原発回帰、課題山積 再稼働に地元は慎重―コスト負担、技術者不足も懸念(JIJI.COM 2022年08月27日07時33分)
岸田文雄首相が原発回帰へかじを切った。しかし、地元自治体は再稼働に慎重な姿勢を崩しておらず、必要とされる同意を得られる見通しは立っていない。新増設でも安全対策強化で膨らむコストの負担に加え、技術者不足など課題が山積している。
政府は来年夏以降、追加で7基の再稼働を進める。このうち、東京電力柏崎刈羽原発6、7号機(新潟県、出力各135.6万キロワット)と日本原子力発電の東海第2原発(茨城県、同110万キロワット)が動けば、首都圏への電力の安定供給につながるとされる。
原子力規制委員会の安全審査に合格し、対策工事が完了していれば再稼働できる。ただ、地元自治体と電力会社は協定を結んでおり、地元の同意は事実上必須とされる。柏崎刈羽原発では侵入検知装置の故障が放置されるなどテロ対策の欠陥が相次いで判明し、地元の不信感は強い。規制委が事実上の運転禁止を命令し、再稼働の準備も進められない状態だ。
新潟県柏崎市の桜井雅浩市長は24日公表したコメントで、「大規模地震が起きる確率が桁違いに大きい日本では原発は制約的であるべきだ」と指摘。核のごみ問題にも触れ、「核燃料サイクルに明確な方向性、光が見えない。原発どんどん行こうなどとは到底言えない」と強調した。
東海第2原発では、避難対象となる30キロ圏内に全国最多の90万人超が住む。周辺自治体の避難計画策定は完了しておらず、水戸地裁は昨年3月、運転差し止めを命じた。
首相は24日、自治体との調整などに「国が前面に立ってあらゆる対応をとる」と表明。ただ、茨城県の大井川和彦知事は25日の記者会見で「国が前面に出て何をするのかはっきりしない。これまで通り安全審査を徹底して行う」との考えを示した。
一方、政府が導入を目指す革新軽水炉では建設コストが壁になりそうだ。東電福島第1原発事故後に規制基準は厳格化され、電力大手は「民間会社だけで建設コストを賄うのは難しい」と漏らす。
原発事故後に新増設が止まり、技術や人材の維持も難しくなっている。発電所の保守管理を担う川崎重工業など中核企業の撤退も相次ぐ。原発用バルブメーカーは「新増設を経験した熟練技術者は55歳を超えており、あと10年もすると技術の維持が厳しい状況だ」と懸念する。