斎藤兵庫県知事のパワハラ告発の元局長死亡 「つるし上げる」と維新議員から糾弾されていた

会見で厳しい表情を見せる斎藤知事(7月10日) 政治・経済

斎藤兵庫県知事のパワハラ告発の元局長死亡 「つるし上げる」と維新議員から糾弾されていた(AERAdot. 2024/07/13/ 11:00)

今西憲之 ジャーナリスト

兵庫県の斎藤元彦知事のパワハラなどを今年3月に告発した県西播磨県民局の元局長(60)が7月7日夜に死亡した。自殺とみられている。元局長は告発後、斎藤知事から「嘘八百」などと非難され、県人事課から懲戒処分を受けていた。県議会では調査特別委員会(百条委員会)を設置して告発内容の調査が始まったが、維新の議員の一部からは、元局長に対して厳しい声もあがっていた。

元局長は告発文書を報道機関や県議などにわたしていた。告発の内容は、斎藤知事のパワハラに加え、知事選での公職選挙法違反、県内企業からの贈答品の受け取り、阪神・オリックスの優勝パレードでの不正行為など多岐にわたっていた。

これに対して斎藤知事は、

「嘘八百含めて文書を作って流す行為は公務員として失格」
「被害届や告訴を含めて法的手続きを進めている」

などと元局長を非難。県は元局長を停職3カ月の処分にした。処分理由には公用パソコンを私的使用したことも含まれていた。

しかし、AERA dot.がこれまで報じてきたように、斎藤知事のパワハラを裏付ける証言が多く出てきている。他の疑惑についても真実性を認める証言がある。

県議会は、告発内容の真偽をただすため、6月13日に百条委員会の設置を決めた。6月27日の第2回会合では、7月19日の委員会に元局長に証人として出席を求めることを決めていた。

6月末に元局長に直接取材した際、

「百条委員会で語ることが兵庫県の未来のためになると信じている」

と前向きに語っていた。

その後、何があったのだろうか。

元局長が百条委に「申し入れ」

元局長は7月初めに、弁護士を通じて百条委員会に対して「申入書」を出していた。

〈(百条委員会の)委員の一人から人事課調査にかかる資料はすべて開示されるべきだとの発言があった〉

などと記され、内部告発と無関係の部分は百条委員会で公開しないように求める申し入れだった。

実は、6月14日の百条委員会の初会合で、維新の県議から、

「人事課による調査に対していろいろな疑念の意見が寄せられている。この審議過程を明らかにすることが必要だと思うので、人事課の調査、そこから得られた資料は全て開示をしていただきたい」

として、元局長の公用パソコンのデータすべての開示を要求する発言があった。

議会関係者がこう話す。

「元局長の懲戒処分を決めるとき、公用パソコンの中身を人事課が調査しましたが、私的なものも含まれていたようです。私的なことに公用パソコンを使用することはよくないですが、そこには内部告発とはまったく関係ないことも含まれる。それについては百条委員会で公開しないでほしいという申し入れでした。元局長の耳には、維新がすべての開示を求めているという情報も入っていたと思います」

また、複数の県議や県職員によれば、同じころ、維新の県議から、

「元局長をつるし上げてやる」

といった発言を聞いたという証言もあった。

斎藤知事は2021年の知事選で維新の推薦を受けた。大阪府の吉村洋文知事が何度も応援に入ったことも功を奏して当選。維新は県政与党として斎藤知事を支え、知事の疑惑を調べることになる百条委員会の設置については、自民の大半の県議が賛成にまわった一方、維新は反対した。

告発した元局長に「身勝手な論理だ」

7月8日午前、百条委員会は臨時で理事会を開催し、元局長の申し入れについて検討をした。この時点では、まだ元局長が亡くなったことは知らされていなかった。

その席上、理事を務める維新の県議から、次のような発言があったという。

「告発文書には、斎藤知事の自宅や好き嫌いなどの記述がある。プライベートなことを取り上げているのだから、(元局長が)自らの調査結果はプライベートな問題だから公開しないでとは、あまりに都合のいい身勝手な論理ではないか」

