衆議院選挙 1票の格差是正の「10増10減」案に、自民党からは身勝手な反対意見

衆議院総選挙_1票の格差 政治・経済

毎日新聞社説「『10増10減』への異論 あきれる自民の身勝手さ」(2月8日)

「10増10減」への異論 あきれる自民の身勝手さ(毎日新聞 2022/2/8)、他

「1票の格差」是正を目的とする衆院小選挙区の区割り見直し案に、自民党から反対意見が噴出している。

自民が主導して関連法が2016年に改正され、人口比を議席配分に反映しやすくする「アダムズ方式」の導入が決まった。

昨年11月に公表された20年国勢調査の確定値に基づけば、「10増10減」となる。議席数が、首都圏と愛知の1都4県で計10増える一方、宮城、福島、和歌山、広島、山口など10県で各1減る。

政府の審議会が6月までに区割りの改定案を首相に勧告するのを受けて、次期衆院選から適用することが想定されている。

しかし、党内では見直しにブレーキを掛けようとする動きが出ている。細田博之衆院議長が昨年12月、「地方を減らして都会を増やすだけが能ではない」と述べた。

議論をまとめる立場の議長として非常識ではないか。しかも細田氏は、16年の改正案で提案者に名を連ねていた。

二階俊博元幹事長(衆院和歌山3区)も今年1月、「迷惑な話だ。腹立たしい」と発言した。世耕弘成参院幹事長(和歌山選挙区)は地方の議席を減らさないために、都市部の定数を増やす方策を唱えている。

反対する背景には、党内の公認調整が難しくなるという内輪の事情がある。議席数が減る県は自民現職が多数を占め、山口では安倍晋三元首相や林芳正外相、岸信夫防衛相ら有力者が影響を受ける見通しだ。

アダムズ方式が導入されたのは、1票の格差が2倍を超えた09、12、14年の3回の衆院選について、最高裁が「違憲状態」と判断したからだ。

先送りは司法判断をないがしろにする行為である。自ら決めたルールをひっくり返すような言動は身勝手と言うほかない。まずは法律通りに格差を是正すべきだ。

今回の見直しを巡っては党内に「地方の声が届きにくくなる」との意見が根強くある。民意を国政に幅広く反映することは大切だが、1票の格差を放置していい理由にはならない。

選挙制度は国会の構成を決める重要な枠組みだ。格差を最小にする努力を怠ってはならない。

1票の格差とは?

それぞれの選挙区の有権者数が異なるため、1票の重みに差が生じてしまうこと。

例えば、2021年の衆議院総選挙において、有権者数が最も多かったのは東京13区で48万0247人、最も少なかったのは鳥取1区で23万0959人、2.08倍の格差である。すなわち、有権者1人の投票価値は、東京13区では鳥取1区の1/2しかないことになる。

憲法14条1項に、「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」と定めている。

最高裁は、衆議院選挙において2倍を超えると憲法が定めた平等の原則に反するとして、「違憲」又は「違憲状態」と認定している。

アダムズ方式とは?

米国の第6代大統領アダムズが1830年代に唱えたと言われる計算法で、各地域への議席配分に用いる。人口比を正確に反映しつつ、人口の少ない県にも必ず1議席が配分できる。

衆議院総選挙における各都道府県の定数(小選挙区の数)の算出方法は、

1.各都道府県の人口(有権者数ではない)を同一の数字「X」で割り、商の小数点以下を切り上げてその都道府県の定数を決める。

2.47都道府県の定数の合計が小選挙区の全議席数になるよう「X」を設定する。

「X」をどのようにして決めるか。分かりやすくするため、人口 180 万人のA県、105 万人のB県、75 万人のC県に、10 議席を配分する という例で考えることにする。

まず、「除数X」を適当に10万人にして計算する。

A県 : 180万 ÷ 10万 = 18 議席
B県 : 105万 ÷ 10万 = 10.5 を切り上げして、11 議席
C県 : 75万 ÷ 10万 = 7.5 を切り上げして、 8 議席

A県、B県、C県を合わせると、18 + 11 + 8 = 37(議席)となり,合計議席が10 議席を超える。そこで次に、「除数X」を 40万人にして,再度計算する。

A県 : 180万 ÷ 40万 = 4.5 を切り上げして、5 議席
B県 : 105万 ÷ 40万 = 2.6… を切り上げして、3 議席
C県 : 75万 ÷ 40万 = 1.8…を切り上げして、2 議席

A県、B県、C県を合わせると、5 + 3 + 2 = 10(議席)となり、今度は全部でちょうど 10 議席になった。

このように、「除数X」を何度か調整して、全議席数に合うように計算する。