五感、第六感どころではない。わたしたち人間はなんと12もの〈超感覚〉を秘めていた…!——最新科学が明かす「奇妙で不思議な世界」

わたしたち人間はなんと12もの〈超感覚〉を秘めていた…! 科学・技術

五感、第六感どころではない。わたしたち人間はなんと12もの〈超感覚〉を秘めていた…!——最新科学が明かす「奇妙で不思議な世界」(文春オンライン 2025/07/25)

人間には犬に負けない凄い嗅覚がある、耳はじつは「視力」を持つ、フェロモンは「命令」と「服従」でもって動物の自由意志を揺るがす——これらは、五感(視覚、嗅覚、聴覚、触覚、味覚)や第六感(直感やシックス・センス)を超えて、最新の科学研究で分かった〈超感覚〉の数々である。

フィナンシャル・タイムズ紙の年間ベストブックにも輝いた話題のサイエンス本『人間には12の感覚がある 動物たちに学ぶセンス・オブ・ワンダー』(ジャッキー・ヒギンズ著 夏目大訳)から、人間が秘める驚きの〈超感覚〉の数々を紹介する。

「人間には五感がある」と唱えたアリストテレスは間違っていた

私たちは幼い頃から、人間には五つの感覚、いわゆる五感——視覚、嗅覚、聴覚、触覚、味覚——があると教わり、それをそのまま信じていがちだ。だが、それは本当だろうか。

五感という考え方が生まれたのは、じつは2000年以上前のこと。アリストテレスが紀元前350年頃に、著書『霊魂論』のなかで五感に触れている。その後、シェイクスピアもやはり五感に言及しており、現在でも世界中のほとんどの人が人間の感覚は五つだと信じている。

しかし、じつはアリストテレスは間違っていたことが、最近の科学研究によって証明されている。

少し前まで、人間の「第六感」などと言えば、テレパシーなどの超能力の類とされていたのが、そうではなくなっている。第六感どころか、感覚は七つ、八つ、九つ、もっとあるかも知れないのだ。これは一体、どういうことか。

現代の認知神経科学によると、「五感」どころか「33感」もある?

「現代の認知神経科学は、五感説に挑戦し続けている。感覚は五つではなく、私たちの研究によっておそらく33種類くらいには増えそうだ。いずれの感覚にもそれ専用の受容器官がある」——神経生物学者のコリン・ブレイクモアはこのように語っている。つまり、感覚はアリストテレスの時代よりも大きく増殖しているのだ。

感覚の数え方は研究者によってそれぞれ違う(本書では12種類の感覚を紹介している)。だが、目や耳、皮膚、舌、鼻のはたらき方が一通りではない、ということでは意見は一致している。視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚のはたらきは、どれも確実に二通り以上存在しているのだ。

たとえば、目が実は空間だけではなく、時間も感じ取っている。さらにはコンパスのように方位を感じ取る力を持っているのではないかと考える研究者もいる。

内耳は音を感じ取ることができるが、同時に、自分が平衡を保っているかを感じ取ることもできる。

舌は味を、鼻はにおいを感じるとされるが、私たちが体験している食べ物の味は両者の協力によって生まれている。また、鼻は空気に含まれるにおい以外の情報も検知できる。

さすがのアリストテレスも、絶えず働いているのに意識されることがない、これら多数の感覚の存在には気づけなかった。

動物と人間は感覚器官における進化の過程を共有してきた

『利己的な遺伝子』の著者であり進化生物学者のリチャード・ドーキンスは、「世界を普段とは違ったふうに見る。そうすれば、この世界に生まれ落ちたばかりの時の感覚を取り戻せるだろう」と言う。そのためには、進化の系統樹がその役に立つかもしれない。

というのも私たち人間は、過去の長い歴史をすべての動物たちと共有しているからだ。しかし実際のところ、海の動物も陸の動物も空を飛ぶ動物も、持っている感覚はじつにさまざまだ。

たとえば、ヒナデメニギス(深海魚)は、深い海の中でかすかな光を感じ取れる並外れた能力を持っている。ホシバナモグラ(モグラの一種)は、触覚を使うことで、日光の届かない地中のトンネルの中を迷うことなく移動できる。オオクジャクヤママユ(蛾)のオスは、月の出ていない真っ暗な夜に、においを頼りにメスを見つけることができる。

いずれも極端な能力であり、一見、動物がそれぞれいかに異なっているかを証明しているようだ。しかし、よく調べると、じつはあらゆる動物の類似性が見えてくる。みな、共通の祖先から進化してきた“親戚”だから、“親戚”たちの感覚について調べ比較してみると、人間の感覚についてもより深く理解ができるのだ。

人間は1兆種類のにおいを区別できる——「内なる犬」を目覚めさせよ

動物たちを通して分かってきた、私たち人間が秘める不思議な〈超感覚〉とは、果たしてどんなものなのか。本書のカバー目次から、ざっと紹介してみよう。

【内なる嗅覚】
人間は1兆種類のにおいを区別できる。「内なる犬」を目覚めさせよ

【超味覚】
“泳ぐ舌”と呼ばれるアマゾン川の怪魚と“超味覚”を持つ人間

【色世界】
色の嵐を生きる人間vsモノクロームを生きる人間

【触覚と脳内画像生成】
全盲の画家が存在する理由

【耳は「視力」を持つ】
闇の狩人フクロウの「聴力図」とヘレン・ケラー

【時間感覚】
完全な闇のなか、時間が分からないまま生きられるか

【フェロモン】
動物の自由意志を揺るがす。夜の巨大クジャク蛾と人間の興奮

【方向感覚】
人間も渡り鳥になれるか。豪州の先住民は地球の磁気を感知か

【非・幽体離脱】
”地球外”の知的生命体・タコと人間の身体感覚  ほか

世界は〈超〉美しい——目を、耳を、皮膚を、舌を、鼻を開こう

こうした感覚は、はたらいていることが意識されないので、アリストテレス同様、ほとんどの現代人もその存在を知らないままだ。しかし、意識されない感覚も感覚であり、これからもそのような感覚がさらに見つかる可能性がある。

だからこそ、目を、耳を、皮膚を、舌を、鼻をもっと開いてみよう。われわれが感覚器官を開くことができれば、世界の美しさを今までよりもっと深く味わえるはずだ。それは、21世紀の「センス・オブ・ワンダー」ともいうべき奇跡のような体験なのかも知れない。