日経平均急落、真の理由は「中東情勢の悪化」ではない? エミン・ユルマズが緊急解説

エミン・ユルマズ氏「地政学リスクは表向きの理由でしかなく、真の理由は別にある」 政治・経済

日経平均急落、真の理由は「中東情勢の悪化」ではない? エミン・ユルマズが緊急解説(楽待編集部 2024.4.19)

一時は1300円安の日経平均、どこまで下がると危険? 再び4万円台はあるのか

日経平均株価は19日に急落し、前日比で一時1300円安となった。

中東情勢の悪化を受けて投資家がリスク回避に走った結果、株価が急落した―。こうした見方が優勢だが、エミン・ユルマズ氏は、「地政学リスクは表向きの理由でしかなく、真の理由は別にある」と語る。その真意を詳しく聞いた。

日経平均急落の「真の理由」

日本時間19日午前、イランで爆発音が発生したと現地メディアが伝えた。その後日経平均は急落し、取引時間中に記録した3万6773円、終値の3万7068円はともに、2月9日以来およそ2カ月半ぶりの安値となった。

一方、低リスク資産には買いが集まった。金価格は急上昇し、新発10年物国債利回りは一時0.825%と1週間ぶりの低水準を記録した。この状況をエミン氏はどう見ているのか。

日経平均急落に、中東情勢はどう関わっているのでしょうか

無関係ではないけれど、真の理由ではないと考えます。思い出してほしいのですが、紛争が始まった2023年10月以降、株価はずっと上昇しています。地政学リスクだけが理由で株価が下がることはなかったんです。

株を手放したがっていたファンドマネージャーたちによって、地政学リスクが「売りの口実にされた」だけ。本当の理由は次の2つだと思います。

米国の利下げ観測後退

2023年10月以降、株価は上昇を続けてきました。これは米国の利下げ期待によるものです。利下げされれば新興国や日本は輸入物価の面で有利になり、インフレ圧力が弱まってみんな一斉に緩和に転じることができます。

米国は2024年中、5.5%から4%まで6度の利下げを行うものと予想されていました。しかし蓋を開けてみると、雇用統計を始めとし、あらゆる指標でインフレの数字が予想より強かった。

こんな状態では今年の利下げはないか、あっても1、2回くらいではないでしょうか。タイミングは9月がメインのシナリオですが、それもどんどん後ずさりしている状況です。

イメージとしては気球みたいなもので、「利下げ期待」という燃料が切れたから、株価を押し上げる理由がなくなってしまったのです。

半導体関連企業の見通しが弱い

これまで、NASDAQを中心とする米国の株価指数は、AI関連株や半導体関連株が引っ張ってきました。

今週に入ってから、重要な半導体企業が2つ決算を発表しています。1つはASMLというオランダの半導体製造装置の企業、もう1つは実際に半導体を実際に制作している台湾のTSMCです。

いずれも足元の決算は好調です。しかし、問題はガイダンスが弱いこと。つまり、需要が鈍化する見通しということです。

AIが盛り上がって、半導体が不足すると思ってみんな一斉に発注したものの、ここに来て勢いが尽きてしまった。需要を先食いしてしまって、これから軟化するということです。半導体不足が懸念されたパンデミックのときと似た状況だと思います。

当然ながら、日本の半導体銘柄も大きく下がっています。今日も東京エレクトロンやレーザーテックが大きく下がりました。米国でも同様です。NVIDIAも下がり出しました。

これら2つがあったうえで地政学リスクが起きると、株は売られやすくなる。これが日経平均急落の真の理由だと考えます。

地政学リスクは「売りの口実」にすぎない?

地政学リスクが起きると株が売られやすくなるのはなぜですか

機関投資家のファンドマネージャーの視点から考えてみてほしいのですが、売るためには何かしらの口実が必要なんですよ。

例えば持っているNVIDIA株が割高だと分かってはいるんだけど、そこで自分が売りの判断をした場合、後にNVIDIAが上がり続けていたらものすごく叩かれる。下手したらクビになります。

だけど、今回みたいにイスラエルとイランが攻撃し合っているとか、第三次世界大戦になるかもしれない…などの戦争リスクがあると、売る口実を得られるんです。それが大きく売られた理由じゃないかなと思います。

とはいえ、実際は戦争にはならないと思いますけれどね。皆さんすごく大げさに見ているけれど、実はお互いの急所を外しています。

イランが攻撃に使ったドローンは、イスラエルに行くまで何時間かかかると聞きましたから、いくらでも途中で落とせるでしょう。イランはハイテクのミサイルを持っているはずなのに、低技術のロボットやミサイルを使っています。攻撃することでイランのメンツは保たれ、イスラエルにも大きな被害は出なかった。

