「壊し屋」小沢一郎氏の狙いは泉健太代表への牽制だけか 関係者がいぶかしがる今後の離党の可能性(AERAdot. 2023/06/27 17:41)
筆者:宮原健太
政界の「壊し屋」が再び暗躍することになるのだろうか? 立憲民主党の小沢一郎衆院議員が最近になって動きを活発化させている。
6月16日に立憲内の議員らと共に「野党候補の一本化で政権交代を実現する有志の会」を立ち上げ、さらに国会会期末の21日には党内グループ「一清会」を発足させたと発表した。
小沢氏と言えば、1993年に自民党を離党し、新生党を結党するなかで非自民・非共産の細川護熙政権を誕生させ、55年体制を終わらせたほか、2012年には自らのグループに所属する議員を率いて民主党を離党し、民主党政権の崩壊を加速させたことから、「壊し屋」という異名がつけられている。
近年は2021年衆院選で比例復活に甘んじ、今年2月には20年以上にわたって続けた政治塾を休止させるなど、存在感の低下が指摘されていたが、近ごろ再び様々な動きを見せていることに、党内からは「今度は立憲を壊そうとしているのではないか」という懸念が漏れている。
16日に開かれた「一本化の会」の設立記者会見では、党内の衆院議員の半数を超える53人が会に賛同していると発表されたが、賛同者の中からも小沢氏の動きを警戒する声が聞かれた。
ある立憲中堅議員は「次期衆院選に向けて、野党の候補者の一本化を進めていく会を設立するという趣旨だけをメンバーから聞かされて賛同したが、蓋を開けてみたら小沢氏が中心にいて政局の動きが強いと感じられた。それで、『私の名前は表に出さないで欲しい』とお願いし、呼びかけ人から削ってもらった」と語った。
小沢氏の動きの裏にある政局とは何か。
その一つが共産党との候補者調整を巡る、立憲の泉健太代表と東京都連の対立だと言われている。
中道路線を目指し、連合を介した国民民主党との選挙協力を進めていきたい泉代表は、共産との候補者調整には否定的で、これまでもテレビ番組で共産との選挙協力は「やらない」などと明言。
東京では、これまで共産に配慮して候補者を擁立していなかった選挙区においても「なるべく候補者を立てるように」と都連幹部に発破をかけている。
一方で都連は、東京には共産票が一定数あり、選挙協力は有益であるとして、共産との候補者調整を進めていく方向で選挙の準備を進めていた。
しかし、共産は泉代表の方針に反発するような形で菅直人衆院議員のお膝元である東京18区に候補者を擁立すると発表。
この地域では、これまで市民連合を介した共産との共闘を全面的に進めることによって勝利を収めていただけに、都連内では動揺が走った。
都連幹部からは「候補者を降ろしてもらうために、次期衆院選に向けて、他の選挙区を5、6個共産に譲っても良いのではないか」という声が出ており、泉代表との路線対立はますます深くなっている。
また、都連では幹部らが松原仁衆院議員と立候補する選挙区を巡って揉め、最後は松原氏が立憲を離党してしまうという騒動も起きており、泉代表の都連への不信感がさらに強まっている。
こうしたなか、泉代表の方針を牽制するかのように立ち上がったのが「一本化の会」だ。
実際、会の設立にあたっては、共産との選挙協力を推進している都連の手塚仁雄幹事長が呼びかけ人集めに奔走し、会見では小沢氏の隣に座っている。
立憲関係者は「泉代表は次期衆院選について『150議席が必達目標、達成できなければ辞任する』と背水の陣を敷き、そのために全国で候補者を200人以上擁立すると明言しており、共産との調整は考えずにとにかく積極的に擁立しようとしている。しかし、小沢氏と都連の動きはそれにブレーキをかけるものになるだろう」と解説する。
21日に報道陣の取材に応じた泉代表は、「一本化の会」や共産との選挙協力について聞かれると「解散が少し先送りされたということで、全体状況は考えていきたい。どういう可能性があるのか、様々な選択肢を幅広に考えなければならないと思う」と述べ、候補者調整の可能性について言及するなど、以前よりも柔軟な姿勢を示した。
小沢氏の牽制が利いた形だが、一方で永田町内からは「小沢氏の動きは泉氏を牽制するだけで終わるだろうか」といぶかしむ声も上がっている。
そもそも小沢氏は、2021年に行われた立憲の代表選では泉氏を応援していたが、その際に約束していた人事上の処遇を反故にされたことから反泉路線となり、長く対立関係が続いている。
立憲関係者は「立憲の支持率が伸び悩むなか、場合によっては、また仲間を引き連れて離党する可能性もあるのではないか」と声を潜める。
また、小沢氏が活動を活発化させる一方、重鎮の選挙アドバイザーや、自身に近い大物記者と会い、情報交換を積極的にしているという情報もあり、すでに政局に向けて準備を進めているのではないかと言われている。
ただ、年内の解散・総選挙が有力視されている状況で、むやみに政局を起こしてしまっては、党を壊すだけでなく、反動で自身も壊れてしまうかもしれない。
はたして小沢氏が「壊し屋」として再び勝負に出るのか。永田町全体が固唾を呑んで見守っている。
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宮原健太 ジャーナリスト
みやはら・けんた 1992年生まれ。2015年に東京大学を卒業し、毎日新聞社に入社。宮崎、福岡で事件記者をした後、政治部で首相官邸や国会、外務省などを取材。自民党の安倍晋三首相や立憲民主党の枝野幸男代表の番記者などを務めた。2023年に独立してフリーで活動。YouTubeチャンネル「記者YouTuber宮原健太」でニュースに関する動画を配信しているほか、「記者VTuberブンヤ新太」ではバーチャルYouTuberとしても活動している。取材過程に参加してもらうオンラインサロンのような新しい報道を実践している。