“猛ダッシュ”を見せつけるトランプ政権だが…「半年から1年で息切れ」が予想される3つの根拠(JBpress 2025.1.24(金))
トランプ台風、いつまで続くか
今週20日正午(アメリカ東部時間)に就任したドナルド・トランプ大統領の旋風が吹き荒れている。3.4億アメリカ人ばかりか、地球上に住む82億人の人類全体が、一人の大統領に振り回されている。きっと後世の人たちは、「2025年は特異な年だった」と、興味深く振り返ることだろう。
問題は、いつまで「トランプ台風」が吹き荒れるかだ。結論を先に言えば、私はそれほど長くは続かないと思う。せいぜい半年か、1年くらいではないか。
彼はまるで、マラソンを100m走のように走っているように映る。これでは、遠からず息切れしてしまうに違いない。
古今東西を問わず、政治の世界では「絶頂の時は凋落の始まり」と言う。2022年2月にウクライナ侵攻を始めた時のウラジーミル・プーチン大統領や、2023年3月に強引に3期目の政権を発足させた習近平主席にも、似たような心象を持った。
もちろん、トランプ大統領の「スタートダッシュ」には喜ばしい点もあって、19日にイスラエル・ハマスの停戦が成ったのに続き、遠からずウクライナ戦争も停戦するだろう。停戦の仕方は、必ずしもウクライナに望ましい形にはならないかもしれないが、ともあれ世界が平和になるのは吉事だ。
だが、戦争終結を除けば、アメリカ国内および世界の混乱は増える一方だ。私が「トランプ大統領が息切れする」と予測する根拠は、次の3方面からである。
対中スタンスでさっそく「矛盾」
第一に、政策面の矛盾だ。私は中国ウォッチャーなので、特に対中政策を注視しているが、マルコ・ルビオ新国務長官は就任早々、日本の岩屋毅外相、オーストラリアのペニー・ウォン(黄英賢)外相、インドのスブラマニヤム・ジャイシャンカル外相を集めて、持論である「中国の脅威」を訴えた。
だがその間に、上海で巨大なテスラの工場を運営するイーロン・マスク効率化省(DOGE)責任者は、満面の笑顔で中国の韓正(かん・せい)国家副主席と会談している。
他にも、アメリカ国民がトランプ大統領に最も期待する政策は、インフレの抑制である。だが、製造業やサービス業の「底辺」に従事している不法移民を排除すれば、モノやサービスの価格は上がるに決まっている。中国やメキシコ、カナダなど各国に、むやみに関税をかけても同様だ。
第二に、幹部間の「不和」である。今回のトランプ政権の幹部人事の最大の特徴は、「大統領への忠誠心」という一点で集めたということだ。歴代のアメリカ政権のような、理念や政策で共通する人々の集まりではない。
そのため、幹部たちはトランプ大統領だけを見て仕事を始めている。例えば、前述のルビオ国務長官とマスク効率化省責任者には、何の「接点」も感じない。各々「横のつながり」が希薄で、まるで結(ゆ)わえていない藁束(わらたば)のようなのだ。
そうなると早晩、「仲間割れ」が始まるに違いない。習近平主席への忠誠心だけで成り立っていた2023年の中国が同様で、足を引っ張られた秦剛(しん・ごう)外相や李尚福(り・しょうふく)国防相らが「失脚」していった。
4年前の「老いぼれバイデン」よりも高齢
第三に、時間的な問題である。任期4年×2期で、8年の長期政権になるかもと思えば、部下たちは従順になる。だが、トランプ大統領は4年後には確実にホワイトハウスから去っているし、そもそも1年10カ月後の中間選挙で敗れれば、残りの任期はレームダックだ。
加えて、78歳7カ月という史上最高齢で大統領に就任したトランプ氏は、2年後には傘寿を迎える。「老いぼれバイデン」と散々毒づいていたが、4年前のジョー・バイデン大統領よりも「5カ月高齢」で大統領職に就いているのである。
ご本人は意気軒高ぶりを振りまいているものの、会見の様子を注視すると、肩が曲がっていて、時折「ふうっ……」と息をついている。飽きっぽい性格もあいまって、いつ政策がなおざりになるか知れないリスクを孕(はら)んでいる。
それにしても、まだ政権が発足して数日が経ったばかりだが、トランプ大統領という政治家は、つくづく「壊し屋」である。まるでゴジラのように、次々と既存のものを踏み潰していく。
そうなると、「その後を誰が再建するのか?」という疑問が湧く。もしかしたら、それは既存の官僚たちや産業界ではなく、大統領就任式に雁首(がんくび)揃えたGAFA(グーグル[アルファベット]、アップル、フェイスブック[メタ]、アマゾン)トップのような面々ではないか。もっと言うなら、「ポスト・トランプ」――次代の大統領には、「ホワイトハウスから最も遠い」と言われるシリコンバレーからやって来る可能性を予見させるのだ。実際、前述のマスク氏はすでに、ホワイトハウスに執務室を与えられている。
アメリカはAIに全振りする
この一年近く、アメリカ政界に旋風を巻き起こしてきたマスク氏の発言の中で、私が特に印象に残っているものがある。それは、11月24日から26日にかけて「X」に投稿した、アメリカが誇る「世界最新鋭の戦闘機」に関する一連の発言だ。
「いまだに愚か者は、F-35のような有人戦闘機を製造している」
「ドローンの時代に有人戦闘機なんて時代遅れだ。パイロットが犠牲になるだけではないか」
「有人戦闘機は、ミサイルの射程を伸ばしたり、爆弾を落としたりする手段としては非効率だ。再利用できるドローンなら、人間のパイロットに要する全費用をかけずにそれが可能だ」
「敵の軍隊が高度なSAM(地対空ミサイル)やドローンを配備している場合、戦闘機は早晩、撃墜されてしまう。そのことはロシアとウクライナの戦争で証明されたではないか」
まさに正論である。『スターウォーズ』などのSF映画を見ても、近未来の戦争は無人機やロボット兵器同士で行っている。つまりは「AI兵器」だ。
マスク氏やGAFAの経営者たちに共通しているのは、AIの活用に秀でているということなのだ。そうなると、AIによってアメリカ政府の効率を最適化したり、国務省の外交政策をAIが考えたりといったことが本格化するだろう。図らずもトランプ大統領は、就任初日に、AI規制を撤廃する大統領令に署名した。
総じて言えば、トランプ時代とは、「人間の時代」から「AIの時代」への橋渡しとなる「過渡期」を意味しているのかもしれない。「人間がAIに支配される時期を早めた」とも言えるかもしれないが。