宇宙の7割を占めるダークエネルギーは存在しないとの研究結果、「本当なら宇宙の常識がひっくりかえる」と専門家

宇宙の7割を占めるダークエネルギーは存在しないとの研究 科学・技術

宇宙の7割を占めるダークエネルギーは存在しないとの研究結果、「本当なら宇宙の常識がひっくりかえる」と専門家(Gigazine 2025年01月09日 12時30分)

ビッグバンの大爆発で始まった宇宙の膨張は、勢いが衰えるどころか加速していることが知られており、宇宙を加速膨張させている謎のエネルギーは「ダークエネルギー」と呼ばれています。科学者が長年にわたって探究しているにもかかわらず、正体がつかめていないこのダークエネルギーは、実際には存在しないとする説を裏付ける研究結果が発表されました。これは、宇宙はどこも同じで特別な場所はないとする現行の宇宙論を根底から覆しかねない発見だと位置づけられています。

Supernovae evidence for foundational change to cosmological models | Monthly Notices of the Royal Astronomical Society: Letters | Oxford Academic
https://academic.oup.com/mnrasl/article/537/1/L55/7926647

Huge if true – dark energy doesn’t exist, claims new study on supernovas
https://theconversation.com/huge-if-true-dark-energy-doesnt-exist-claims-new-study-on-supernovas-246674

現代の宇宙論の根幹をなすのは、「Λ-CDMモデル」というモデルです。

これは、「宇宙項Λ(ラムダ)」で表されるダークエネルギーと、エネルギーが低い「冷たいダークマター(Cold Dark Matter:CDM)」を組み合わせたもので、このモデルでは宇宙は68.3%のダークエネルギー、26.8%のダークマター、4.9%の通常の物質から成るとされています。

Λ-CDMモデルは標準的な宇宙論モデルとして四半世紀にわたって支持されてきましたが、最新鋭のダークエネルギー分光装置(DESI)の観測結果を分析した新しい研究により、不変だと思われてきたダークエネルギーが時間とともに弱まっている可能性が示されるなど、いくつかの課題に直面しています。また、Λ-CDMモデルの重要な基礎であるアインシュタインの一般相対性理論がそもそも不完全なのではないかという見方もあります。

こうした課題から注目が集まっている代替モデルのひとつに、タイムスケープ宇宙論モデル、いわゆる「タイムスケープモデル」があります。この理論と現行の宇宙論の大きな違いは、この宇宙がどこまでも同じであると仮定するかどうかという点にあります。

通常物質やダークマターを含む宇宙の物体は、銀河や銀河団といった形で密集しており、宇宙全体に薄く広がっているわけではありません。しかし、宇宙はあまりにも広大なので、宇宙規模ではこのようなムラはささいなものであり、全体としてみれば物質の分布は均一だと考えられます。

この宇宙の均質性や等方性は宇宙原理と呼ばれており、Λ-CDMモデルもこの原理に根ざしています。

    対照的に、タイムスケープモデルは物質の不均一な分布を考慮するもので、このモデルでは宇宙の膨張はフィラメントなどの大規模構造に直接影響を受けているのではないかと考えます。

    タイムスケープモデルでは、宇宙の巨大な空洞である「ボイド」が重要になってきます。宇宙に物質の塊があると、引き合う重力の作用によって空間の膨張が遅くなりますが、ボイドには物質がほとんどないので、宇宙空間はより速く膨張します。これにより、Λ-CDMモデルが「ダークエネルギーの存在の証拠」としている宇宙の加速膨張に似た結果が局所的に発生します。

    つまり、タイムスケープモデルは「宇宙の膨張が加速しているように見えるのは、人類の周囲だけかもしれない」と示唆しています。

    2024年12月に王立天文学会月報で発表した論文で、著者らは「パンテオンプラス」と呼ばれるIa型超新星のデータセットを分析しました。Ia型超新星は明るく遠くからでも観測が可能で、ピーク時の光度もほぼ一定であるため、宇宙の膨張率を計算する上で重要な天体です。

    このデータを使って、研究チームがΛ-CDMモデルとタイムスケープモデルを比較したところ、近くの超新星ではタイムスケープモデルの方が観測記録をよりうまく説明できるという結果が得られました。ただし、これはあくまでも統計的なもので、正確には「統計的な分析で『非常に強い』優位性が示された」と表現されます。

    また、より均一に分布して見えるはずの遠方の超新星を調べた場合でも、タイムスケープモデルは標準モデルよりわずかに優れた結果だったとのこと。

    この研究結果は、宇宙の「塊と隙間(ボイド)」が地球からの観測に影響を与えるとするタイムスケープモデルの方が、宇宙の膨張の真の性質をより正確に捉えている可能性を示唆しています。特に、地球の近くにはボイドやフィラメントがたくさんあるため、それが人類から見た宇宙の変化に大きな影響を与えているかもしれません。

    この研究にはいくつか注意点もあり、例えば今回の分析では特異速度(超新星の測定に影響を与える銀河のランダムで小さい運動)や、マルムキストバイアス(検出しやすいという理由で明るい超新星がデータセットに含まれやすくなるバイアス)が考慮されていません。

    また、Λ-CDMモデルはバリオン音響振動や重力レンズ効果など、長年積み重ねられてきたさまざまなデータに裏付けられているので、タイムスケープモデルはこれらもクリアする必要があります。

    こうした点を指摘した上で、学術系サイト・The Conversationに解説記事を寄稿したクイーンズランド大学の宇宙学者のロッサナ・ルッジェリ氏は、「新しい研究により、タイムスケープモデルはΛ-CDMモデルに代わる興味深い理論を提供することになりました。要するに、宇宙の加速膨張は物質の不均一な分布や、物質が高密度な領域よりも急速なボイドの膨張速度が生み出した幻だということです。もしこれが確認されれば、宇宙論における革命的なパラダイムシフトになるでしょう」と述べました。

    【参考記事】

    ダークエネルギーもダークマターも一挙に解明?「タイムスケープ宇宙論」とはなんだ JBpress 2025.1.11)