「石破辞めるなコール」に便乗して「維新」が連立政権入りを画策か 石破首相を続投させる大義名分は“副首都構想” 古賀茂明(AERAdot. 2025/08/12/ 06:00)
7月23日に毎日新聞と読売新聞が「石破茂首相退陣」というニュースを流した。石破首相には、これまでの自民党政治家とは違い、地位に恋々とすることはなく自らの責任を潔く認めるタイプの政治家だというイメージがあったため、そういう決断をしてもおかしくない、というより、石破氏らしい見事な引き際だと思った人もいただろう。
しかし、石破首相が辞任報道を強く否定したことで、一転して辞任報道は「誤報」ではないかということになった。それについては、7月29日配信の本コラム「立憲・共産党支持者が『石破辞めるな!』と叫ぶ異常事態…参院選の自民党大敗の原因は『裏金議員』と『アベノミクスの失敗』である」でもお伝えしたとおりだ。
その辞任報道から約3週間が経ったが、石破氏の去就をめぐる状況は複雑さを増している。自民党内の石破おろしの波は、依然として非常に高い。一方、旧安倍派などの裏金議員や旧統一教会がらみの「薄汚い政治家」たちがその中心にいることがあからさまになると、自民党支持者はもちろん、立憲民主党や共産党などの野党支持者でさえ、「石破首相は辞任するな」という声を上げ始めた。予想外の石破応援団の登場だ。
7月28日の自民党両院議員懇談会では、石破首相の責任を厳しく追及する声が多数だったが、懇談会には決定権がないので、石破首相はそのまま続投となった。その後開かれた8月8日の両院議員総会でも石破批判が吹き荒れたようだが、総裁選を前倒しするかどうかを党総裁選挙管理委員会で意思確認することが決まっただけで、この先は見通せない。
裏金議員たちが、石破おろしの動きを露骨にやると、国民から批判の声が上がり、自民党の支持率がさらに下がり、来たるべき総選挙で反石破議員の当選が危うくなるかもしれないという懸念があるために、石破下ろしの署名をする議員はそれほど多くないという見方もできる。
次の節目は、8月20日からのTICAD(アフリカ開発会議)という大きな外交舞台を終えた後、29日までに行われる参院選大敗を検証する自民党の総括委員会の報告書取りまとめである。この機に、森山裕幹事長が辞意を表明し、それを慰留できなければ、石破首相自ら辞任するか、辞任しなくても、総裁選前倒しの勢力が勢いを増して、総裁選前倒しになり、結局石破氏は引きずりおろされるという見方もある。
一方、石破おろしへの国民の批判が高まれば、総裁選前倒し論は勢いを失い、仮に森山氏は辞任しても副総裁に就任し、引き続き党内の差配を行う体制が維持され、石破首相が続投するという話も聞こえてくる。
もちろん、石破続投でも自公政権は、衆参両院で過半数を割り、野党の要求をのまなければ、いつ内閣不信任案を出されてもおかしくない状況で、石破氏は、党内外で綱渡りを続けなければならない。
日本国民は完全に自民党を見放した
その困難さを考えれば、ここで政権を投げ出さないことの方が難しいという人さえいる。クリスチャンの石破氏が、これを神が与えた試練だと受け止め歯を食いしばって「国民のために」命懸けで政権運営にあたるというのは、石破氏自身の主観としては正しいかもしれないが、客観的に見れば、自分のやりたいことはほとんどできず、ただ首相の座にしがみついているだけということになる可能性も高い。
万一8月末で辞任となれば、結果的には毎日と読売の報道は大スクープだったということになるわけだ。
石破氏のことはひとまず置いておいて、自民党・公明党の凋落と国民民主党・参政党の大躍進という今回の参院選の結果は、何を意味しているのかを考えてみよう。
