岸田首相が主張する新解釈…専守防衛は「海外派兵しない」 過去の自民政権は「敵基地攻撃しない」だった

敵基地攻撃能力 政治・経済

岸田首相が主張する新解釈…専守防衛は「海外派兵しない」 過去の自民政権は「敵基地攻撃しない」だった(東京新聞 2023年3月28日 06時00分)

岸田政権は敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有を安全保障政策の大転換と認めながら、憲法に基づく基本方針「専守防衛」は堅持すると主張している。過去に「相手国の基地を攻撃しないこと」という専守防衛の明確な政府見解が出ているが、岸田政権は「『海外派兵』は許されないということだ」との解釈を持ち出した。

歴代政権が「憲法上許されない」と禁じてきた集団的自衛権の行使を容認した安全保障関連法の施行から、29日で7年。専守防衛の変質が続いていることに対し、野党や識者から懸念や批判の声が上がる。

◆専守防衛の変質が止まらない

「専守防衛」の具体的な説明には、1972年の田中角栄首相(当時)の国会答弁がある。田中氏は「防衛上の必要からも相手の基地を攻撃することなく、わが国土とその周辺で防衛を行うこと」と明言した。

共産党の志位和夫委員長は今年1月の国会審議で「専守防衛の考え方は敵基地攻撃と両立しない」と矛盾を追及した。すると岸田文雄首相は田中氏の答弁について「武力行使の目的で武装した部隊を他国へ派遣する『海外派兵』は一般的に憲法上許されないことを述べたものだ」と説明。自衛隊を海外派兵する場合は「相手の基地を攻撃すること」に該当するが、相手の攻撃を防ぐために長射程ミサイルを用いるのは「専守防衛の範囲内」と主張した。

◆菅義偉内閣当時の岸信夫防衛相が

岸田政権の見解は、70年代の政権の積み上げと継承を否定することにつながる。田中氏の答弁に先立つ1970年、佐藤栄作内閣の中曽根康弘防衛庁長官(当時)が専守防衛について「本土ならびに本土周辺に限る。攻撃的兵器は使わない」などと説明。三木武夫内閣当時の75年に刊行された「行政百科大辞典」でも、田中氏の答弁とほぼ同じ内容が記載されている。

21世紀に入っても、この解釈は引き継がれた。2004年度に防衛研究所がまとめた専守防衛に関する研究で「田中氏の答弁は、防衛上必要であっても敵基地攻撃を実施することを否定している」と認定している。

一方、今国会での首相答弁と同じ見解は、2020年11月に菅義偉内閣の岸信夫防衛相(当時)が示していた。この時期は、安倍晋三氏が敵基地攻撃能力の保有検討を求める談話を発表して首相を退任した後で、保有を見据えて説明を準備した可能性がある。

◆元内閣法制局長官「論理的に無理がある」

政府の説明の変化を追及した立憲民主党の小西洋之参院議員は「歴史の歪曲」と非難。志位氏も「時の政府が責任を持って答弁したものを投げ捨てるなら、立憲主義が成り立たなくなる」と批判した。

阪田雅裕元内閣法制局長官は本紙の取材に、田中氏の答弁について「憲法9条の下の『必要最小限度の実力行使』を担保するものだった」と指摘。岸田政権の見解に関しては「上陸して攻撃するのとミサイルで攻撃するのと何が違うのか。牽強付会も甚だしい。論理的に無理がある」と酷評した。