「ウクライナは、あすの東アジア」危機感あおって防衛力強化を正当化する岸田首相、侵攻2年で日本も変わった(東京新聞 2024年2月24日 06時00分)
ロシアによるウクライナ侵攻後、岸田文雄首相は、軍備増強を続ける中国や核・ミサイル開発を強行する北朝鮮を念頭に、東アジアでも同様の事態が起こる恐れを繰り返し強調してきた。危機感をあおって防衛力強化の必要性を訴え、敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有や防衛費の倍増を推し進めるなど防衛政策を大きく転換させた。 (川田篤志、我那覇圭)
◆中国や北朝鮮をロシアに重ね合わせる首相
首相はウクライナ侵攻から4カ月後の2022年6月、アジア安全保障会議や北大西洋条約機構(NATO)首脳会議で「ウクライナは明日の東アジアかもしれない。そうした事態を防ぎ、自らを守るため抑止力と対処力の強化が必要だ」と主張した。力による一方的な現状変更を試みるロシアと、海洋進出を図る中国や北朝鮮を重ね合わせることで、防衛力強化を正当化しようとする思惑がにじんだ。
防衛省はウクライナが侵略された理由について「十分な防衛力を持たず、高い軍事力を持つロシアを抑止できなかった」と分析。日本も周辺国に「日本への侵攻は困難と思わせる防衛力を備える必要がある」との理屈を持ち出し、戦後の安保政策の大転換となる敵基地攻撃能力の保有や防衛費の倍増につなげた。
日本は戦後、憲法9条に基づく平和国家として、国際紛争を助長しないため、武器輸出に抑制的な姿勢を示してきたが、その立ち位置も一変している。
◆変わった武器輸出ルール、なし崩し的な拡大も
侵攻から1カ月後、交戦中のウクライナに対しても自衛隊の防弾チョッキなどを供与できるようルールを急きょ改定した。だが、自民党内では、それでは不十分として「欧米のような軍事支援をしなければ、日本が他国に攻撃された時に助けてもらえなくなる」とルールの大幅な緩和を求める声が高まった。
政府は昨年12月、武器輸出ルールを約10年ぶりに抜本改定し、これまで国際共同開発品を除き禁じられていた殺傷能力のある武器の輸出も条件付きで可能にした。ウクライナへの軍事支援で武器・弾薬の在庫不足に悩む米政府の要請を受けて自衛隊が保有する迎撃ミサイル「パトリオット」の対米輸出も矢継ぎ早に決定した。
日本が米国の在庫を補完し、米国のウクライナへの武器・弾薬の供与を後押しする形となり、他国には日本によるウクライナへの間接的な軍事支援と映る懸念がある。武器輸出のなし崩し的な拡大は国際紛争の助長にもつながりかねない。