新興国・途上国が米国ではなく中国を支持する3つの理由(OWNER 2022/06/26)
ロシア、中国、北朝鮮を軸とする世界的な地政学リスクが高まっている現在、「一つでも多くの国を自陣に取り込みたい」というのが米国の本音だろう。しかしその思惑とは裏腹に、「米国の支配主義」に対する反感や中国への賛同が一部の新興国・途上国間で広がっているという。
「世界最強の覇権国家」巻き返しに奔走するバイデン大統領
長年に渡り「世界最強の覇権国家」の座に君臨してきた米国の衰退が顕著になったのは、トランプ政権下(2017~21年)でのことだ。
国内経済はオバマ政権時より若干改善されたものの、軍事費増加を中心とする財政拡張策で対GDP比政府債務は上昇。冷戦(1945~89年)以降の自国の政治や外交に異論を唱え、「環太平洋経済連携協定(TPP)」から永久離脱するという荒業までやってのけた。
政権移行後、バイデン大統領はあの手この手で巻き返しに奔走しているが、一度緩んだ地盤を再建するのは容易なことではない。
新興国・途上国が米国を選ばない3つの理由
焦りの色を隠せない米国を横目に、中国は一部の新興国・途上国において、その影響力がますます増大している。なぜ、これらの国は米国ではなく中国を選ぶのか。
過度の内政介入
一部の国にとって、米国が振りかざす覇権国家主義や人道主義は、自由、民主主義、正義、人権、環境問題、世界平和をキーワードに、自国の制定した基準や規則、価値観をもって他国の内政に介入することに他ならない。
特に、独裁色の強い政権体制を維持している国が米国の介入を許した場合、一歩間違えれば政権崩壊につながるリスクを孕んでいる。
米国の介入に対する警戒心は、新疆ウイグル自治区人権問題を巡る国際世論の二極化にも反映されている。
グローバルタイムズ紙によると、スイス開催(2022年6月17日~7月8日)の第50回人権理事会(HRC)において、欧州の先進国や米国とその同盟国を中心とする47カ国が、中国の人権問題を批判する共同声明に署名した。しかし、それを遙かに上回るほぼ100カ国が中国の姿勢に理解を示し、支持を表明したのだ。
そのうち70カ国近くは共同演説を行い、「(米国が)人権問題を中国の内政干渉の口実にしている」ことに異論を唱え、「人権問題を政治の道具に使うべきではない」という習近平国家主席の訴えを繰り返した。
自国市場を解放しない
米国を内政に介入させれば市場を解放してくれるのかというと、それとこれとは別問題だ。途上国にとって、先進国市場へのアクセスは喉から手が出るほど魅力的だが、米国は簡単にYESと言わない。
2022年1月1日のジェトロのデータによると、米国はチリやメキシコ、コロンビアなどと合計14件の自由貿易協定を結んでいるが、2020年7月に発効された「米国・メキシコ・カナダ協定」以外はトランプ政権以前に発効されたものだ。
バイデン政権が、インド太平洋圏における成長戦略の足掛かりとして打ち出した新経済圏構想が、2022年5月に発足した米国主導の「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」である。表面上は経済・貿易・環境問題への取り組みや提携を通した加盟国間の関係強化を狙いとしているが、中国を含む権威主義国に対する威嚇目的もある。
しかし、「自由で開かれたインド太平洋経済」というスローガンとは裏腹に、関税の引き下げや撤廃といった自由貿易の要素は組み込まれておらず、交渉する余地すら与えていない。NATOのような安全保障の枠組みでもない。つまるところ、新興国・途上国にもたらす恩恵はほとんど期待できないのだ。
安全保障面でも頼りにならない
ベトナムやイラク、アフガニスタンなど、米国は軍事介入において歴史に残る数々の失敗を犯してきた。中国・台湾の例でも分かるように、近年は直接的な有事介入に消極的な姿勢を維持している。直近では、台湾やウクライナに武器供給を含む間接的な支援はしているが、自国の軍隊を派遣する可能性は極めて低い。
バイデン大統領が2022年5月に訪日した際、「台湾防衛で軍事介入の意志を表明した」と報じられたが、直後にホワイトハウス高官が「撤回」に乗り出すなど、あくまで中国に対するけん制の意味合いが強かったと推測される。
要するに新興国・途上国にとって、現代の米国は世界の指導者的立場を誇示したがるわりに経済面でも安全保障でも頼れない。それどころか、下手をすると地雷を踏みかねない厄介な存在なのではないだろうか。
米国とは真逆のアプローチをとる中国
これに対して中国は、他国の内政に一切介入せず、新興国・途上国へのインフラ融資や市場開放にも積極的だ。
古くは韓国やインド、スリランカなどと締結した特恵貿易協定「アジア太平洋貿易協定(APTA、1976年)」から、ASEAN(インドネシアやマレーシア、フィリピン、ベトナムなどの10カ国から成る東南アジア諸国連合)が参加する「地域的な包括的経済連携協定(RCEP、2022年1月)」まで、合計20件の自由貿易協定や関税同盟、特恵貿易協定を発効・署名している。チリ、ペルー、コスタリカ、カンボジアなどとは、二カ国間自由貿易協定も結んでいる。
さらに、中国には巨大経済圏構想「一帯一路イニシアティブ(BRI)」という強力な武器もある。2022年3月の時点で世界147の国と地域が参加しており、そのうち約半分は低~低中所得国だ。
中国は「新たな経済発展の機会を生み出し、地政学的安定に繋げる」という名目の元、途上国のインフラ整備などに巨額の資金を提供して来た。BRI参加国に投資・融資した金額は、2021年だけでも総額595億ドル(約8兆345億円)に上る。
その一方で、一帯一路の資金提供については全貌が明らかになるにつれ、国際批判も高まっている。その事業費の大半が中国金融機関からの高金利融資によるもので、多数の途上国が巨額の負債に喘いでいるのだ。
国際社会の二極化で選択迫られる新興国・途上国
IPEFへの参加に踏み切ったインドなどの一部の国が脱中国依存を図っている一方で、中国の影響力が高まっている国もあることは事実である。
国際社会の二極化で選択を迫られている新興国・途上国。「アメリカ第一主義」が政治信念に沁みついた経済大国の米国より、新興国の経済的成功例であり、狡猾だが何らかの利益をもたらすと期待させてくれる中国に流れるという構図は、今後さらに鮮明になっていくだろう。
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文・アレン琴子(英国在住のフリーライター)
英メディアや国際コンサル企業などの翻訳業務を経て、マネーライターに転身。欧州を基盤に、複数の金融・ビジネスメディアにて執筆活動中。国際経済・金融、FinTech、ビジネス、仮想通貨、行動経済学など、広範囲に渡る「お金の情報」にアンテナを張っている。