与党税制大綱 生活安定への協議続けよ(新潟日報 2024/12/21 6:00)
所得税が生じる「年収の壁」の引き上げが大綱に反映され、手取りが増える。与野党が伯仲する中での成果と言っていいだろう。
ただ、生活の安定に資するかは見通せず、財政面でも懸念が残る。与野党は引き続き、真摯(しんし)な協議を続けねばならない。
自民、公明の与党両党は20日、2025年度の税制改正大綱を決定した。柱になる「年収103万円の壁」を巡り、所得税の非課税枠を123万円に引き上げる。
協議に参加した野党、国民民主党の衆院選公約に沿い、年収制限を「178万円を目指して、来年から引き上げる」とした3党の幹事長合意に基づいている。
しかし3党の税制調査会幹部の間では、引き上げ幅や財源で溝が埋まらず、123万円にとどまった。協議は継続されるとはいえ、国民民主が要求する178万円との開きは依然大きい。
税制協議が24年度補正予算の成立が絡む政治主導で進んだ半面、政策効果などがデータに基づいて検討された様子はなかった。
引き上げに伴う所得税や住民税の減収に対する対策も「特段の財源確保措置を要しない」とし、さらなる恒久減税まで保留した。
地方税の住民税は26年度分から影響が生じ、減収は最大1千億円と試算されるという。政府が当初試算した約4兆円からは大幅に圧縮されたとはいえ、地方税収にどう影響するかは今後の協議次第で、注視する必要がある。
19~22歳の大学生年代の子どもを扶養する親の税負担を軽減する特定扶養控除では、「特定親族特別控除」(仮称)を創設し、学生らの年収制限を103万円から150万円に引き上げる。
長時間のアルバイトで学生らの収入が増えても、親の納税額が増えないようにする。学費や生活費が上がる中、アルバイト収入を生活費の足しにしている学生にとっては朗報だろう。
引き上げには人手不足の緩和につなげる狙いもあるという。
ただ本来、望ましいのは、学生が生活費を心配せずに、学業に専念できることだ。賃上げで世帯全体の可処分所得を増やすとともに、労働力不足に悩む企業の生産性向上に向けた支援を進めたい。
与党は当初、児童手当を16~18歳の高校生年代まで広げた代わりに、扶養控除を縮小する方針だった。国民民主が維持を要求し、25年度の控除縮小は見送った。
防衛力強化の財源を確保する増税の開始時期は、法人税とたばこ税を26年4月からとしたものの、所得税は決定を先送りした。国民負担を避ける狙いだろう。
一方で少数与党は、野党の要求を取り込まねばならず、財政規律の維持が困難になりがちだ。
そうした中にあっても、与党には責任ある財政運営が求められることを忘れないでもらいたい。