岸田首相の重税路線は令和版の「貧乏人は麦を食え」か!? 公家集団「宏池会」らしい庶民感覚の欠如(AERAdot. 2023/09/13/ 06:30)
不況感は「リーマンショック以来」
今、SNS上では岸田文雄首相の「重税」に批判が渦巻いている。例えばX(旧Twitter)には《重税を課し、国民を苦しめつづける岸田首相》《国民に重税を課しガソリン高騰。物価高の中で対策もせずに消費拡大だと?》《収入が増えない国政で国民を苦しめながら、重税で税金むしり取るだけの存在》という怒りの声が次々と投稿されている。
国民から悲鳴が上がるのは当然だろう。たとえ給与が額面で増えたとしても、物価高には全く追いついていない。実質賃金は減少を続け、企業の倒産も増加しており、不況感は「リーマンショック以来」とも報じられている。社会保険料の負担も庶民には重くのしかかる。
国民にこれだけの負担を負わせていながら、政府の税収自体は増えていることも怒りの火に油を注いでいる。財務省は7月3日に昨年度の決算を発表したが、税収は消費税、所得税、法人税のすべてが増収となり、一般会計で71兆1374億円。一昨年度より4兆995億円の増収となり、3年連続で過去最高を更新した。
「宏池会」は政争が苦手
ところが、税収は増えても、減税の話は全く出ない。五公五民と言えば江戸時代の重税を指す言葉として日本史の教科書にも載っているが、Xでは「♯五公五民」というハッシュタグが拡散しているほどだ。
なぜ、岸田首相は国民の悲痛な声に耳を傾けないのか。そのひとつに「宏池会」というキーワードがたびたび上がる。
「自民党派閥『宏池会』(現在の岸田派)は、1957年6月に池田勇人元首相を中心に結成されました。池田のほかにも、大平正芳、鈴木善幸、宮沢喜一、岸田文雄という5人の首相を輩出した名門派閥です。うち池田、大平、宮沢の3氏が旧大蔵省のエリート官僚。それゆえ、宏池会は官僚出身の政治家が多いという伝統があり、いわゆる“政策通”が目立ちます。一方で、政争は苦手という評価が定まっており、『公家集団』とやゆされることもあります。SNSでは『岸田首相は財務省べったりの宏池会出身だから、庶民の苦しみが分からず重税を課すのだろう』などの批判も少なくありません」(週刊誌記者)
宏池会の生みの親である池田勇人元首相と言えば、「貧乏人は麦を食え」の放言があまりにも有名だ。これは大蔵大臣(当時)だった1950年12月に飛びだした。「経済原則を重視するという比喩」と擁護する見解もあるが、この年の3月には「中小企業の一部倒産もやむを得ない」との発言も猛バッシングされた。
「鬼よりこわい、ニッコリ笑って税をとる」
他にも会社経営者が資金繰りに苦しみ、一家心中が相次いだ際、記者団に「その種の事件が起こるのは当然」とコメントしたこともある。
こうした発言をみると、やはり「貧乏人は麦を食え」は本心から出た言葉である可能性が高い。実際、当時は“庶民の敵”というイメージも強く、「池田勇人、鬼よりこわい、ニッコリ笑って税をとる」という戯れ歌が流行したという。岸田首相の大先輩も「重税」で激しく批判されていたわけだが、岸田首相はまさに「貧乏人は麦を食え」という感覚を引き継いでいるのかもしれない。
政治アナリストの伊藤惇夫氏は「宏池会と言えば、吉田茂の打ち出した『軽武装、経済重視』の路線を継承し、国家予算においては財政規律を重視する派閥として知られています」と解説する。
「1975年、大蔵大臣だった大平正芳さんは赤字国債の発行に追い込まれました。彼は筋金入りの財政規律論者でしたが、当時は第1次石油ショックが猛威を振るい、日本経済は戦後初のマイナス成長に陥っていました。その際、大平さんが『赤字国債発行は万死に値する』と発言したのは有名なエピソードです。ただ、その意味では、果たして岸田さんは宏池会の伝統を受け継いでいるのか疑問もあります」
財務官僚を抑えられていない
たしかに、岸田首相が推し進める防衛増税は「軽武装、経済重視」という宏池会の路線とは相いれない。中国の脅威は無視できないにしても、今の経済状況では、防税増税よりも減税を求める国民が多いのは当然だろう。伊藤氏は「岸田さんはポリシーのない政治家なんです」と手厳しい。
「それはガソリン代のトリガー条項の発動を見送ったことに象徴されています。税金を取って補助金で戻すなんて手間ばかりかかって無意味でしょう。誰が考えても最初から税金を取らなければいいだけの話です。それができないのは財務省が反対しているからで、つまり、岸田さんは財務官僚を抑えられていない。ここで重要なのは岸田さんが財務省出身ではないということです。世襲の三世議員であり、政治家になる前は日本長期信用銀行(現・SBI新生銀行)に勤務していた“お坊ちゃん”です」
岸田首相は自民党内の各派閥に「いい顔」をしようと、派閥ごとの意向を政策に反映させる。そのため、何をしたいのかさっぱり分からない政策がならぶことになる、と伊藤氏は言う。
「岸田さんが宏池会の伝統に従って財政規律を強く打ち出せば、賛成する国民も少なくないはずです。もちろん反対意見も出るでしょうが、何より『これからの日本をどうするか』という健全な議論が巻き起こることが期待できます。ところが岸田さんが実際にやっていることは、何のポリシーもなく各派閥が訴えた政策を取り入れるだけ。結果として予算は膨れあがりますが、庶民の苦しい暮らし向きは何も変わらない。ネット上で『重税』という強い批判がわき起こるのは当然だと言えます」
首相に物申せる自民党議員がいない
そもそも「暮らしが苦しくて大変だ」という庶民の声は、国会議員が肌で感じるべきものだ。週末に選挙区へ帰り、有権者の声を聞くことが重要な仕事であることは言うまでもない。だが、自民党の議員から「有権者は生活苦に直面しているのだから、今は減税に向けて知恵を絞ろう」などの声が出ることはない。
「小選挙区制の弊害でしょう。中選挙区時代の議員は個人事業主のような存在で、支援者との距離は近く、党ではなく派閥に忠誠を尽くしていました。そのため政策や国家観をめぐって首相に意見することも珍しいことではありませんでした。ところが小選挙区制は党の代表として選挙を戦うので、常に党の顔色をうかがわなければ何もできません。個人事業主が小役人に変貌してしまったようなもので、今の岸田さんに物申せるような自民党の議員はいなくなってしまったのです」(伊藤氏)
このままいけば、「岸田文雄、鬼よりこわい、ニッコリ笑って税をとる」などと歌われるようになるかもしれない。