今回はイスラエルも応戦しましたが、イランの核施設ではなく別の所を攻撃しています。政治的な駆け引き、パワーポリティクスです。

だから少なくとも今は、イラン・イスラエル間での第三次世界大戦が起きるとは僕は思わないです。

みんな売りたがっていた、ということでしょうか

売りたいでしょう。割高だとみんな分かっていますから。売って自分のポジションを利確して、もう1回いいタイミングで入りたいんだと思います。

でもそれは持たざるリスクだからね。その手の大きい銘柄は、自分だけ取り残されていたら「なんで持っていなかったんだ」ということになりますから。

再び「4万円台」はあるのか

日本株への影響はどうでしょうか

過去のパターンから見ると、日経平均は一度大台を達成するとしばらく揉むんです。つまり、大台に乗ると一旦達成感が出て売りが出やすくなる。しばらく揉んでから、ちょっと大きめの調整が入って次のステージに行くという感覚です。

おそらく100日平滑移動平均線は、ちょうど3万7000円付近にあります。今日は一時3万7000円を割り、3万7000円付近で止まるという状況でした。

これは大幅な調整ではなくて、大きめのレンジの下限まで来たということではないかと考えます。だからここからもう一度反発して、また4万円付近まで行くと思います。これがしばらく続くと思ったほうがいいです。

4万1000円が天井、3万7000円あたりが下限だと私は見ています。上がって下がってを繰り返して、秋口まで揉むんじゃないかな。その間に大きい調整が入ればレンジブレイクするので、1回終わります。

過去に2万円達成したときには半年くらい揉んで、5000円調整したあと、翌年の2月に底打ちしている。3万円のときもそうで、ちょうど5000円調整しました。

今回はすでに4万円から4000円下がっているので、パーセンテージで考えるともうちょっと調整幅が強くなる可能性もあるけれど、私は想定内の動きだと思っています。パニック売りが起きているとも思わない。

投資家は焦らなくてもよい、ということでしょうか

現時点ではね。3万7000円付近はレンジ内の下限ですが、3万6000円を割ったらちょっと心配したほうがいい。1回ポジションを外したほうがいいですね。

米国も日本も大型の調整が入るということになるので、もっと大きく下落する可能性があります。

「半導体バブルが崩壊したのでは」という指摘もあります

その可能性もあります。ただ、日本株は半導体関連株の影響だけではなく、どっちかというとバリュー株の割安是正で大きく上がってきました。

日本はどっちかというと、バリュー株の方がグロース株をアウトパフォームしていますから、日本は米国ほど半導体に影響がないんです。まあ良くも悪くも、日本は半導体企業がそんなに多くないですし。

金や債券などの低リスク資産を買うべきでしょうか

選択肢の1つではあります。ただし、コロナショック時に金を買おう、とはならなかったように、本当の暴落が起きると金も売られます。でも、下落幅が小さいので株ほど下がりません。

今の金の水準って、私は割高だとは全然思わないです。これだけインフラが起きていて、お金をジャブジャブに吸っている状況ですから。1オンス3000ドルでも、全然私は違和感はない。

最近のドル円の値動きをどう見ますか

しつこい円安ですよね。日経平均が高値から4000円下げてもドル円がビクともしないというか、むしろ上がっている。ある意味、為替と株の関係が薄れてきたんです。

歴史的な円安の中で、株が大きく下がっているのは珍しいですよ。少なくとも昔は株がこんなに下がっていたら、今日1円2円ぐらい円高になってもおかしくない。それなのに同じ位置に戻っていますよね。グローバル投資家さんは、もう完璧に「日銀は利上げできない」と見切っているんですね。

その中に投機筋もありますけど、今の円安というのは投機ではなく、ファンダメンタルです。止める方法は利上げしかない。ただ日銀は利上げしないと思うので、為替介入するかもしれません。

それもずっと「する」と言っていて、ある意味「するする詐欺」みたいなものだけど…。結果的にはまだ何もしてないでしょう。今後していったとしても、根本的な解決にはなりませんよね。

マイナス金利解除のタイミングも遅いし、円買い介入のタイミングも逃した。日銀の失敗だと思います。

今回の日経平均急落の理由を「米国の利下げ観測後退」と「半導体関連企業のファンダメンタル」と分析したエミン氏。

「(日経平均が)今後どうなるかを理解するためには、まずは今なぜ下がっているのかを理解する必要がある」と語る。情報収集を続け、冷静な投資判断を下してほしい。

(楽待新聞編集部)