「LGBT生産性ない」政務官・杉田水脈氏の差別的発言の遍歴

杉田水脈・総務大臣政務官 政治・経済

「LGBT生産性ない」政務官・杉田水脈氏の差別的発言の遍歴(毎日新聞 2022/8/19 11:00 最終更新 8/19 12:49)

第2次岸田改造内閣で、過去にLGBTなど性的少数者を巡る差別的な発言などが問題となってきた杉田水脈(すぎた・みお)氏(55)が総務政務官に起用されたことに、ネットなどで抗議の声が上がっている。杉田氏は15日の就任記者会見で「過去に多様性を否定したことも、性的マイノリティーを差別したこともない」と述べたが、実際はどうなのか。過去の発言を振り返った。

「なぜ男と女、二つの性だけではいけないのか」

杉田氏は2018年、月刊誌「新潮45」8月号に「『LGBT』支援の度が過ぎる」とのタイトルで「LGBTのカップルのために税金を使うことに賛同が得られるものでしょうか。彼ら彼女らは子供を作らない、つまり『生産性』がないのです」と寄稿した。

その中ではさらに「なぜ男と女、二つの性だけではいけないのでしょう」「多様性を受け入れて、さまざまな性的指向も認めよということになると、同性婚の容認だけにとどまらず、例えば兄弟婚を認めろ、親子婚を認めろ、それどころかペット婚や、機械と結婚させろという声も出てくるかもしれません」と性的少数者に差別的な持論を展開した。

この寄稿に対して当事者や支援者から批判が殺到し、自民党本部前などで抗議集会が開かれる事態となり、「新潮45」は18年10月号で休刊となった。

15日の就任会見で「新潮45」への寄稿について問われた杉田氏は「私は過去に多様性を否定したこともなく、性的マイノリティーの方々を差別したこともございません」と説明した。そのうえで、岸田政権が目指す「個性と多様性を尊重する社会」については、「岸田政権が目指す方向性と、政務官として何一つずれている部分がないと思っています」と述べた。

「女としての落ち度があった」

性暴力被害を訴えたジャーナリストの伊藤詩織さんを描いた英BBCの番組(18年6月)の中のインタビューでは、杉田氏は「彼女の場合は明らかに女としての落ち度があった。男性の前でそれだけ飲んで記憶を無くした」と発言した。さらに「社会に出て女性として働いていれば嫌な人からも声をかけられる。それを断るのもスキル」とも語った。

これらの発言について、杉田氏は毎日新聞の当時の取材に「2時間以上にわたるインタビューの全体像を見ていただければ意図と違うことをご理解いただけると思います」と事務所を通じてメールでコメントした。

「女性はいくらでもうそをつける」

20年9月の自民党内の会議で、行政や民間が運営する性暴力被害者のための「ワンストップ支援センター」を全国で増設する方針などを内閣府が説明した際には、「女性はいくらでもウソをつけますから」と、被害の虚偽申告があるように受け取れる発言をした。

この発言には、性暴力被害者の支援団体から抗議の声明や署名が集まった。また、大学教授らでつくる「公的発言におけるジェンダー差別を許さない会」が21年2~3月に実施したネット投票で、ジェンダーに関する問題発言のワースト1位に選ばれた。

20年1月には衆院本会議で、選択的夫婦別姓の導入を求める野党議員の質問の最中、本会議場から女性の声で「だったら結婚しなくていい」とのヤジが飛び、複数の議員が杉田氏の発言だったと指摘した。

また、保育園への入所選考に落ちた母親がブログにつづった「保育園落ちた日本死ね!!!」という言葉が話題になった16年には、保育所の増設などを求める動きに対し、産経新聞のニュースサイトでの自身の連載で「子供を家庭から引き離し、保育所などの施設で洗脳教育する。旧ソ連が共産主義体制の中で取り組み、失敗したモデルを21世紀の日本で実践しようとしているわけです」「コミンテルン(共産主義政党の国際組織)が日本の一番コアな部分である『家族』を崩壊させようと仕掛けてきました」などとつづり、物議を醸したこともある。

「問われる岸田首相の任命責任」

フォトジャーナリストの安田菜津紀さんは杉田氏の総務政務官起用に疑問を呈する。

「杉田氏は就任会見で『多様性を否定したこともなく、性的マイノリティーの方々を差別したこともない』と述べましたが、自身の発言の問題を理解せず、顧みようとしない姿勢が浮き彫りになりました。そのような人物が、政府の、しかも社会の基盤を作る総務省の要職に就くことは、岸田首相の任命責任が問われます。政府は、差別問題は考慮に値せず、優先順位が低いものだ、と社会に発信していくことになります」

性的少数者や性被害に遭った女性に対する中傷に加え、16年にジュネーブで開かれた国連女性差別撤廃委員会に参加したアイヌ民族や在日コリアンの女性たちについて、杉田氏がブログで「民族衣装のコスプレおばさん」などと呼んだことを念頭に、安田さんはさらにこう指摘する。「杉田氏は、声を上げてきた人たちをあざ笑ってきました。その矛先を向けられた人にとっては恐怖です。このような発言をする人物を要職に据えることは、(杉田氏とその言動に)政府としてお墨付きを与えることになりますし、そのことにも恐怖を感じる人たちがいるのではないかと懸念しています」

安田さんは社会が差別発言に慣れてしまうことに警鐘を鳴らす。「矛先を向けられていない人は『またこの人か』と受け流すようになるかもしれません。しかし、矛先を向けられている当事者たちはその都度、踏みつけられています。差別を見過ごす社会を私たちは望んでいるのか。杉田氏の問題から問われていると思います」