何もかもビジョン欠如の岸田政権 古賀茂明

NTT・トヨタ・ソニーなどが出資 次世代半導体新会社「ラピダス」 政治・経済

何もかもビジョン欠如の岸田政権 古賀茂明(AERAdot. 2022/11/29 06:00)

筆者:古賀茂明

防衛力強化のための政府の有識者会議が11月22日に報告書を出した。政府は防衛費倍増を考えているが、報告書は、その財源として「幅広い税目による負担が必要」だと提言した。所得税や消費税も含めて防衛費のために大増税というわけだ。

一方、こちらも日本の将来を左右する次世代半導体について、その開発製造の国産プロジェクトを推進する新会社「Rapidus」(ラピダス)が設立された。トヨタ自動車、NTT、ソニーなど国内8社が73億円を出資。政府も700億円支援する。スーパーコンピューターや人工知能(AI)などに使う次世代半導体を国内で量産する体制を20年代後半にも整えるというのだが……。

岸田内閣の目玉政策、DXの推進には、5G・ビッグデータ・AI・IoT・自動運転・ロボティクスなどがカギとなるが、そのいずれにも先端半導体が欠かせない。さらに、この技術は、国家安全保障に直結する死活的に重要なものだ。

ところが、日本のお家芸だった半導体製造業の凋落は著しい。世界シェアは50%から10%未満に激減。最先端品の開発競争では10年前に脱落。技術レベルは5世代前という悲惨な状況だ。防衛分野でホットな話題のミサイル開発でもこれから主要な戦場となるサイバー防衛でも、最先端半導体が作れなければ、日本の防衛は海外半導体企業頼みとなる。

先端半導体の国防上の重要性に気付いた中国や欧米政府はその支援のために巨額の補助金を支出する産業政策競争を始めた。「産業政策」と言えば、経済産業省のお家芸。日の丸企業連合に経産省が補助金を出すそのパターンは、経産省のDNAとも言われる。しかし、この日の丸企業連合方式は、この30年失敗続きだ。最近になって経産省もこの失敗を認めていた。

しかし、DNAはそう簡単には変わらない。ラピダスは、まさに日の丸連合方式だが、これにほとんど成功の見込みがないことは、民間の出資が73億円で政府の拠出700億円の10分の1というのを見ればすぐにわかる。

ラピダスの小池淳義社長は、最初5年の研究ステージで2兆円、その後の量産ステージに3兆円が必要だと述べたが、それでも控えめだ。先頭を走る台湾TSMCの21年の設備投資は300億ドル、4兆円超えだった。韓国サムスンの5年間の投資計画も31兆円だが、それでもTSMCに逆に離されつつある。今後日本政府が1兆円出すと言っても普通に考えれば勝ち目はない。

次世代半導体を開発できる人材も日本にはいないし、先生役にと期待しているIBMはサムスン、インテルにも及ばない。そのIBMも、たとえ日本が10兆円積んでも最先端技術の提供はしてくれないだろう。

防衛費倍増なら年間11兆円。せめてその半分でも半導体に注ぎ込み、さらに韓国をも巻き込んだ分業に踏み込めれば、何とか先端分野で生き残りができるかもしれない。そうなれば、防衛技術の高度化としても有効であるし、DXを支えるあらゆる産業に恩恵が及ぶ。経済安全保障と日本経済復活双方に大きく貢献するはずだ。

だが、今の岸田政権には大きなビジョンがない。このままでは、防衛も経済安全保障も日本経済復活も全部失敗に終わるのは目に見えている。

※週刊朝日  2022年12月9日号

古賀茂明氏

古賀茂明(こが・しげあき)
古賀茂明政策ラボ代表、「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。1955年、長崎県生まれ。東大法学部卒。元経済産業省の改革派官僚。産業再生機構執行役員、内閣審議官などを経て2011年退官。近著は『官邸の暴走』(角川新書)など