習近平氏が〝腹を固めた〟弱体化するロシア飲み込んだ「大中華帝国」 プーチン体制崩壊→親米政権誕生、中国が恐れる最悪のシナリオ

習主席(左)は、プーチン大統領のロシアを影響下に置く狙いなのか=20日、モスクワ・クレムリン 国際

習近平氏が〝腹を固めた〟弱体化するロシア飲み込んだ「大中華帝国」 プーチン体制崩壊→親米政権誕生、中国が恐れる最悪のシナリオ(zakzak 2023.3/25 10:00)

長谷川幸洋 ジャーナリスト

中国の習近平総書記(国家主席)が3月20~22日、モスクワでロシアのウラジーミル・プーチン大統領と会談した。習氏はプーチン氏と距離を置いたかに見えた局面もあったが、今回の首脳会談で、完全にプーチン氏との連携に舵を切った形だ。

それは、なぜか。

プーチン氏を応援するためではない。逆だ。習氏は「プーチン体制の下で、ロシアを中国の影響下に置くことが可能になる」と踏んだからに違いない。弱体化するロシアを飲みこんで、「事実上の大中華帝国」の創設を目指す腹を固めたのだ。

中露両国の間には一時、冷たい風が吹いていた。昨年9月15日にウズベキスタンで開かれた首脳会談では、プーチン氏が冒頭、習氏に「あなたの疑問と懸念は理解している」と言わざるを得なかったほどだ。ウクライナの戦況が悪化し、習氏は「ロシアが敗北するのではないか」と懸念していた。

今回の首脳会談で、習氏は一転して「プーチン支援」に踏み込んだ。中国外務省によれば、中露は共同声明で「両国は軍事的、政治的、その他の優位性を得るために、他国の正当な安全保障上の利益を損なう国家とそのブロックに反対する」と表明した。名指しこそ避けたが、米欧の西側ブロックを指しているのは明白である。

習氏には、プーチン氏と距離を保っている選択肢もあった。とりわけ、インドやブラジルなど「グローバル・サウス」と呼ばれる新興・途上国の支持を得るには、建前に過ぎなくても「中立の仲介者」という顔を維持していた方がいい。

会談直前には、国際刑事裁判所(ICC)がプーチン氏に対して、ウクライナからの子供の連れ去りに関与した疑いがあるとして、戦争犯罪容疑で逮捕状を出した。そんなプーチン氏と握手すれば、中国の評判にも傷が付きかねなかった。

にもかかわらず、あえて「プーチン支援」に舵を切ったのは、同氏を見捨てれば、ウクライナの戦場でロシアが敗北し、プーチン体制が崩壊しかねないからだ。まかり間違って、民主化・親米政権が誕生するような事態になったら、悪夢である。

ロシアの勝利は望めないにしても、なんとかプーチン体制の下で「弱体化するロシア」が生き残ってくれた方が、都合が良かったのだ。そうなれば、中国に依存する以外にロシアが生き残る道はないからだ。

西側の経済制裁を受けているロシアは、中国に格安で原油と天然ガスを提供する見返りに、民生用半導体をはじめ西側製品を供給してもらっている。戦後は、ますます中国依存が高まる。中国は対露貿易を人民元建てにするだけで、事実上、ロシア経済を手中に収められる。

中露国境に近いロシア内では、すでに中国人の経済活動が活発になっている。中国人ビジネスマンと結婚するロシア女性も増えている。彼女たちこそ、「頼りになるのは中国」と分かっているのだ。

その先にあるのは、ロシアを飲み込んだ「大中華帝国」の誕生である。

一方、岸田文雄首相はウクライナを電撃訪問し、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領と会談した。5月のG7(先進7カ国)首脳会議(広島サミット)を控えて、ギリギリのタイミングだった。行かないよりはマシだが、岸田首相が行ったところで、戦況が変わるわけではない。

米国では「ウクライナよりも台湾を支援せよ」という声も高まっている。「核なき世界」と「国際ルール順守」を叫ぶだけの岸田首相が、世界の大激動をどこまで理解しているのか、はなはだ心もとない。 (ジャーナリスト・長谷川幸洋)

長谷川幸洋 ジャーナリスト
著書『日本国の正体 政治家・官僚・メディア-本当の権力者は誰か』(講談社)で山本七平賞受賞。ユーチューブで「長谷川幸洋と高橋洋一のNEWSチャンネル」配信中