地政学の大家カプラン氏「米中ロ同時衰退の初の状況…韓国は独自の核武装を強いられている」(1)(中央日報 日本語版 2025.09.17 15:40)
(2) 中央日報 日本語版 2025.09.17 15:41
「第2のヘンリー・キッシンジャー」と呼ばれる地政学の大家、米外交政策研究所(FPRI)のロバート・カプラン教授(73)が「米国の安全保障の傘で保護され、中国の成長を踏み台にして富を蓄積してきた時代は終わった」と話した。
カプラン氏は15日(現地時間)、中央日報のインタビューで「現在の世界は最強国の米国はもちろん、中国、ロシアの3つの強大国が同時に衰退する初めての状況を迎えている」とし、このように診断した。こうした情勢判断は、現在の混乱状況を米国と中国の覇権競争のフレームで接近してきた従来の視点とは完全に異なる。韓国の対応方式についても異なる接近方法を提案した。
カプラン氏は韓国の生存戦略について問われると、「『米中戦争』の勝者を予測する選択の問題ではなく、自主的な抑止力を高める方向にならなければいけない」と強調した。そして韓国の「独自の核武装」と「統一韓国(Great Korea)」という言葉を繰り返した。
「米中ロ3大強国の『同時衰退』時代」
カプラン氏へのインタビューはオンラインで行われた。カプラン氏は30分余り行ったインタビューの時間を惜しむべきだとして「すぐに本論に入ろう」としながらも、自身の発言一つ一つの意味を深く考慮しながら言葉の選択にも慎重な態度を見せた。
--米国と中国の「覇権競争」が加速化している。
覇権競争自体は否定しない。ただ、競争の原因となる地政学的な背景は、2つの強大国のうち1つが過去のような圧倒的な覇権を行使するための単純な競争構図とは違う。米中をはじめロシアを含む3大強国が同時に衰退期に入り込んだからだ。
--米国は依然として世界最強大国だが。
米国は依然として強い。しかし民主・共和両陣営ともに極端な勢力が力を持ちながら中道が完全に崩壊した。中道勢力の不在は今までの制度的民主主義システムがこれ以上作動しないという意味だ。これは国内政治だけでなく国際的貿易と外交政策にもそのまま反映されるしかない。数十年間にわたり世界秩序を引っ張ってきた米国の伝統的な役割が終わったということだ。
--米国の弱化は競争国の中国にチャンスではないのか。
習近平主席の極端なスターリン・レーニン主義への回帰は中国共産主義の最後の段階だ。権力を掌握した習主席は非常に強く見えるかもしれないが、これは歴史発展段階の側面では共産主義システムの終結を意味する。習主席体制は過去数千年間に崩れた中国王朝のように結局は消えるだろう。ロシアも同じだ。4年近く続いたウクライナ戦争で中央アジア、シベリア、極東での影響力が崩壊した。過去のロシア帝国の前轍を踏むことになるだろう。
トランプ時代…「安米経中の時代は終わった」
カプラン氏が3大強国の同時衰退に言及しながら韓国の「自強論」を注文したのは、グローバルリーダーの空白期に生存するために韓国が自ら「生きる道」を模索する必要があるという意味と聞こえた。カプラン氏は実際「トランプ2期目に入って韓国は、依存できる余地が大幅に減った米国と、理念的色彩が強まった中国と同時に対面している」とし「特に気まぐれで予測不可能なトランプ大統領のために韓国は2つの強大国の間で均衡を保つのがさらに難しくなった」と話した。
--トランプ政権2期目の急進的な変化をどう見るべきか。
今まで中国は協力的な権威主義体制を維持し、米国と適当な友好関係を維持してきた。米国はこうした基調の中で中国で莫大な収益を出すことができた。韓国も米国の安保の傘の中で中国の成長を活用して富を蓄積してきた。貿易・安保分野の急激な変化は「正常」関係が支配した時代が終わったことを宣言した意味と見るべきだ。
--北朝鮮と対峙した韓国にとって米国は唯一の同盟国だ。
断定的に言える。韓国は北朝鮮に対する自衛能力を備えなければいけない。北朝鮮はすでに60個の核兵器を保有していて、非常に速いペースで多くの核兵器を持つことになるだろう。問題は韓国だ。韓国がすでに保有する技術力と産業基盤を考慮すると、独自の核武装は実際、技術的には容易なことだ。
現実的に限界も…「韓国、核保有の選択を強いられる」
韓国の核保有を一種の安保パラダイム変化に対する韓国の自己救済策として提示したカプラン氏の言葉にためらいはなかった。むしろ韓国はトランプ政権に入って事実上核保有を強いられているという主張もした。
--核武装は経済および安保の負担要因であり、核武装の現実性は落ちる。
