あんな政倫審でも「意味はあった」? 泉房穂さんと白鳥浩さんが「自民議員の言い訳」に見た裏金問題の今後(東京新聞 2024年3月24日 03時00分)
自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件を巡って衆参両院で開かれた政治倫理審査会(政倫審)だが、弁明に立った派閥幹部らは不明瞭な説明を繰り返し、真相解明には至らなかった。
「政治とカネ」の問題を厳しく批判してきた泉房穂・前兵庫県明石市長と、現代政治分析が専門の白鳥浩・法政大大学院教授に、今回の政倫審をどう読み解いたか、有権者の政治不信の払拭には何が必要かを聞いた。
泉房穂氏「見えた政治家の資質、投票の参考に」
―今回の政倫審で説明責任は果たされたか。
政倫審は言い訳の場であって全容解明の場ではない。国会で議論するなら偽証罪に問える証人喚問が必要だ。安倍派幹部だけでなく、(安倍派元会長の)森喜朗元首相も偽証罪を前提に話すべきだ。全容解明なくして対策はできない。
今、自民党は全容解明をせずに議員の処分をして、名ばかりの対策を取ろうとしている。このままだと国民は「こんな政治はだめだ」という思いを強めていくのではないか。
―国会や自民党に求めることは。
まずは証人喚問をすべきだが、どうせ「記憶にございません」となる。やはり第三者委員会を設置すべきだ。不祥事をやった人間が自分たちだけで(調査を)やったって、もみ消すだけ。時間をかけて資料や証言を突き合わせて調べないと全容は解明できない。
―関係議員の処分はどうあるべきか。
結局、全容解明せずして処分はできない。「私は(不正・違法行為を)やっていません」という言い分が前提では、どうしても軽い処分にならざるを得ない。事実関係を確認していないのに処分をすること自体がおかしいのではないか。
―どんな再発防止策が必要か。
派閥のみならず閣僚のパーティー開催自粛など、(リクルート事件への反省から1989年に自民党がまとめた)政治改革大綱で自らが決めて30年間放置していたことを、そろそろちゃんとやったらどうか。
有権者にも今回の問題を通じて、政策以前の政治家の資質が見えてきたのではないか。秘書や会計責任者のせいにするような対応は、リーダーとして責任を果たす立場にはふさわしくない。投票行動の大きな参考になると思う。(聞き手・小寺香菜子)
白鳥浩氏「食い違う証言、疑惑あぶり出された」
―今回の政倫審では「承知していない」「分からない」といった逃げの答弁が目立った。
「何の意味もなかった」という見方もあるかもしれないが、そうは思わない。安倍派や二階派の議員の弁明はテレビ中継などを通じて広く伝わった。多くの国民は「派閥幹部はちゃんとしゃべっていない」という印象を受けただろう。
―とはいえ真相の解明にはほど遠かった。
焦点は三つに絞られたのではないか。一つ目は、この問題がいつから始まったのかという点。二つ目は、2022年4月になぜ還流を「やめよう」という話になったのか、だ。
下村博文元文部科学相は今年1月の記者会見で、22年8月の安倍派の幹部協議で「政治資金収支報告書を『合法的な形』で出す案」が出たと言及した。言葉遣いからすると、幹部の間では当時既に違法性の認識があった可能性がある。
三つ目は、なぜ還流の継続が決まったのかという点だ。政倫審では安倍派の幹部の証言で食い違いが生じている。改めて疑惑があぶり出されたといえる。
―自民党に何を求める。
なぜ関係議員の処分を急ぐのか。必要なのは真相解明だ。4月の(衆院の三つの)補選前に見かけだけの「けじめ」をつけたいのではないかとの疑問もわく。
森喜朗元首相らベテラン議員に経緯を聞かないのも疑問だ。自民党が自浄能力を発揮できるかが問われている。
真相を語る中堅・若手議員が出てきてほしいと思うが、30年前の政治改革で衆院の選挙制度を中選挙区制から(定数1の)小選挙区制に変えた結果として、(公認権を持つ)党執行部を恐れ、発言しにくい雰囲気があるのではないか。当時の政治改革のあり方を問い直す時期に来ている。(聞き手・佐藤裕介)
衆参両院で開かれた政治倫理審査会
自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件を巡り、今年2月以降、衆院で3回、参院で1回の計4回開催。衆院では岸田文雄首相のほか、二階派の武田良太元総務相、安倍派の西村康稔前経済産業相、松野博一前官房長官、塩谷立元文部科学相、高木毅前国会対策委員長、下村博文元文科相が、参院では安倍派の世耕弘成前参院幹事長、西田昌司氏、橋本聖子元五輪担当相が出席し、それぞれ弁明と質疑が行われた。