食糧危機に「無防備」なのは日本だけ…米国が穀物輸入国に変わると需給面に大ダメージ

小麦の収穫が激減のウクライナ(写真=2016年資料) 政治・経済

食糧危機に「無防備」なのは日本だけ…米国が穀物輸入国に変わると需給面に大ダメージ(日刊ゲンダイ 公開日:2022/10/19 06:00 更新日:2022/10/19 06:00)

表面的な事象ばかりにとらわれていると、本質(大きな流れ)を見失う恐れがある。

1970年代の2度のオイルショック(石油危機)は1973年の第4次中東戦争、79年のイラン革命がきっかけになったと、これはだれもが知っている。

しかし、意外に理解されていない事実がある。実は、現在のアメリカは原油、天然ガスの主要輸出国(シェール革命の効果)だが、70年代には一時的に輸入国に転落している。これが需給を悪化させたのは明白だろう。

今後、穀物市況(大豆、小麦、トウモロコシなど)、食品価格(パン、肉類など)が高騰する可能性がある。穀物輸出大国のウクライナ、ロシアの長引く戦争が主因か。

いや、それだけではない。何と、アメリカが2023年には穀物輸入国に変化する(米農務省)というのだ。輸出国が輸入国に変わる。これは需給面に大きなダメージを与えるだろう。怖い話である。

先進国(イギリス、フランス、ドイツ、オーストラリアなど)の多くは原則として食料を自給できる。まったく「無防備」なのは日本だけだ。日本は食料危機にどう対応するつもりなのだろうか。

加えて、近年は干ばつ、豪雨などの気候変動が激しい。今年は欧米の穀倉地帯を熱波が襲った。自然災害の発生は農業生産に打撃を与える。

穀物市況の高騰は牛、豚、ニワトリの飼料代にはね返る。暑いと、乳牛は乳の出が悪くなる。

ちなみに、アメリカでは朝食用ベーコンが14.4%、フランクフルトが18.3%、鶏肉が15.9%、タマゴが39.8%、牛乳が17.0%(8月実績)と、値上がりが著しい。朝食は一日の活力なのに。

■農林水産省は「みどりの食料システム戦略」推進も…

日本はどうか。いや~、心もとない。生産者の高齢化、減少傾向が止まらず、生産基盤の脆弱化(山間部は耕作放棄地だらけ?)が進行している。危機感を強めた農林水産省は食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションによって実現する「みどりの食料システム戦略」を推進しているが……。

関連法律の「みどりの食料システム法」が施行されたのは今年7月だ。EUは2020年5月に「Farm to Fork戦略」、アメリカは20年2月に「農業イノベーションアジェンダ」を策定、いち早く農業の改革に取り組んでいる。

杉村富生 経済評論家
1949年熊本県生まれ。明治大学法学部卒業。軽妙な語り口と、分かりやすい経済・株価分析などに定評がある。ラジオNIKKEI「ザ・マネー」にレギュラー出演。著書は「これから10年 株で『1億』つくる!」(すばる舎)、「株長者が絶対にハズさない『売り』『買い』サインはこれだ!」(ビジネス社)など多数。