2009年の民主党政権誕生で自民と民主の二大政党制が定着しそうだったが、野田佳彦首相(当時)の大失態で、これが幻で終わったのが13年前の2012年だ。その後は、自民1強を公明がさらに補強して安定政権が続いたが、失われた30年とアベノミクスの失敗、さらには旧安倍派を中心とした裏金や旧統一教会のスキャンダルで、国民は完全に自民を見放した。自民の生き残り議員たちは、自民復活劇を夢見ているかもしれないが、党内は、野党支持者に期待される石破首相と国民から完全に見放された旧安倍派などの残党の寄せ集めという状況だ。こんな政党が国民の支持を集めるはずがない。「自民はオワコン」という言葉は、非常に説得力がある。ついでに言えば、自民に小判鮫の如くくっついておこぼれをもらっていた公明もまた完全な「オワコン」である。
二大政党制の失敗に続き、昨年の衆院選と今回の参院選で、自民中心の日本政治という構造は終わったように見える。これからは、多党による連立、連携政治に移行することになったと見るべきではないだろうか。石破政権はその転換を決定づける役割を果たしたところで終焉を迎えたと見る人も多いだろう。
しかし、ここへきて、石破氏には非常に強い味方が現れた。日本維新の会である。
こちらも、先の参院選で議席数はわずかに一つ増やしたものの、比例の得票が3年前の前回参院選の半分強まで落ち込み、お先真っ暗という状況だ。その責任をとって、前原誠司共同代表ら執行部が辞任した。前原氏の後任としては藤田文武前幹事長が選出されたが、藤田氏は馬場伸幸衆院議員が代表時代に幹事長を務めた。藤田共同代表なら、馬場氏が裏で国会での動きを仕切るということになるのだろう。
選挙で勝てる見込みがない立憲民主党
だが、いくら執行部人事を変えてみても、展望は開けない。
そこで、苦し紛れに出てきたのが、自公との連立でなんとか存在感を演出しようという作戦だ。しかし、単に連立入りというのでは、自公の補完勢力に成り下がったという批判を受け、次の衆院選でさらに負ける可能性が高くなるので、何か大義名分が必要だ。そこで使われることになったのが副首都構想だ。大阪を副首都にという公約でなんとか目先を変えて「やってる感」と新たな夢を演出する。これに石破自民が協力すれば、公約実現のための連立入りだという言い訳ができる。
維新内には、石破氏ではダメだとして、新たな自民党総裁が選ばれてから連立入りすべきという意見も強いが、石破氏が粘って首相の座にとどまれば、そうも言っていられなくなる。自力で党勢拡大を図る力はないからだ。そこで、なんとか副首都構想の実現可能性が出てきたように見せかけて、次の衆院選に臨みたいということで、石破氏のままでも自公との連立を組むか、少なくとも、なんらかの形での部分連合のようなものが成立する可能性は十分にある。
ただし、維新が自公との連立に動くのを見れば、他の野党からは、自公を助けるのかという強い批判がなされる。したがって、衆院選がいつあるかわからないという状況では、安易に連立入りするのはためらわれる。
そこで、注目されるのが、立憲民主党の動きだ。
立憲の野田代表は、選挙直後は、自民を強く批判していたが、4日の衆院予算委員会では、一転して、石破氏に政策協議を呼びかけ、石破氏がこれに応じるという場面を作った。同じ安保タカ派、財政規律重視派同士で気脈を通じるという面もあるが、野田氏には、もっと別の事情がある。
それは、解散しても立憲が選挙で勝てる見込みがないということだ。参院選でこれだけ自公の票が落ち込んだのに、立憲の比例の得票は伸び悩み、国民民主や参政にも及ばなかった。屈辱的な「敗北」である。この結果に、同党の両院議員総会では、野田代表への批判が吹き荒れた。江田憲司元同党代表代行のホームページのコラムによれば、「野田代表のリーダーシップには期待していない」「SNSの視聴が野田代表は数百、玉木(雄一郎・国民民主)、神谷(宗幣・参政)両代表は数十万」「執行部として参院選敗北の責任を取るべきだ」、立憲は「オワコン」「増税派」「左派」「事故物件」とまで言われ「有権者から相手にされていない」「若者世代は立憲スルー」「党は解散した方が良い」「大企業病ではないか」等々の批判が出たという。
