<社説>巨額の経済対策/必要性と効果を説明せよ(神戸新聞 2024/11/30 06:00)
政府の総合経済対策が決まった。総額は約39兆円で、2024年度補正予算案の一般会計から13兆9千億円を支出する。新型コロナウイルス禍前を大きく上回る規模となる。
景気を下支えし成長を促す目的というが、金額の大きさをアピールすることを優先させたようだ。従来の施策を寄せ集めた急ごしらえ感がぬぐえず、緊急性が低いものや効果があいまいな施策が目立つ。肝心の財源は約半分が国債頼みとなる。
これでは、物価高騰に苦しむ国民の安心にはつながらない。政府は6月に決めた経済財政運営の指針「骨太方針」で、コロナ禍で膨らんだ歳出構造を「平時に戻す」と掲げた。それにも反している。
なぜこれほど巨額の対策が要るのか。石破茂首相は、期待できる効果を含め、丁寧かつ具体的に説明せねばならない。
経済対策の柱の一つは「物価高の克服」である。住民税が非課税となっている低所得世帯に3万円を支給し、そのうち子育て世帯には、子ども1人当たり2万円を上乗せする。困窮者への速やかな支援は必要だが、公平性に疑問符が付く。
住民税非課税世帯は、7割超を65歳以上の世帯が占める。所得が少なくても、預金などの資産が多い高齢者にも恩恵が及ぶ。一方、住民税を納めながら低賃金で困窮する労働者は少なくない。中でも、ひとり親世帯の状況は厳しい。現役世代への目配りが不十分と言わざるを得ない。課税所得による線引きは、見直しが求められる。
今回も、光熱費を抑える補助制度が盛り込まれた。電気とガス料金への補助金を来年1~3月に再開する。年内で終了予定だったガソリンに対する補助についても、段階的に縮小しながら延長する。
こうした一律の補助金は富裕層ほどメリットが大きく、「ばらまき」との批判が根強い。市場の価格形成をゆがめる上に、国際的な脱炭素の潮流にも逆行する。これ以上続けるのは望ましくない。
対策にはほかに能登半島の道路復旧、避難所となる学校体育館へのエアコン設置、地方創生に取り組む自治体への交付金創設などが並ぶが、見逃せないのは30年度までに人工知能(AI)や半導体産業の公的支援に10兆円以上を投じる点だ。
緊急対策を盛り込む補正予算案は査定や国会での議論が甘くなりがちだ。巨額を投じる以上は当初予算案に計上し、費用対効果についての議論を深めるべきではないか。
臨時国会では、経済対策の実効性を厳しく見極めることはもちろん、財源の確保とセットになった責任ある議論を与野党に強く求める。
<社説>これほど巨額の経済対策は必要なのか…日本経済新聞
[社説]これほど巨額の経済対策は必要なのか(日本経済新聞 2024年11月22日 19:05)
今回も「まず規模ありき」だった。22日に閣議決定した巨額の経済対策は、財源を国債の増発に頼る公算が大きい。どれだけの効果を期待できるかもみえない。次の成長につなげる「賢い支出」からほど遠いのは残念だ。
経済対策では、2024年度補正予算案の一般会計から13.9兆円の支出を見込む。財政投融資や特別会計を含めた「財政支出」は21.9兆円ほどになり、民間資金も合わせた事業規模はおよそ39兆円に膨らむ見通しだ。
石破茂首相は先の衆院選のさなかに「(約13兆円だった)昨年を上回る大きな補正予算」を成立させると表明した。
日本経済は緩やかな回復を続けている。巨額の財政支出は物価高を助長するおそれもある。だからこそ政府は6月に決めた経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)で、新型コロナウイルス対策で膨張した歳出を平時に戻すと明記したはずだ。
にもかかわらず、なぜ昨年を上回る必要があるのか。首相ははっきりと説明すべきだ。
はじめから歳出規模が決まった急ごしらえの経済対策だけに、これまで実施してきた政策の復活や延長が目立つ。
物価高対策として、電気・ガス料金の補助を25年1〜3月に再び実施する。23年1月に開始し、いったん終了したあと24年8〜10月に復活させたものだ。
年内を期限としていたガソリン補助金も、規模を縮小して延長する。市場の価格形成をゆがめ、脱炭素にも逆行する政策をだらだらと続けるのには賛成できない。
半導体や人工知能(AI)分野の強化には、30年度までに10兆円以上を投じる方針を盛り込んだ。成長の種をまく支出は必要だ。根拠に基づく政策立案(EBPM)の視点で、効果をしっかり見極めてもらいたい。
今回の対策には、所得税がかかる年収の最低ラインである「103万円の壁」の引き上げを明記した。野党の国民民主党が要求し、与党の自民、公明両党がのんだ。
国と地方で7兆〜8兆円の税収減が見込まれる。その財源をどうするかは先送りした。国民民主が財源は「政府が考えるべきだ」と主張するのはあまりに無責任だ。
日本の財政が危機的な状況にあるのは変わりない。与野党は責任を共有し、成長と財政健全化の両立を目指すべきだ。