推進にかじを切った。以降、60年を超える運転延長や建て替えに向けた環境整備が着実に進む。また安全保障政策では、防衛関連の3文書の改定に合わせる形で軍備増強方針、敵基地攻撃能力の保有方針が次々と固まっている。
まず国会で、国民の目に広く触れる形で熟議するのが筋ではないか。「聞く力」と「丁寧な説明」は、方針を決める前にあるべきだ。
独断で決めて世論を二分した国葬の教訓が生かされているとは思えない。内閣支持率下落に歯止めがかからない要因の一つでもあろう。
野党では、立民と維新が共闘を始め、法案の共同提出などで影響力を強めた側面はあっただろう。政治に緊張感が求められている。共闘の熟度を高めていってもらいたい。