自民党も立憲民主党もお互い「オワコン」同士
自民党同様「オワコン」だと立憲の議員が自認するというまさに終わった状況だ。こんな政党が選挙をやっても勝てるはずがない。野田氏の窮状を察知した石破首相は、あわよくば立憲を抱き込もうと誘いをかける。
これから先、何が起きるのかわからないが、見えてくるのは、自民内の石破おろしが国民の総スカンを食らって勢いを失う一方、立憲の野田代表がNACO(NODA ALWAYS CHICKENS OUT/野田はいつもビビって後退する)と揶揄されるとおり、不信任案を出せないので、石破氏はそれを利用して、野田氏の顔を立てながら、とりあえず補正予算の成立を図る。
立憲が不信任案を出せないとわかっている維新も、安心して石破政権との連立入りの交渉ができる。石破氏が立憲との天秤にかけるふりをすれば、維新は見捨てられることを恐れて連立入りを急ぐだろう。
自公維政権なら、衆参で過半数を確保できるので、維新との関係さえうまくやれば、これから3年間選挙をしなくて済むかもしれない。意外な長期政権への望みが出てきたと石破氏は捉えているのではないか。
一方、維新が連立に入った途端、立憲の野田代表は自民と維新への批判を強め、与党過半数で否決されるのを分かった上で、安心して内閣不信任案を提出するということになるのだろう。闘ったふりをするわけだが、そんなことでは立憲の党勢回復はできない。前述の江田氏のコラムで、同氏は、「今回の敗因は、率直に言って、『党首力』『政策の訴求力』『SNSの発信力』等において、国民民主や参政党の後塵を拝したことだと考えています。このままでは我が党は『じり貧』で、政治の大きな流れからも取り残され、とても次期衆院選では選挙を戦えないでしょう」と悲観論を展開している。
自民も立憲もお互いオワコン同士。実は、今回の参院選前の7月5日、インターネット番組「選挙ドットコムちゃんねる」で、野田氏が隣に座った石破首相に「売れない演歌歌手みたいなのが2人並んでしまった」と発言したのだが、その時点では、立憲はかなり議席を伸ばすと予想されていた。この言葉は冗談のつもりだったのだろうが、蓋を開けてみれば、真実だったことが判明したわけだ。
3年間選挙なしの自公維連立シナリオは、石破氏辞任で小泉進次郎農林水産相に首相が交代しても実現可能だ。一方、高市早苗前経済安全保障相の場合は、先週配信の本コラムで書いたとおり、とりあえず国民民主と参政との連携(連立ではない)で進み、衆議院選挙の後に本格的な自公国参連立になる可能性が高い。維新も入る可能性があるが、いずれにしても相当右傾化を強めた政権になるだろう。
ポピュリズム政治がはびこる最悪のシナリオ
ただし、参政については、同党議員のスキャンダルがこれからかなり出てくるという週刊誌情報もある。それが本当なら、参政の勢いは意外と短期間で衰える可能性がある。
様々なシナリオがあって、ほとんど予測不可能な状況だが、それでも主要なシナリオを比較検討すると、石破続投の可能性は、一般に言われるよりもかなり高そうに思えてくる。
ただし、その場合も、自民大復活ということは起きず、自民、立憲の縮小と少数政党の勢力拡大で、本格的な多数政党の合従連衡による政治構造に変化していく可能性が高い。その結果、単なるポピュリズム政治がはびこるだけという悲惨なことになるのだろうか。
そのようなシナリオを変える力のある政治家は出てこないのかと頭を捻ってみたが、どうしても思い浮かばない……。
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古賀茂明(こが・しげあき)
古賀茂明政策ラボ代表、「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。1955年、長崎県生まれ。東大法学部卒。元経済産業省の改革派官僚。産業再生機構執行役員、内閣審議官などを経て2011年退官。近著は『分断と凋落の日本』(日刊現代)など