<社説>衆院解散、総選挙へ 信頼回復が喫緊の課題だ…北海道新聞

<社説>衆院解散、総選挙へ 政治・経済

<社説>衆院解散、総選挙へ 信頼回復が喫緊の課題だ(北海道新聞 2024年10月10日 4:00)

衆院がきのう解散された。総選挙は15日公示、27日投開票の日程で行われる。

石破茂首相の就任から8日後の解散、26日後の投開票はいずれも戦後最短となる。自民党総裁選の勢いを駆って、野党の準備が整わないうちに選挙戦を有利に進める狙いだとすれば、党利党略も甚だしい。

なぜ、これほど急ぐのか解散の大義が見えない。

解散前には十分な国会論戦が必要だと言っていたのは首相自身だ。総裁選で熱を込めて訴えた持論も次々と封印してしまった。これでは新政権が何を目指し、どんな政治を行おうとしているのか皆目分からない。

首相は、新政権ができる限り早く審判を受けることが重要だと言うが、有権者に判断材料が示されていないではないか。

自民党の裏金事件を受け、政治の信頼は地に落ちている。少子化や物価高、国際紛争など内外の懸案が山積する中、政策論議の前に国民の信頼回復が喫緊の課題となっている深刻さを自覚すべきだ。

■変節ぶりが目に余る

首相は総裁選で、国民に判断材料を示すのは新首相の責任であり、解散前には一問一答形式の予算委員会の開催が必要だと明言していた。

新しい首相が早期に国民の信を問わなければならないとの考えに一般論として異論はない。だが、それは予算委を開かなくてもよいことの理由には全くなっていない。

歯切れの良い訴えから一転して後ろ向きになった政策は、選択的夫婦別姓の導入や日米地位協定の見直しなど枚挙にいとまがない。

きのうの党首討論では「自民党は独裁政党ではない。総裁の言葉がそのまま政策になるわけではない」と反論した。

しかし事実上の首相を決める総裁選での発言は国民に向けた公約でもある。それを短期間でこうもあっさり翻す言葉の軽さは政治不信が増幅しかねない。

選挙直前になぜこのような迷走を続けているのか、今後の政策の展望はどうなのか、首相は明確に説明する責任がある。

■疑惑解明が最優先だ

自民党の裏金議員について、首相は計12人を非公認とする方針を決めた。だが裏金の全容解明からは程遠いまま、曖昧な線引きで決めた処分では中途半端なその場しのぎだと言わざるを得ない。

首相は党首討論で非公認となった議員が衆院選で勝利すれば、党として追加公認する可能性に言及した。厳しい対応が当面の選挙向けの演出でしかないことを裏付けるような発言だ。

裏金事件の公判では、被告の旧安倍派の会計責任者が、一度中止した派閥から議員への還流について、安倍派幹部4人が判断して再開が決まったと証言した。政治倫理審査会で関与を否定していた幹部の発言とは食い違う。

堀井学元衆院議員が裏金を違法な香典提供の原資にしていた可能性も新たに判明している。これまで新事実が出た場合は再調査をすると言っていた首相は、言葉通り実態解明に取り組まなければならない。それなしには「納得と共感」のスローガンが空疎に響く。

党首討論では使途公開の不要な政策活動費を衆院選に向けて使う可能性も明言した。首相は代表質問で政策活動費の将来的な廃止に言及したばかりだ。その扱いをどう考えているのか、ちぐはぐな言動は国民の不信感を一層拡大させかねない。

世界平和統一家庭連合(旧統一教会)を巡っては、牧原秀樹法相が自身や秘書が計37回も教団の関係会合に出席していたことが明らかになった。教団と自民党の関係はいまだに不透明なままであり、任命した首相の問題意識が問われる。

安倍晋三政権下では森友・加計学園や桜を見る会などを巡る不祥事が選挙後にうやむやとなった。安倍政権に批判的な発言を続けていた首相は、これらの問題をいまどう考えているのか問いたい。

■野党の本気が見えぬ

立憲民主党は政権交代を訴えている。他の野党に小選挙区での候補の一本化を呼び掛けているが、協議は難航している。

自民党が長く1強体制を維持できたのは野党がバラバラになり、弱体化したことも大きい。各党がそれぞれの政策を掲げて選挙に臨むのは政党政治の基本だ。だが同時に、自公政権に代わりうる政治の選択肢として有権者に認めてもらうには、緩やかにではあってもまとまった形をつくる必要があろう。

まずは各党が共通して主張できる政策を整理し、目指す社会像や政権獲得に向けた旗印を鮮明にすることだ。野党第1党として調整役を務める立憲民主党の野田佳彦代表の責任は重い。

政治不信が既成政党全体に及んでいるのは東京都知事選で浮き彫りになった。日本の民主政治を立て直す議論が必要だ。