「パソコンの所有者は兵庫県、データも兵庫県のものだ」

元局長に対するあまりに厳しい意見に、自民の県議からは、

「告発相手のプライバシーに触れているから、元局長のプライバシーが守られる必要はないというのは暴論ではないか」

という発言もあった。

また、データをすべて公開することで「情報公開条例違反」や「民事上の損害賠償請求」などにも問われかねないとする意見もあった。

その後、論議が重ねられたが、維新の2人の県議が「すべて公開」の主張を変えなかったため採決となり、4対2で元局長の申し入れを受け入れることになったという。

「もう少し待ってくれれば…」

元局長と連絡をとっていた元県幹部がこう悔やむ。

「公用パソコンを私的に使ってはいけないのは当然ですが、緊急なことや個人的なメモを残すなどは、誰しもあるはずです。彼は県民局長という立場で部下も多数おり、様々な情報に触れ、対応する立場にあった。内部告発に関する情報提供者の割り出しや報復人事などを気にしたのではないか。私も幹部だったからわかるが、部下の不祥事や、表に出ると県政が大混乱するようなトラブルなどがあり、事情があって秘密裡に対応したこともあった。そういう内容は公用パソコンに残している場合もある。彼も同様の経験があったようで、『表に出ると頑張っている県職員の人事にもかかわり、迷惑をかける』と言っていた。だから自費で弁護士を雇ってまで、パソコンのデータを出さないように求めたのだと思う」

そして、7月初めに元局長と連絡をとった時の様子をこう語った。

「彼は『百条委員会がかなり強硬だが、すべてのデータを出すのはこらえてほしいと旧知の県議らにこっそりお願いした』と言っていた。県民局長だったのですから、情報網も広い。8日に百条委員会の臨時会が開かれることも把握しており、データを出せという結論になることを悲観していた。もう少し待ってくれれば非公開とわかったのに」

維新からも「知事はおかしい」

 百条委員会で元局長のデータ開示を強く求めた維新の県議に聞くと、

「元局長がお亡くなりになられたことは、驚くばかりでご冥福をお祈りいたします。理事会の発言については非公開ですので、内容は差し控えます」

と答えた。

斎藤知事は7月10日の記者会見で、元局長が亡くなったことについて問われ、

「百条委員会への対応など心理的な負担、プレッシャーがあったものと推察されます。どのような心理的な負担があったか、現時点ではわからない」

「県政を立て直していくこと。そして、日々の業務をしっかり前に進めていくことが、責任の果たし方だと考えています」

などと答えるにとどまった。

県職員労働組合は10日、斎藤知事の県政運営は「もはや県民の信頼回復が望めない状況」だとして、

「知事としてとりうる最大限の責任をとっていただきたい」

と知事に辞職を要求した。

県政与党として支えてきた維新の中からも、

「やっぱり斎藤知事はおかしい。もう斎藤知事ではもたない。維新も決断すべき時期ではないか」

と取材に対して話す県議が出始めた。

副知事は「5回、知事に進退迫った」

さらに12日、斎藤知事の側近である片山安孝副知事が「県政の停滞、混乱を招いた」として辞職を表明した。

会見した片山副知事は、

「知事も私と一緒に退職するお考えはありませんかと申し上げました。過去に4回と、昨日(5回目)、進退をお考えになりませんかと進言しました。知事は『県民の負託を受けた身なので任期を全うしたい』との返事でした」

と語った。

斎藤知事は同日夕の記者会見で、

「片山副知事の申し出はたいへん重い。一つの判断として尊重します。県職員との信頼関係を再構築し、立て直すのが私の責任の取り方」

などと辞職を否定した。

県職員、県政与党、副知事からも見放された斎藤知事。辞職のカウントダウンは始まっているようだ。

(AERA dot.編集部・今西憲之)

今西憲之 ジャーナリスト
大阪府生まれのジャーナリスト。大阪を拠点に週刊誌や月刊誌の取材を手がける。「週刊朝日」記者歴は30年以上。政治、社会などを中心にジャンルを問わず広くニュースを発信する。