石破茂首相、持論の「核共有」どうするの? 被爆者団体にノーベル平和賞…でも関係者の不安は消えない

会場であいさつする被団協の田中重光代表委員=11日、東京・永田町の参院議員会館で 社会

石破茂首相、持論の「核共有」どうするの? 被爆者団体にノーベル平和賞…でも関係者の不安は消えない(東京新聞 2024年10月12日 06時00分)

11日夕、ノーベル平和賞に日本原水爆被害者団体協議会(被団協)が選ばれた。核兵器廃絶に向けた長年の取り組みが評価された。被団協は折しもこの日の昼、国会で集会を開き、核なき世界が実現しない現状に危機感を表していた。日本では今月、「核共有」を持論とする石破茂氏が首相に就任した。今回の平和賞を踏まえてもなお、核抑止力への依存を強める考えだろうか。(太田理英子、山田祐一郎)

「受賞が政府を変える一つの力になれば」

「大変驚いている。被爆者の思いがようやく認められてうれしい」。被団協の工藤雅子事務室長(62)は11日夜、東京都港区の事務所で喜び、こう続けた。「被爆者への国家補償と核廃絶を求めてきたが、政府は背を向けてきた。受賞が政府を変える一つの力になれば」

この日昼、被団協は東京・永田町の参院議員会館で集会を開いていた。

「来年で被爆から80年。核兵器をなくすこと、国家補償を求める運動をしてきたが、残念ながら今も達成されていない」。7人の現職・前国会議員を前に、長崎で被爆した田中重光代表委員(84)は訴えた。

受賞発表の日に集会、自民は欠席

被団協は集会で、各政党と厚生労働省に全ての原爆被害者への国家補償の法制化、核兵器禁止条約の署名・批准などを求める要請書を出した。

政党への要請時、立憲民主、維新、公明、共産、国民民主、れいわ、社民の7党から各1人が出席した。だが、自民は「出席できる議員がいない」として欠席し、広島選出の寺田稔前衆院議員がメッセージを寄せるにとどまった。

政党の出席者は「核兵器のない世界をめざし全力で取り組む」「核禁条約締約国会議へのオブザーバー参加が必要」などと前向きに発言。だが愛知県原水爆被災者の会の金本弘理事長(79)は「先生方の話を聞くと、きっと要求を実現してくれるといつも思う。でもその後『なんだ、こんなもんか』と思わされる」と不信感をあらわにした。

石破氏は「核共有」に前向き

国連での核禁条約採択から7年。94の国・地域が署名し、73の国・地域が批准したが、被爆国の日本は消極的だ。金本氏は「この7年で何万人の被爆者が亡くなったか。悔しさが込み上げた」と漏らした。

核廃絶を求めて闘う被爆者たちの思いに逆行するように、核を巡る持論を展開してきたのが石破氏だ。

9月の自民党総裁選の討論会で、石破氏は米国の核兵器を日本で運用する「核共有」に前向きな姿勢を示し「非核三原則に触れるものではない」と強調した。同月下旬に米シンクタンクのホームページに掲載された寄稿では、アジア版の北大西洋条約機構(NATO)を創設し、「核の共有や持ち込み」を具体的に検討すべきだと主張した。

石破氏の主張など「もってのほか」

先の田中氏は集会で、「こちら特報部」の取材に「79年たっても被爆への補償が十分なされず、戦後処理は終わっていないのに、核共有なんてもってのほか」と語気を強めた。集団的自衛権の行使を認めた安倍晋三政権、敵基地攻撃能力の保有を決めた岸田文雄政権に続く石破政権。「新しい戦前が始まっている」と危機感を募らせていた。

被団協の代表者会議は10日、原爆投下から80年となる来年に向け「再び被爆者をつくらないために、日本と世界のみなさんと訴え歩み続ける」とのアピール文を採択している。その中で日本政府が責任を果たしていないとも追及した。

田中熙巳(てるみ)代表委員(92)は「政府は核兵器でもたらされた無残な被害を全く理解していない。核廃絶の論戦の先頭に立たなければいけないはずだ」と力を込めた。