同意する。特に東アジアで南北が同時に核保有国(nuclear power)になれば、直ちに南北関係から実質的な緊張感が拡大するだろう。しかしトランプ大統領の予測不可能な行動と彼が招いている不確実性は結局、韓国に(独自の核保有に対する)選択の余地をなくす方向に展開する可能性が高いと考える。
韓国の独自核武装は極度に敏感な事案だ。核非拡散条約(NPT)脱退など事実上不可能な条件を抱える。同時に韓国が国際的制裁を覚悟して核を保有する場合、「台湾海峡」問題など潜在的火薬庫となったアジアの「核ドミノ」につながるおそれがある。
カプラン氏は韓国の核武装が現実的に不可能に近いという事実を認めながらも「私は韓国がすでに(核武装) 議論(discussion)段階にあると強調したい」とし、具体的な計画が実行されている可能性に重点を置いた。
--統一の議論と核武装は相反する。
統一のための前提は、韓国が引き続き繁栄してさらに強くならなければいけないという点だ。ところがトランプの意図通りなら、韓国の朝鮮半島統制力は急速に弱まるだろう。北朝鮮はより多くの核兵器を確保する半面、韓国は米国に対する依存を低めるしかない。韓国が統一を長期的な目標にしていることを知っている。核武装の必要性を言及したのは韓国が設定した目標と関係がある。
統一の可能性は低い…唯一の代案は自強
カプラン氏は「統一韓国時代への準備が必要だ」と助言した。その一方で「統一の可能性は低下した」と評価した。
--統一を実現可能な目標と見るのか。
金正恩(キム・ジョンウン)委員長の最近の発言は統一の可能性がさらに低下したことを示唆する。核兵器も政権維持のための手段だ。より現実性のある統一シナリオは金正恩政権がクーデターなどで不安定になるケースだ。北朝鮮が急激に統治不可状況になってこそ、ソウルを首都とする統一韓国(Great Korea)を期待できる。非現実的とは言わないが、統一の実現の可能性は薄れている。
--トランプ大統領の対北朝鮮対話再開に対する見通しは。
必ず金正恩との対話を試みるだろう。しかし成果を期待しない。1期目に行われた金正恩との対話をはじめ、最近プーチン大統領との対話を通じてトランプ式の会談は成果と関係がない「写真撮影用」ということが確認された。会談が成果を出すためには双方が譲歩と実益を分け合う比例性の原則が前提になるが、トランプはこのような側面に関心が全くない。
「李大統領、冷静な低姿勢が必要…中道を見るべき」
カプラン氏は先月の李在明大統領とトランプ国大統領の首脳会談で見せた李大統領の態度が印象的だったと述べた。そして「混乱の時期に李大統領が首脳会談で見せた低姿勢を維持するのは賢明な対処だ」と助言した。
--トランプ大統領を相手にする李大統領に助言するなら。
今のような不確実性の時代に低姿勢で臨むのはとても良いことだと考える。李大統領の性格を知らないわけではないが、今のように声を高める指導者が多い世界で李大統領が見せた態度は非常に効果的になるかもしれない。
--李大統領は韓国人勤労者拘禁事態に強硬な立場を見せた。
李大統領の悩みを理解し、彼が見せている冷静な対応を観察している。李大統領の対応は政治的に中道を目指す方向に進もうと努力するものと理解できる。言うべきことを言いながらも一線を守る形の対応は、特にトランプ政権を相手にするうえで非常に望ましいと考える。
--一部ではトランプ執権の時期さえ持ちこたえればよいという意見もある。
トランプが作った気流が永遠に新しい標準になるかは誰にも分からない。トランプ以降、J・D・バンス(副大統領)が執権すれば、トランプの時と比べて予測の可能性はやや高まっても、孤立主義と中国に焦点を合わせた外交政策の方向性は変わらないだろう。例えれば「行動的狂気」が除去されたトランプ時代となる可能性がある。中道を目指す民主党候補が当選するかもしれないが、可能性は50%未満だと考える。李大統領はこうした未来の地形を深く悩む必要がある。
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ロバート・カプラン米国外交政策研究所(FPRI)教授
世界の碩学の中で地政学に最も精通した人物に挙げられる。ワシントンポスト、ニューヨークタイムズなど有数のメディアを通じてグローバルレベルの鋭い洞察力を伝え、「キッシンジャーに続くグローバルレベルの21世紀の地政学者」と呼ばれる。従軍記者としてイラン・イラク戦争など国際紛争を取材しながら独自の文章と洞察力で分析してきたジャーナリストでありベストセラー作家だ。フォーリンポリシーの「世界の思想家トップ100」にも2回選ばれている。